5. 創造神セルシオス やらかした
(ちょっとこの神様、押し強くないか?)
大樹は少しずつ後退しながらセルシオス神から距離を取ろうとする。
「いや、結構だ。そっとしておいてくれ。地球へ戻してくれ」
大樹はきっぱりと言い切った。
(なんだよ……神様は勝手だって噂、ほんとだったな。
こうなったら意地でも地球に戻るぞ)
セルシオス神はぷいっ視線をそらし、ぼそっとつぶやいた。
「それはできません。
その魔力を身に宿す方を、長年探し続け、やっと見つけたのですから。」
そして、こちらを思い切り振り返り、力強くいう。
「これは運命の出会いなのです。運命に身を任せるのです!」
大樹がいやいや首を振っていると、
またぽそっと独り言をいうセルシオス神
「せっかく地球の神に見つからないように狭間で見つけて連れてきたのに……。
今更戻せるわけないよね。戻せないから転生するしかないって言うか……」
(…………今なんて言った?
こいつ……いや、もう“こいつ”でいいや!)
「隙をみて連れてきたって……!!
拉致じゃねぇかーーー!!」
ようやく状況を理解した大樹。
(つまり……こっちの世界のオーラの強化剤にしたくて、
本当は次も地球で生まれ変わるはずだった俺を、
向こうの神様に内緒でこっそりかっさらってきたってわけか……)
セルシオス神は、大樹の怒りなど気にする様子もなく、
むしろ勢いを増して乗り出してきた。
「さぁ!!ではさっそく、異世界セリシアで生きていく力を与えましょう。
じっとしていてくださいよー」
(まるっと無視しやがった!しかも強制!?)
「話を聞け!そんな力いらねえ!」
大樹はセルシオスの正面から素早く避ける。
「なんと!どんな人間も欲しがる力だというのに!
……まあ、実際に与えられてみたら、きっと満足されることでしょう。
さぁ!おとなしく力を受け取りなさい!」
セルシオスは銀髪を風に揺らしながら迫ってくる。
絵面は完璧なのに、なぜか残念感がすごい神。
説得の仕方も押し売りに近い。
というか、説得と言えるのか。ただのお願い。強制的な。
(人の話を聞けよ!残念イケメン神……
くー!どんなに髪を振り乱しても絵になるのが腹立つ。
光ってるし。神だからな。どうでもいいけど!)
「むりやりかよ!」
ジリジリと、にじり寄ってくるセルシオス。
大樹もジリジリと後ろへ下がる。
「ふふふっ。なんとでも言っていいですよ。
与えてしまえばこっちのものなのです!」
ククッ、と妙に悪役っぽい笑いまでつけてくる。すごい演技力。
(わぁ……開き直りやがった!
こいつ~~~!どんだけ必死なんだよ!だからって他を当たってほしい)
「さぁ、力を受け取るのです!」
セルシオス神は手のひらに光を集めた。
力んでいるせいか、きらきら……ではなく、ギラギラ。
それがどんどん収縮して、光があつまってくる。
目が痛くなるほど眩しい光の塊が生まれる。
(いや、それ、当たったら痛いだろ。)
(っていうか、張り切りすぎだろ……なんだそのギラギラした玉)
「観念なさい!」
セルシオスは堂々と光球を打ち出した。
「まぶしっ!そんなの受け取ってたまるか!
ってか、当たったら死にそう……あ、もう死んでるか」
大樹は光が当たる寸前、左へ飛んで避けた。
運動神経は抜群だ。
「押し売りはごめんだね!」
「チッ!外れた!!」
(ガラ悪いぞ!?神様なんだろ!?)
セルシオスは悔しそうに手をふるふるさせる。
押し売り神、ここに爆誕である。
「なんとすばしっこい!
