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56. 領主の到着とひよこたち

シルヴァラント領の領主、レオンハルト・シルヴァラント辺境伯は、

馬車でフォレットの街の近くに来ていた。


街道では、何組もの冒険者とすれ違った。

「フォレットは冒険者の街だからな、冒険者が多いな

なんだか懐かしい光景だな」


「領主様、お待ちしておりました。

どうぞお通りください」


門を通って、レオンハルトは冒険者ギルドの前に到着した。

馬車を降り、冒険者ギルドに入ると、その風景はなつかしさのあまり、

思わず、冒険者だった頃の自分を思い出す。


受付カウンター、依頼掲示板、酒場、むさくるしくてうるさい冒険者たち。

「懐かしいな……」

ぽろっと本音をこぼした。


そんなレオンハルトに受付嬢が気づく。

「領主様、お待ちしておりました。

ギルドマスターを呼んできますので、少々お待ちください」


「ああ。急がなくていいぞ」


まわりの冒険者がざわざわし出す。

そこに、ギルドマスターが来た。


「領主様。ようこそお越しくださいました。

こちらへどうぞ」


ギルドマスターがレオンハルトとギルドマスター室に案内する。

途中、何も話さず、扉を開け中に入り、ドアを閉めると、

外のざわめきが遠のく。


「よぉ!レオ!よく来たな!」

「あはは。アルも今回は大変だったみたいだな!」


急に言葉遣いが親友のものになる。


お互いにソファーに座ると、

事務員の人がお茶を持ってきて出て行った。


お互いにお茶に口を付け、一息つく。


「悪かったな。急にとんでもないこと頼んじまって」

「いや、あれは、アル一人じゃ無理だろ。

しかし、驚いたぜ。幼児って。今ギルドにいるのか?」

「あぁ、いるぞ。その前に、報告書にも書けないことと、

その後に追加で報告しなけりゃならんことが増えてな」

そういって、アル(ギルドマスター)が肩を落とす。


「はは。なんか怖いな。聞くぞ」


「どう守るかを相談するにあたって、言わねばならんことがある。

あの2人は、転生者で、愛し子だという。

兄のアレクが”神の愛し子”で妹のヒナが”世界の愛し子”だそうだ」


「それは誰から?」


「神獣フェンリルのリオン様だ。

まあ、本人も創造神様に2人を守るようにいわれて来たらしい」


「それじゃあ、あの2人に何かあったら、神罰が当たりそうだな……」


「あぁ。それにな、あの子らは、

健気で一生懸命でいつもまわりを守ろうとするいい子なんだよ。

だから、守ってやりたいんだ……」


「なるほどね。会うのが楽しみだ」


「あとな、……幻獣も来た」


「ん?」


「……幻獣も来た」


「は?」


「だから、神獣の次は幻獣も来ちゃったんだよ。

幻獣カーバンクル。もふもふでもちもちで可愛いんだ!」


「わ、わかった。可愛いのは分かった。

なんでまた幻獣までもが来るんだ?」


「それは銀翼のフェンリルのパーティーが、

直接話してくれるそうですが、

どうも、今回の黒いオーラの浄化方法は、

その幻獣がヒナに教えたそうなんだ」


「……ちょっとまってくれ、もう、頭が痛くなってきた……」


「だろ?俺は毎日痛いぞ。それに胃に穴が開きそうだ……」


「聞くのが気が重くなってきた」


「数日後、冒険者ギルドのグランドマスターも到着予定です。

その時に、銀翼のフェンリルのリーダーのジークが話すそうなので、

それまでは、2人の様子を見てやってくれ」


「わかった」


その後、2人はアレクとヒナがいる、訓練所に向かった。


***


レオン(領主)とアル(ギルドマスター)が訓練所に着くと、

アレクは回復魔法の訓練の為、訓練でケガをした人を診ていた。


訓練で肩を痛めた冒険者のようだ。


「アレクくん、肩痛くて……」


アレクは小さく頷き、

その肩にそっと手を当てた。


その瞬間――


周囲がふんわりと金色に光った。


「……うん……」


「ここ……ちょっと……いたい……

倒れた時に……ぶつけたの……かな……?」


「えっ!? なんで分かるんだ!?」


「わかるよ……

からだの……まりょくの“ながれ”が……ちがうから……」

幼い声なのに、

その言葉は落ち着いていた。


「じゃあ、なおすよ」


「アレクくん、お願いします!

「……なおれ……」


淡い光がふわりと膨らみ、冒険者の肩を包み込む。


「……あ……痛みが……消えた……

アレクくん、ありがとう。たすかった!」


「うん」

「おだいじにしてくだしゃい!

