【閑話】洋服屋のミミカと職人仲間
【洋服屋 ミミカ視点】
ミミカは、いつもように、洋服屋の朝の掃除をしていたら、扉の鈴が「ちりん♪」と鳴いた。
お客様の来店の音色。
入口の方を見ると、知っている顔があった。
「あら〜?フリードくんにクロムくん……って、えっ……」
視線の先にいたのは、
フリードの足にぴったり貼りついている
小さな天使×2。
アレクくんとヒナちゃんというらしい。
(……かわ……っ……!)
私の猫耳が、ぴこぴこ勝手に動いた。
尻尾もふわっと膨らんだ。
今日は、洋服を買いに来たそうだ。
“この子たちに似合う服を全力で探して見せる!!”
そんな中、アレクくんが私の耳をじーっと見ていた。
それに気づいたフリードが説明してくれる。
「ミミカさんは、獣人だよ。冒険者にもいるだろう?」
「うん。ぼうけんしゃにも、いるけど、こんな、かわいいひと、いなかったよ」
「みみかしゃん、かわい~」
褒められて、ミミカさんの猫耳がぴくっと動いた。
(……にゃ、にゃにかしら!この天使!)
そしてアレク君が続けて言った。
「みみかさんのねこみみ、みたいな、
かわいいねこみみがフードについた、まんと……ないんですか?」
……はい?
一瞬、脳がフリーズした。
(ねこみみ……フード……マント……?
アレク君に猫耳フード?
なにその可愛すぎる天才的発想……!
なんで今まで思いつかなかったの私!?
自分にも猫耳ついているけど、
そういった発想をしたことが無かったわ)
自分の耳を触りながら、ヒナちゃんを見る。
選んであげた洋服を気に入って、鏡の前でくるくる回ってる。
楽しそうに笑ってる。こっちの天使も可愛すぎるわ?
あの子にも……猫耳フード付きマントを着せたら……。
私の中の何かが爆発した。
「ちょっと待っててねぇぇぇぇぇ!!」
気づいたら、店の奥に全力疾走していた。
***
布を引っ張り出し、型を作り、布を切り、針をさす、
気づいたら手が勝手に動いていた。
(これ……絶対似合うわ……!)
自分が高揚しているのが分かる。
最高に気分がいいわ!
作りたい!作りたい!心が叫んでいるようだ。
息を切らしながら戻り、
ヒナちゃんにそっと羽織らせた。
次の瞬間。
世界が変わった気がした。
今、私はこの子しか見えない……。
可愛すぎて苦しい……。
自分が作ったものが、
この子にこんなにも似合ってしまうなんて!
あの高揚感もそうだが、
まるで創造神様に“作れ”と背中を押されているようだった。
「ひな、すっごくきにいった!!」
鏡の前でくるくる回るヒナちゃん。
ふわふわの猫耳が揺れるたびに、
私のHPがゴリゴリ削られていく。
(だめ……可愛すぎて……死ぬ……)
フリードくんもクロムくんも悶絶している。
そして次、ドキドキしながら、
アレクくんにも、フェンリル耳マントを着せてみた。
「……似合う……!」
思わず声が漏れた。
(なんでそんなに似合うの!?
なんでそんなに可愛いの!?
なんでそんなに尊いの!?)
私は震えながら言った。
あぁ。幸福感で心が痺れる。
結局その日は、耳付きフードマントの仮縫いだけした。
完成したら、連絡することにして、
下地、布、リボンなど、吟味してお渡しする完成品を作成した。
手が止まらず、飲まず食わずで集中してしまった。
完成後、どっと疲れが出て、
食事と睡眠をとった後、完成の連絡をした。
完成品は、仮縫いの時より、似合っていた。
よりふわふわ。より幼児の可愛さを引き立てた。
ヒナは嬉しそうに飛び回り、
アレクくんは、嬉しそうに、でも少し恥ずかしそうに、フードの前をちょんと引っ張った。
その姿がまた、とても可愛らしかった。
「このマント……料金はいらないわ……!
その代わり……街を歩いて……宣伝してちょうだい……!」
アレクくんとヒナちゃんは
ぱぁっと笑った。
「おさんぽするね!」
「ひな、これきて、あるく!!」
(あぁぁぁ~~~~~~~~!!!
天使が……耳付き天使が歩く……!
街が……可愛さで騒ぎにならないか、心配だわ……!!)
私は胸を押さえながら、
2人を見送った。
***
よく朝。いつものように開店準備をしていたら、
店の前に人だかりができていた。
「昨日の猫耳マント、ここで買えるってホント!?」
「フェンリル耳のやつ、うちの子にも欲しいわ!」
「予約できますか!?」
「色違いは!?」
「クマ耳のが欲しい!!」
「若い子用は!?」
「私もネコミミのが欲しい!!」
私は固まった。
(……え?え?え???)