動くでない!おとなしく力を受け取りなさい!」
「やだね!早く地球に返せ!」
どちらも一歩も引かない。
美形の神と一般人の押し問答が、
雲の上で繰り広げられるのだった。
***
セルシオス神は「ぐぬぬ……」と唸りながら、
次のギラギラ玉を再度手のひらに作り始めた。
「あ、そうだ!……行動を縛るか。ふふっ。
本当は自主的に受け取ってほしかったのだが……まあ、致し方あるまいよ!」
やれやれというように頭を左右に軽く振るセルシオス神。
「神がやることかよ!!」
「ふふん。素直に受けとらないほうが悪い!」
セルシオスが楽しそうに悪態をついた、その時――
「……?」
小さくて可愛らしい声が、後ろから聞こえた。
2人はさっきまでの攻防を忘れ、同時に振り返る。
しかし、見渡しても雲ばかり。
(でも、確かに声がしたよな。それも子供の声……?)
2人してさっきギラギラ光線が飛んでいった方向へ進みながら、
雲の隙間をよくよく見渡す。
すると――
雲に埋もれるように、小さく丸まっている何かが動いた。
「何かいるぞ!」
急いで近くまで走り寄る。
すると、丸くなってすやすや眠っている赤ん坊を見つけた。
***
薄い金髪が肩までふわりと伸び、風にサラサラ揺れている。
顔はとても可愛い。もう一回言う。とても可愛い!
(1~2歳くらいかな?)
瞳の色は何色なんだろうな。
目を開けてこっちを見てほしいと願ってしまうほど可愛かった。
その赤ん坊の体は、ギラギラ光線を浴びたのか、
強い光の破片がちらちらと所々残っているものの、
全体的にはほのかに輝いていた。
眠っているのに、眩しそうに顔をしかめている。
「むにゅ~……おにいちゃ……」
「「!!」」
(なんだこの可愛い生き物……むにゃむにゃ言ってる……
「おにいちゃ」だって!かわえ~~~)
セルシオス神は可愛いと思うものの、
それどころではなかった。
「な、なんでこんなところに赤子が……!?
誰かが入ってきたら、私にはすぐ分かるはずなのに!」
驚愕している。
「創造神なのに、気づかなかったのか?」
神が顔を青くして言う。
「気づかなかった。気配がすごく薄いんだ。この子。
こんな近くまで来て、やっと感じるくらいだ」
「心当たりは?」
ぐぬぬ~とセルシオス神が考え込む。
「前世からここまでたどり着くまでの間に、魂が弱っていたのかもしれない。
あとは、体の作り変えと魂の適応を私抜きで行ったことで、
この子の魂は削れて、その影響で気づきにくい状態になっていたということだろうな。」
「こんなこと、今間で一度たりともなかったことだが、
考えられることとしては、それくらいしか思いつかないな。」
どうやら、これは“絶対に起きないはずの事態”らしい。
「なんかすげー力を渡しちゃったみたいだけど、大丈夫か?この子。
なんかずっと光ってるけど、大丈夫なんだろうな!?」
大樹が慌てて言うと、
セルシオス神の顔がみるみる青ざめていく。
「…………」
「……!!」
どうやら、冷静になってようやく自分のやらかしに気づいたようだ。
「や、やばい……知らない子に力を与えちゃった……!」
そして再び顔が青くなる。忙しい神だ。
セルシオスは、思い切りこちらを振り返り、大樹を指さし、半泣きで叫ぶ。
「せっかくお前をこっそり連れてきたというのに~!!
なんで避けちゃったんだよ!お前が悪い!」
「はーーー!?なんだそりゃーーーー!」
(むちゃくちゃだな!?神のくせに責任転嫁してるくせに!)
