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57. ジークの意外な弱点ともうすぐフォレット

森の野営地に戻ると、焚き火のそばで丸くなっていたリオンが、

ぴくりと耳を動かした。


「リオン、早いな。もう終わったのか?」


リオンはのそりと顔を上げ、尻尾をゆらりと揺らす。


「あぁ。ジーク、お帰り。終わったぞ。森の中ほどまで全部……な……」


「ん? 森の中ほど“まで”全部?」


「うむ。森に精霊がたくさんおっての。

奥の方にいた精霊も、住処を魔物に奪われて不満が溜まっておったらしい。

よい口実にされたわい。

おかげで我は、ほとんど戦闘できんかったぞ」


ジークは苦笑した。


「……ははは。まあ、これで帰れるならありがたいことだな」


「そういってくれるとありがたい」


ふたりはしばらく、静かな森の風を感じながらのんびりと過ごした。

陽が落ち、空が茜色から群青へと変わっていく。


ジークはふと立ち上がり、空を見上げた。


(もう少ししたら、みんな帰ってくるだろう。

疲れてるだろうし……夕飯、作っておくか)


ジークは収納袋からキッチン用品を取り出し、

慣れた手つきで鍋を置いた。


リオンは首をかしげる。


「ジークが料理とは珍しいのぉ」


「以前はたまに作っていたんだがな。

『リーダーは休んでてください』とか、

『料理は俺たちがやるから』なんて言われてな、それ以来作る機会が無かった。


でも今日は、みんな疲れて帰ってくるだろう?

せめて温かい飯くらいは用意しておきたいと思ってな」


リオンは素直に感心した。


「ジークは優しいのぉ」


ジークは照れくさそうに笑い、野菜を刻み始めた。


――だが、問題はここからであった。


ジークは鍋に野菜を入れながら、

何かを思い出したように呟いた。


「みんな、魔物との戦いで疲れてるだろうし……

今日は“体にいいもの”もたっぷり入れてやるか。

きっと元気も出てくるだろう」


リオンの耳がぴくりと跳ねた。


「……体にいいもの?」


「そうだ。森の中で薬草を見つけてな。

昔はケガも多かったから、ケガに効く薬草や、毒や麻痺に効く薬草、

新陳代謝をよくする薬草や疲れに効く薬草など、

いろいろ勉強して薬草採取なんかもしたんだ。

今日、森で何種類か見つけて、

せっかくだからと多めに摘んでおいた。摘んでおいてよかった

これも入れよう」


リオンは、寒気を感じた。

(……なんか、嫌な予感がするのぉ)


ジークは真剣な顔で薬草を刻み、

鍋にどさっと投入した。


「よし、味見だ」


スプーンで一口。


「……うん。悪くないんじゃないか?」


リオンは漂ってくる匂いに眉を寄せる。

(こ、これは……このまま作らせてはまずいのではないか?)


ジークは満足げに頷き、さらに薬草を追加した。

「こっちの薬草も少し入れようか。体が温まるだろう」


リオンは、このままでは味見をしてくれと言わるだろうと思い、

寝たふりをする。


「これで完璧だ。みんな喜ぶだろう。

リオン、味見お願いできるか?」


リオンは聞こえないふりをする。


「リオン……寝ているのか。疲れただろうかなら。そっとしておいてやるか」


リオンは知らなかった。

あんなになんでもこなす頼もしいリーダーのジークの弱点が、料理だなんて。

しかも、いわゆる余計なものを入れる”アレンジャー”だったなんて。


(だから、皆が料理をさせないようにしておったのだな。

だが、残念だ。もう出来てしまったぞ……。

皆、すまぬ……。我は知らなくて止められなかったのだ……)


その時、森の奥からぞくぞくと声が聞こえてきた。


「ただいま!戻ったぞー!お!ジークとリオンがいる!早えな」

「戻りました。疲れましたー」

「つっかれたー!でも、魔法いっぱい使えて満足!」

「おなか……すいた……」


ジークは満面の笑みで鍋を掲げた。


「オルガ、エルミー、フリード、クロムおかえり!