ちゅぎのかた、どーじょ!」


ヒナは、すっかり看護師さんなりきって手伝いをしている。


次は、魔法使いが来たようだ。

「魔法の訓練中、暴発して、それ以降、魔力が乱れたまま戻らなくて」


「わかった!みてみるね」


アレクは手をかざした瞬間、眉をひそめた。


「……うん……

この人……“なか”が……ざわざわしてる……

まほう……つかいすぎ……」


「えっ……それも分かるのか……?」


「……うん……

つかいすぎて、まほうの“いと”が……からまってる……」


「いとー?」


「ほどくの……すこし……たいへん……」


アレクは深く息を吸う。

そして――

そっと冒険者の胸に手を当てた。


「……まほうの”いと”……

ゆっくり……ゆっくり……ほどくよ……むむー」


光が“糸をほどくように”ゆっくり、ゆっくり流れ込み、

乱れた魔力が整っていく……。


「……はぁ……あれ?なんか楽になった……!」


「よかった……

でも、きょうは……まほうはおやすみ……したほうがいい

おやすみもだいじ」


「う、うん……ありがとう……アレクくん!」

「ん!」

「おだいじにー!」


そこには、どんどん冒険者を癒していく、立派な回復師がいた。


「これは驚いた。本当に子供じゃないか。

なのに、なんていう高度な回復が出来るんだ!

魔法の乱れなんて、普通の回復師でも、回復には相当時間がかかるもんだ。

なのに、すぐ治しちまいやがった。すげーな」


「あぁ、欠損も治しちまうからな。」


「こりゃあ、貴族が知ったら欲しがるだろうなー……。

『実は自分の子だ』なんて言い出す貴族も出そうだな」


「あぁ」


「それで、その隣にいく妹ちゃんが”ヒナ”か」

「あぁ、そうだ。黒いオーラ、叩いて浄化しちゃうやつな。

これは、実際見てもらった方がいいが、そうそう黒いオーラにやられて担ぎ込まれるやつもいないからな。

こっちにいる間に、そんな奴がいたら見てもらうことにしよう」


「あ!ぎるますだ!」

「ぎるましゅ!」


「おー。お疲れさん。今日はもう終わりか?」


「うん。つかれちゃったから、きょうは、もうおしまい!

おきゃくさん」


「あぁ。領主の辺境伯レオンハルト・シルヴァラント様だ」


「アレクくんとヒナちゃんだね。初めまして!

頑張っていて偉いな。でも、無理はしないようにな」


「うん!」

「あい!」


「あれくです!3さいです!ギルマスおたすけたいです!

「ひな……2しゃいです……!ぎるましゅおたしゅけたい……!」


「ギルマスお助け隊?なんだそれは?」


「あはは。アレクとヒナがな、俺を助けてくれるんだってよ。あはは」


『そう!』


シャキーン!!

2人でお助け隊ポーズをとる。


「くふふふ……かわ……いや、頼もしいな!!」

「だろ?あはは……」


「今日は話が聞けてよかった。

宿屋とってあるようだから、

グランドマスターが来るまでそっちに泊まるよ。


その前に、なんか冒険者の頃思い出して懐かしいから、

そこの酒場で一杯やってから帰るよ」


「付き合おうか?」


「いや、いいよ。まだ仕事中だろう?

それに、なんだかこの雰囲気に浸れることも今はなかなか無いからな。

ゆっくり堪能させてもらうよ」


「あはは。わかったよ。飲みすぎるなよ。領主様」


そう言って、レオは酒場の端っこに座ってギルドホールを眺める。

すると、酒場のマスターのオルメルがやってくる。

「おや、お久しぶりですね。お元気でしたか?

もうすっかり領主っぽくなりましたねー」


「ん?おー!オルメル!久しぶりだな。

領主になっちまうと、なかなか冒険者業は続けていけなくてな。

なんだか、この雰囲気が懐かしいよ」


「そうですね。

レオさん、昔はよくここで飲んでましたよね。

どうぞごゆっくり……」


「あぁ」

そう言うと、オルメルは注文をとって戻って行った。


そんな会話をしていると、アルたちの声が聞こえてくる。


「ギルドマスター、手紙が来ていますよ」


「あぁ、ありがとう。さて、戻るか」

そう言うと、アルは階段を昇って行った。


なぜか、その後をよちよちついて昇っていく2人。

「くくく……。なんだあれ」


「ぎるましゅ、まってぇ~!」

ヒナが文句を言っている。


「わるいわるい」


アルたちが2階に消えて、少しすると、また1階に降りてきた。


「あら、ギルドマスターどうなさいました?」


「これを頼む」


「わかりました」


後ろからよちよち、降りてくる2人。

やっとアルに追いついたようで、

幼児2人がアルの両足にぎゅーっと抱き着く。


「「ぎゅー!あははっ!」」


「なんだ?まったく。上で待ってろって言ったのに」

幼児2人の頭を優しく撫でるアル。


「「きゃ~!」」


「ぎるましゅ、だっこー」

しょうがないなーといいつつ、ヒナを抱っこしよとすると……。


「ひなだけずるい!おれもー!」


「ぐふっ……なんだありゃ。まるで親子じゃねぇか」

つい、ツッコミを入れてしまったレオ。


「ああ、あれね。すっかりギルマスに懐いちゃって、ああやってよく追いかけてますよ。

親鳥について行くひよこみたいで可愛いですよね」


オルメルがビールを持ってきて、レオのツッコミに説明をする。

「ありゃあ、可愛くてしょうがないだろうな……」

「ですね。ギルマスの顔、デレデレですもん」



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