「こっちは勝手に拉致られて、嫌がってるのに勝手に力を与えようとして、
避けたら俺のせいって、どういう理屈だよ!」
(頭痛くなってきた……)
「で、この子はどうなるんだ?」
そんなやり取りをしているうちに、
赤ん坊の体を包んでいた光がゆっくりと弱まり、収まった。
セルシオスは真剣な表情に戻り、
赤ん坊――八重を見つめる。
「まずは、この子の今の状態を確認してみよう」
***
セルシオスは真剣な表情で八重を見つめていた。
だが、次の瞬間、その顔が茫然としたものに変わる。
「この子……なぜ既にセリシアに作り変えられている体を持っているのだ?」
「そういえば、この子を見て、説明してたじゃん。変えられている過程で
魂が削れて存在感が薄くなったって。」
「……わぁー!!」
(混乱しとる)
「体の作り変えは、私が直接必要な神聖力を与えてないとできないはずなのに……」
大樹は赤ん坊をよく見る。
布だと思っていたものは、ぶかぶかの服だった。
(若い女性用の服のようだ。ということは、この子は女の子か。)
そう大地が思っていると、
となりでセルシオスがやっと理解が追い付いてきたようだ。
(……縮んだ理由は……)
「ここに漂う神聖魔力とセリシアからの流れているオーラと、
それで足りない分は自分の魔力や魂から搾取されて何者かに適応させられたというところか。」
「魂となっている状態で、膨大な力を削られれば、そりゃあそうなるな。
それに、この子は前世の生前からここに来るまでの間にかなり心身ともに弱っていたようだ。
その分、体が小さくなってしまったんだろう。きっと記憶の方もかなりなくなっている事だろう」
「そんなこと、ありうるのか?」
「いや、本来はありえん……だが、現に起きている。
なぜ勝手に適応できたのか……なにものかが。
といっても、私以外にそれができそうなのはセシリア氏しかいないが……
確かに世界が自我を持つというのは聞いたことがある。
セシリアも危機的状況の中、私が気づかないくらいではあるものの、
”自我”が目覚めたのではないか?」
セルシオスは眉を寄せ、さらに考え込む。
「と、いうことは、セリシアがこの子を求めたのか……?
私がふがいないばかりに……」
大樹は黙って聞いていた。
(……神様でも落ち込むんだな)
セルシオスははっと顔を上げる。
「じゃあ私は……
すでに適応して、準備完了しているこの赤ん坊に、さらに神聖力を与えてしまったという!?」
大樹はしっかりと現実をたたきつけた。
「力の過剰摂取だな!!」
セルシオス神は、愕然としたまま放心している。
大樹はあきれた目でセルシオスを見る。
(いや、だから言っただろ……やめろって)
「ど、どうしよう……!」
放心状態がとけたセルシオスは今度は頭を抱えてうろうろし始める。
美形なのに挙動が完全に残念である。
「いや、それだけではない……
ここの狭間まで引っ張ってくるなんて、セリシアでも無理だろう。
かなりこっちまで自然に流れてこなければ、ひっぱりことはできないはずだからだ。
ということは、その領域まで、この子自身がここまで流れ着いてきたことになる。」
セルシオスは顎に手を当て、考え込む。
「こちらの領域まで流れてくるなんて……
きっと、この子自身にも理由があるのだろう。
地球の方からここまで流れてくるのはかなり遠いので難しい事と思う。
そうとう強い願いなどの理由がない限りは。」
そう言うと、八重の頭の上に手をかざした。
「少し失礼。
適応とスキルの過剰摂取の影響、そしてこの子自身のことを見てみよう」
「……ああ、なんとかしろよ」
「うっ……わかっている」
セルシオスは目を閉じ、真剣な表情になる。
……
……
しばらくして、セルシオスはひどくつらそうな顔で目を開けた。
「この子の名前は……八重というのだな。
魂が削られる前の情報を集めてみてみてみる。
……うん。地球で、かなりひどい状況の中で耐えながら生きていた子のようだ」
大樹は息をのむ。
「それで、地球で死んだことで……
無意識のうちに、自分のいた場所から逃げてきたらしい。
自分を知らない人たちのところへ行きたいと願い……
そして、自分を愛してくれる居場所を求めて漂い……
ここにたどり着いたようだ」
大樹はその言葉に悲し気に八重を見る。
「そんな……魂になってまで逃げたかったのか。
……どんな人生を送っていたんだろうな……」
セルシオスは静かに続ける。
「そして、この近くまで流れてきたところを、セリシアが迎え入れたのだろう」
「ここら辺の神様なんだろう?その辺気づかなかったのかよ」
「うぐっ……!
こ、こんなこと……今までになかったことだ!」
セルシオスは気まずそうに下を向く。
「それだけ……セリシアには時間がなかったのだろう。
黒いオーラの拡大を止められなくなってきていたのだ」
(……現在の危機と、あの赤ん坊をセリシアが求めたことで、
世界そのものが“自我”みたいなものを持ったってことか?
話には聞いていたが、不思議なものだ)
セルシオスは妙に納得したような、してないような顔でうなずいていた。