タイミングいいな。ちょうど今、夕飯が出来たところだぞ!」


銀翼メンバー

「「「「…………」」」」


オルガはリオンを見る。

もう味見をさせられたのかと思ったが、

危機を察知して寝たふりをしているようだ……。


(尻尾が少し震えてるぜ。一人逃げは許さないぜ。

それにしても、もう少し早く帰ってくればよかったな……)


エルミーは鍋をじっと見つめる。

(今日は……何を入れたのだろうか。森だし、薬草だろうけど……。

誰でしょう、薬草の知識を教えたのは……。

私……でしたね……)


フリードは体が緊張で固まる。

(や、やばい!無事に帰れると思ったのに……。

まさか、味方にやられることになるとは……。

し、しかも、ジークに……)


クロムは挙動がおかしくなっていた。

(……胃薬……持ってくればよかった……。

僕、生きて帰れるかな。

でも、ジークさんが僕たちの為に作ったんだ。

食べないなんて選択肢は……ない……)


ジークがリオンの方を向く。

「リオン、夕飯できたぞ。

あれ?寝てるのかな?

疲れているんだな。そっとしておくか……」


リオンは気づかれないように、寝たふりをきめる。

誰にも気づかれないように、慎重にゆっくり呼吸をする。

よし!危機を回避できた…と、思った。


だが、そんなリオンに近づく者がいた。

オルガだ。


「リオン!起きろー!夕飯だぞ!」

そして、小声でリオンに言う。

『リオン、寝たふりしているのは分かっているぞ。一緒に……食おう……なー!』

その小声は怒気を含んでいた……。


「う・・・うーん!よ、よく寝たのじゃ!」

リオンは、寝たふりでやり過ごそうかと思ったが、だめだったので、

諦めて『今起きました』な、感じで起き上がった。


ジークは、みんなの器にスープをよそい、パンを配る。


「ジーク、ありがとう。いただくとするか!」

オルガが意を決して器に注がれたスープを一口――


ごくっ。


……しん……。


オルガの動きが止まった。


「オルガ? どうした?」


「…………」


オルガは、ゆっくりと目を閉じた。


(……これは……戦闘よりつらい……!)


そして、オルガは目をカッと見開いて、

スープを一気飲みした。


「オルガ、そんなにお腹が空いていたのか?

お代わりあるぞ?」


「いや、もう大丈夫…だ。パンが…あるし」

今にも震えそうなその腕をそっと抑え込む。


そんなにお腹空いていたのか?とジークが笑っている。


そんなオルガを見た他のメンバーは青ざめている。

そして、皆オルガを心の中で称賛した。


エルミとフリードとクロムも、

「「「いただきます!!」」」

気合を入れて、スープを一気飲みした。


…………。


「ゆっくり食べろよ」

ジークが優しく言う。


エルミーは、体を抱きしめながら耐える……。

(こ……今回のは……特にひどい……。

ふ……震えがとまりません……。

薬草中心らしいが、これは入れ過ぎだ……。

それも、数種類入れているらしい味だ……。

体にいいからってこんなに入れたら、かえって体に悪いのでは?)


フリードとクロムの年少組も、

大好きなジークが作ったスープだ。

残すまいと一気に飲んだ。


『やばい……やばい……やばい……

オレ、気が遠のいてきた』


『ぼ、僕も……』


2人で小声で会話をする。


「ジーク……おいしかった……ありがとう…」

「ジーク……ありがと……」

お礼も言い切ったぞ!

2人はやり切った!


リオンも震えそうな体を我慢して、

一気に……リオンはフェンリルである。器を持って一気には飲むことができない……。


とにかく、どんなものか、ひとなめしてみた。

(……!!!ぐ……これは……いかん……)


フェンリルは鼻もいい。ひとなめしただけで、スープの香りが鼻にのぼってくる……。


リオンが倒れた……。

その後、フリードとクロムも力なく倒れた……。

その後、エルミーが森へ駆け出した。


「おい!リオン!フリード!クロム!どうした!!