気づけば、店の中は大混乱。
急いで注文書を作成。
気が付くと、注文書が山のように積まれ、
その量に愕然とし、
急遽職人仲間を呼び、追加で人を雇った。
そして毎日夜遅くまでマントを作り続けた。
鏡を見ると、
目の下にクマができていた。
でも――
尻尾はずっと、ふわふわ揺れていた。
今、この街の流行を作ったのは私だという、高揚感がおさまらない。
大まかなデザインはアレクくんだけどね。
(アレクくん……ヒナちゃん……
あなたたちのおかげで……
店が……街が……大騒ぎよ……!
でも、忙しすぎるけど、嬉しいの。ありがとう……!
そして……また可愛いのデザインを思いついたら教えてね!そして作らせてね……!)
【ミミカの職人仲間視点】
夜、職人仲間のミミカから人員ヘルプの連絡が来ていた。
職人仲間では、誰か大きな依頼や人手不足があった場合や、
仕事が少ない場合に下請けとして仕事を回したりと、
助けられる範囲でのお互いに助け合いをしている。
これは同盟のようなもの組むことで、職人たちを守るシステムでもあった。
さっそく、次の朝に、詳しい話を聞く為、
店に入った瞬間、私は違和感を覚えた。
(……なんか、空気がざわついてる?熱気を感じる?)
出てきたミミカが、目の下にクマを作りながら
尻尾をふわふわ揺らしていた。
「お、おはよう……ミミカさん……?」
「おはようぉぉぉぉ!!来てくれてありがとうぉぉぉぉ!!!
マント作るわよぉぉぉ!!」
(テンションが……おかしい……)
どうにか落ち着かせて、状況を聞く。
示された机の上には、
見たことのない量の注文書が山積みになっていた。
「……え?なにこれ?全部マントの注文書?」
「全部、“あの子たち”のおかげなの!!」
「今、私はこの街の流行を作っているの!!」
ミミカが叫んだ。
(あの子たち……?)
***
ミミカが説明してくれた。
昨日、アレクくんとヒナちゃんが
耳付きマントを着て街を歩いたら――
街が大騒ぎだったらしい。
2人の耳付きフードマント姿に見とれて、看板につまずく人。
胸を押さえてうずくまる人。
冒険者ギルドの受付嬢も悶え、可愛さのあまり昇天した。
(……いや、何それ……)
そして、こうなった。
「昨日の猫耳マント、ここで買えるってホント!?」
「フェンリル耳のやつ、うちの子にも欲しいわ!」
「予約できますか!?」
「色違いは!?」
「クマ耳のが欲しい!!」
「若い子用は!?」
「私もネコミミのが欲しい!!」
昨日も同じように人だかりができていたとか。
(……うん、地獄だね。私もこの地獄に仲間入りするのね……)
私は深呼吸して言った。
「……よし、やるか」
ミミカが涙目で頷く。
「お願い……!私一人じゃ無理なの……!」
「わかってるよ。
でもさ……ミミカさん……」
「なに?」
「なんで……こんな可愛いデザイン思いついたの……?」
「アレクくんが……考えたの……!」
(その子……天才か……?)
布を切る。耳を縫う。
フードを作る。希望者には魔法付与をするが、
それは魔法付与のお店に依頼をする。
(……あれ?)
作ってるうちに気づいた。
楽しい。
めちゃくちゃ忙しいのに、
めちゃくちゃ楽しい。
「ミミカさん、次の猫耳できたよ!」
「ありがとう!次はフェンリル耳お願い!」
「了解!」
尻尾が勝手に揺れる。
(……これ、完全に“可愛いの魔力”だ……)
休憩中、別にヘルプで来てくれた職人が声をかけてきた。
「ねぇ……見たのよ……」
「何を?」
「ヒナちゃんが……猫耳マント着て……嬉しそうにはしゃいでた……」
職人は胸を押さえた。
「……可愛すぎて、可愛死にするかと思った……」
「わかる……」
「アレクくんも……フェンリル耳が……似合いすぎて……」
「わかる……」
「街の人が木にぶつかって倒れるのも……わかる……」
「わかる……」
気づいたら、2人で机に突っ伏していた。
そして、やっと未作業の注文書が半分くらいなって喜んでいると、
店の外から声が聞こえた。
「すみませーん!注文できますかー!?」
「昨日のマント見ましたー!めちゃ可愛かったので、私も欲しいです」
「うちの子にも欲しいですー!」
(……また増えた……終わらない……)
ミミカが笑った。
「ふふ……でもね……嬉しいの……」
「わかるよ。
だって、あの子たちが喜んで着てくれたんだもんね」
「そうなの!!
あの子たちが歩くだけで……街がその可愛さで、幸せになるの……!」
(……やっぱり正体は天使か?)
(アレクくん、ヒナちゃん……
あなたたちのおかげで、私たちは今日も忙しくて、
今日も眠れなくて、今日もクマができるけど……
でも……本当に楽しいのよ……!)
(可愛いは正義だものね……!)




