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63. レオンハルト領主館での手配と執事のお使い

【シルヴァラント領の領主レオンハルト視点】


シルヴァラント領の領主、

レオンハルト・シルヴァラント辺境伯は、

フォレットからの長い帰路を終え、領主館へ戻った。


玄関扉が開くと、

執事クラウスが出迎えてくれた。


「お帰りなさいませ、レオンハルト様」


「戻った。

……夕食は後でいい。それより先に執務室だ」


「承知いたしました」


レオンハルトはそのまま執務室へ向かった。


馬車の揺れで固まった身体を、長いソファに沈めて伸ばす。

「あぁ、疲れた」


だが、休息は数分だった。


脳裏に浮かぶのは、アレクとヒナの姿。


(……あの子たち、大丈夫か)


銀翼は信頼している。

A級冒険者であり、人格も保証できる。

だが――


(あの年齢で、あの力……そして、あの“可愛さ”だ。

正体が露見すれば、利用しようとする者が必ず現れるだろう


しかし、2歳で黒いオーラを浄化してしまう力を持っていたとは、驚きすぎた。

3歳であの回復魔法を使えるというのも驚きだ。しかも、魔力が多いときた)


それは、“敵国”や“王家の強硬派”だけではない。

あの可愛さで人さらいにも狙われることだろう。


この国の中にも、力を欲する者は多い。


(救世主になりえる黒いオーラの浄化や回復の力。前世の記憶。

鍵のように閉ざされた力……

どれも、政治の渦に飲まれれば終わりだ)


レオンハルトは拳を握った。


(守らねばならん。

あの子たちが“子どもらしく”笑っていられるように)


銀翼が依頼に出ている間、

冒険者ギルドに預けているとはいえ、

“冒険者に紛れて狙う者”が出る可能性は高い。


(護衛は必須だ。

ただし、目立たず、冒険者に溶け込める者でないと……)


そのための候補者を、

代官セルムと執事クラウスに出させた。


後日、机の上には名簿が並ぶ。


「まず、護衛か」


代官が一枚の名簿を差し出す。


「この中では、ジンが適任かと」


レオンハルトは目を細めた。


ジン――

かつて冒険者仲間に裏切られ、

ダンジョンで死にかけていたところを

“書類仕事から逃げていた自分”が拾った青年。


その後、

「強くなりたい」と言ったので、

冒険者復帰も視野に入れ、

療養中は、魔法の勉強を続けた。


完治する頃になると、

「自分は強くなって、今度はレオンハルト様をお守りしたい」と言い、彼は騎士となった。

今では頭角を現している。


(若く、騎士としての格式もまだ薄い。

その為、冒険者に紛れても違和感がない。

そして、忠義は本物だ)


ただし、

冒険者の中に身を置く以上、

過去のトラウマが任務に影響しないか、本人に確認する必要がある。


(……だが、あいつなら乗り越えるだろう)


次に、王城への書簡を取り出す。


(アレクとヒナの件は、

王に伝えねばならん。

だが、正式な手続きでは“余計な耳”に入る)


レオンハルトは筆を走らせる。


宰相の子飼いの商人は、

王城と領主家を繋ぐ“裏の連絡役”だった。


「王に極秘で謁見したいこと」

「緊急性が高いこと」

「返事は領主館の執事宛に」


それだけを簡潔に記し、

極秘の印章を押した書簡を封じた。


(……王家の中にも、

この件を利用しようとする者はいる。

慎重に動かねばならん)


次は……。


(フォレット周辺で、

アレクとヒナを狙う者がいないか、

最優先で洗い出す必要があるな。

アレクもヒナも能力を使った時には多くの冒険者がいたというし)


レオンハルトは、

影の部隊フクロウの名を思い浮かべた。


(あいつらなら、

“気配すら残さず”調べられる)


さらに、

フォレットの情報屋リゼにも依頼をかけよう。


彼女は表向きは喫茶店の店主だが、

裏では街の情報網を握る人物。


(銀翼にも恩がある。動いてくれるだろう)


クラウスとセルムは深く頭を下げ、

それぞれの手配に執務室を出て行った。


執務室に静寂が戻る。


レオンハルトは椅子にもたれ、

天井を見上げた。


「……あの子たちを守るために、

どれだけ準備しても心配が尽きないな」


本当は自分が護衛したい。

だが、領主という立場がそれを許さない。


(……あの子たちが泣く姿だけは、見たくない)


静かに呟く。


「アルフレッド……

お前のところの子どもたちは、みんなで守ってやろうな」


その声には、

領主としての覚悟と、

ひとりの“父”のような温かさが宿っていた。



【執事視点】


領主レオンハルト様がフォレットの街から戻られたのは、

日が沈みきった頃だった。


玄関扉が開いた瞬間、私は主をお迎えした。


「お帰りなさいませ、レオンハルト様」


「あぁ。……夕食は後でいい。先に執務室だ」


その声には、

いつもの覇気と威厳がある。

だが、長年仕えてきた私にはわかる。


その声の奥に、重い疲労と、深い憂慮が滲んでいた。


(……フォレットの街で、何があったのだ……)


レオンハルト様は、

“些細なこと”でも、豪快に笑い、表情を曇らせない方だ。

その方が、ここまで疲れた顔をして戻られるとは……。


私は静かに後を追い、執務室に紅茶を運んだ。


私は、一連の話を聞き終えると、思わず息を呑んだ。


(……なんということだ)


だが、驚愕を表に出すわけにはいかない。

執事とは、主の前で動揺を見せぬもの。


しかし、レオンハルト様の表情を見た瞬間、

胸が締めつけられた。


(……この方がここまで心を乱されるとは。

あの二人が、どれほど大きな存在なのか……)


***


翌日。

私はレオンハルト様から預かった

“極秘の書簡”を懐にしまい、街へ向かった。


向かう先は、表向きはただの雑貨屋。

だが、裏では宰相の“影の連絡役”として動く商人がいる。


店に入ると、

商人は私を見るなり、わずかに目を細めた。


「……これはこれは、シルヴァラント家の執事様。

今日は、どのようなご用件で?

及びいただけたら伺いましたのに」


「あぁ、先日、メイドが花瓶を割ってしまいましたね

かわりの素敵な花瓶がないか、見に来ました」


「……そうですか。では、奥のお部屋でお待ちください。

数種類の花瓶をお持ちいたしますね」


そうして、私は奥の部屋に行った。

そう。その会話は、合言葉のようなもので、

誰にも知られる事無く、要件を話すために、

買い物ですよという装いで防音付与がされている小部屋に向かうためのものであった。


奥の部屋に行き、扉を閉めると、

外の音が全くきこえなくなった。


私は静かに封筒を差し出した。


「極秘案件です。

宰相閣下に、至急お渡しください。

返答は、領主館の私宛に」


商人が封筒を受け取る手が、わずかに震えた。

そして、表情を引き締める。


「……承りました。

私の命に代えても宰相にお渡しいたします」


「ああ、よろしく頼む」


私は深く頭を下げ、

「いや、良い花瓶が見つかって助かったよ。また寄らせてもらう」

と、いいつつ、店を後にした。


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