オルガ!大変だ!3人が倒れた!エルミーも突然森に走って行ってしまった!

いったいどうしたんだ?」


ジークがオルガの顔を見ると、

オルガの顔は真っ青だった。


「……!!オルガ!」


「す……すまない」


そういって倒れた。


ジークが慌てる。

「おい!オルガ!!しっかりしろ!何があった!!」


「お前の飯がまず……すぎた……」


ガクッ。

オルガは意識を手放した……。


「え…………。そんなにか?」


ジークは、鍋のスープをスプーンですくい、飲んでみる。

「うーん。確かにおいしくはないが、飲めないこともないと思うんだがな……」

ジークの味覚が感じる”食べられる”許容範囲はものすごく広かった……。


そして昔言われたことを思い出す。


「あー。そういうことだったのか。

昔、料理を作った時に、『リーダーは疲れただろうから座ってて』なんて言ってたのは、

実はこういうことが理由だったのか……。言えばよかったのに『まずいから作るな』って。

それに、あんな必死に食べなくてもよかったのに。気を使わせてしまっていたか。

悪い事したな……」


ジークは何年越しに、料理が出来ないことを自覚した。

今までは得意ではないができると思っていた。

少し落ち込んだ。


そして、まわりをみてつぶやく。

「魔物、倒しておいてよかったな……」


森からエルミーが帰ってきた。

その足取りはふらついていた……。


みんなが倒れていることに気づいて『あー耐えられなかったか』と思った。


ジークがエルミーに気づき誤る。

「エルミー、悪かったな。その……俺は……料理は今後しない」


エルミーは落ち込んでいるジークを笑って肩を叩く。

「いや。気持ちはすごくうれしかったですよ。私たちを思って作ってくれたのだから。

料理は……少しずつみんなで教えますね」


その言葉にジークは顔を明るくした。

「あぁ!頼む!」


それから2時間ほどしたころ、

みんなが起き出した。


それに気づいたジークが皆に謝る。

「みんな、その……悪かった。料理が出来ないことは理解した。

今後は1人では料理をしない。ただ、少しずつでいいから料理を教えて欲しい」


オルガは笑いながら

「そっか。わかっちまったか。あ、俺が言っちまった気がする……。

でも、俺たちの為に作ってくれた、その気持ちは嬉しかったぜ。

こっちもちゃんと言えずに悪かったな。

俺も、料理教えっから」


フリードとクロムも申し訳なさそうにジークの方を向いている。

「ジーク、オレもちゃんと言えなかったから、ごめんなさい。

傷つくんじゃないかと思って、なかなか言えなかった……。

それに、その気持ちは嬉しかったし。

オレも料理教えるね!」


「僕も、ちゃんと言えなかったからごめんなさい。

ジークのこと大好きだから、大好きなジークが作ってくれたものだから、ちゃんと食べたかったんだ。

今回倒れちゃったけど。

僕も今度一緒に料理作るよ」


リオンが最後に起きだす。

「あのジークがのぉ。誰でも苦手なものはある。

ジークにもそういうものがあるってことを知って、面白かったぞ」


リオンはそう言って、笑い飛ばした。


ジークは心が軽くなった気がした。

そして、自分の料理レベルの低さを自覚し、みんなに励まされ、今後に活かそうと思った。


「もう遅いから、今日はこのまま休もう。そして、明日の朝、フォレットに帰ろう。

ちびたちが泣き出す前にな」


オルガが笑いだす。

「そうだな。まあ普通に帰っても、泣き出すだろうがな。あははははっ」


エルミーも笑みがこぼれる。

「そうですね。

今頃……、何をしているのでしょうねー」


フリードもアレクとヒナを思い出す。

「そうだね……。

ギルマスに引っ付いて、仕事のジャマしてるかもね」


クロムも2人を思い出す。

「早く会いたいな」


こうして、次の日の昼すぎ頃にはフォレットの街が見えてくるところまで帰ってきた。


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