54. 魔の森での戦闘(クロム編)
戦闘シーンがあります。苦手な方はスルーしてください。
クロムは森の中を走っていた。
突然、風の音に混じって――
大勢の悲鳴と怒号が聞こえた。
「……っ!? 何かあったみたいだな!」
クロムは速度を上げ、声のする方へ走る。
木々を抜けた瞬間――
そこには、まさに“地獄”が広がっていた。
大きな人の塊……。
その真ん中には――
小さな子どもが7人。
泣きじゃくり、震え、お互いに抱き合っている。
それでも、年上の子が年下の子を庇っている。
(良い子たちだな)
その周囲には、
欠損した腕を押さえて倒れている者、
血まみれで意識を失っている者、
動けず呻いている者。
さらにその外側を、
2つの若い冒険者パーティーが必死に守っていた。
そして、その冒険者たちを取り囲むように、
グローウルフの大きな群れが全方向から包囲していた。
クロムは息を呑む。
(……これは、ひどい状況だね)
「おい!君たち!」
クロムが声をかけると、若い冒険者たちは、ハッとこちらを一斉に振り向いた。
「僕は、A級冒険者パーティー『銀翼のフェンリル』のクロムです!
状況を教えてください!」
冒険者の一人が慌てて、叫ぶ。
「孤児院の子どもたちが薬草採りに来て……迷い込んでしまったんです!
俺たちは孤児院から依頼されて探しに来て……見つけた時にはもう囲まれていて……!」
「加勢に来てくれた別パーティーも負傷者が出て……
グローウルフが強すぎて……押し切れません……!」
クロムは周囲を見渡す。
冒険者たちは血まみれで、息も荒い。
子どもたちは泣きながら震えている。
(……このままでは、負傷者がもたないな……。
時間がない、急ごう)
クロムは静かに言う。
「加勢でもいいけど……
みんな、もう限界みたいだし、
――僕が倒します。
けど、打ち漏らしだけは、お願いしてもいいかな。」
冒険者たちは驚き、そして安堵の表情を浮かべた。
中には、剣をかまえながら泣き出す者もいた。
「……はい。……お願いします……!」
クロムは前へ出る。
「《聖環・広癒》」
淡い光が冒険者たちを包み、
軽傷者の傷がふさがり、呼吸が整う。
そして――
クロムは静かに構えた。
「来い!グローウルフ!」
最初は冷静に、
聖魔法と水魔法を組み合わせて戦う。
「《聖光弾》」
聖なる光を圧縮してグローウルフを撃つ!
「《水刃・連流》」
水を薄く鋭い刃に変え、
連続で放つ、高速斬撃魔法が飛び交い、次々とグローウルフを切り裂く。
飛びかかってくるグローウルフには、
「《聖撃》」
拳に聖魔法を込めて、高威力な一撃を食らわせる。
次々とグローウルフが倒れていく。
だが――
倒しても倒しても、次が来る!来る!来る!
そして、
その中の一匹が、隙を見て若い冒険者へ飛びかかった。
「……っ!」
クロムの中で、何かが切れた音がした気がする。
ブチッ!!
クロムの足元から、
黒い魔力が立ち上る。
「《聖光弾》」
若い冒険者に噛みつこうした直前、前足の近くに魔法の弾丸を当てる。
声が低く、高圧的に言う。
「おい……!
そいつらに……ちょっかい出すんじゃねえぞ!」
黒い魔力がクロムの体を包む。
※クロムは闇魔法は持っていません。
冒険者たちは息を呑んだ。
「く、黒クロムだ……!」
黒クロムを知っている者がいたようだ。
クロムは一気に駆け出した。
速い!強い!荒々しい!
そして、すがすがしいほど容赦がない!!
「《黒水・断流》」
黒く染まった水の刃を、高速で斬撃を放ちグローウルフを切り裂く!!
「《闇風・裂爪》」
闇をまとった風の斬撃を、爪のように連続で叩き込み、肉を引き裂く!
数十秒で――
残ったのは、たった1匹だけ。
最後の1匹は、他より一回り大きく、
顔に深い傷を持つボス個体。
「ガルルルルル……!」
怒り狂ったボスがクロムめがけて飛びかかる!
クロムは微動だにしない。
「遅いぞ」
「《黒水・瞬断》」
黒い水の刃が一直線に走り、
ボスのグローウルフは空中に弾き飛ばされて散った。
少し前、地獄のようだった戦場に、静寂が戻る。
冒険者たちは――
「……こ、こわっ……」
「すげぇ……!」
「さすがA級……!」
「黒クロム様……かっこいぃ……」
「なんて強いの!!」
「すごい攻撃だった……!」
怯えと尊敬が入り混じった視線がクロムに向けられる。
子どもたちは泣きながらも、
黒クロムを“ヒーロー”のように見つめていた。
「くろむおにいちゃん、しゅげー!!」
「しゅごい!かっこいい!きゃ~!」
「さっきのこうげき、すごかった!」
「うん!!ずばーって!しゅって!って、ばーんって!!」
黒い魔力がすっと消え、
クロムはいつもの穏やかな表情に戻る。
子供たちの頭をひと撫でして、
今度は怪我人の元に急ぎ、穏やかに言う。
「もう大丈夫ですよ。今、治しますね」
「《聖環・再生陣》」
欠損した腕がゆっくりと再生し、
深い傷があっという間に閉じ、
意識を失っていた者が目を開ける。
若い冒険者たちは、
誰一人死人も出なかったことに涙を流した。
「……すごい……」
「欠損を……治した……?」
「はじめて……見た……」
「本物の……聖天使だ……」
「黒クロム様も好きだけど……聖クロム様も……好き……!」
クロムは優しく子どもたちの頭を撫でる。
「もう大丈夫ですよ。よく頑張りましたね」
その優しい言葉で子供たちは号泣した。
動ける若い冒険者たちに言う。
「魔石と魔物の死骸は、収納袋に入るだけ持っていってください。
僕はまだ依頼中なので、残りは回収します」
「ありがとうございます……!」
「黒クロム様……かっこよかった……!」
「いや、聖クロム様の方が……!」
「どっちも好きです……!」
クロムは苦笑しながら手を振る。
「気をつけて帰ってくださいね」
冒険者たちは深く頭を下げ、
子どもたちを連れて森の出口へ向かった。
クロムは深呼吸し、
再び森の奥へ走り出した。




