50. 魔の森での戦闘(オルガ編)
今回も戦闘シーンです。苦手な方はスルーしてください。
オルガは森の中を走っていた。
森の土と草木の香りが濃い。
木々の合間から魔物の気配がしてくる。
走っていると、ふいに複数の気配を感じ取った。
急いで目で確認できる距離まで近づき、
木の枝の上に軽々と飛び乗り、上から魔物たちの様子を伺う。
……魔物の小さな群れができていた。
魔物の種類自体は、浅い所で見かける種類だが、
群れを作り出すのは危険な兆候だ。
「間引きして、散らす必要があるな」
そう言うと、両手に自慢のナイフを持つ。
すると、ふと昔を思い出した。
このナイフは、ジークと同じ、
ドワーフの名工「煉獄の鍛冶師ドルガン」が打って作ってくれたものだ。
ジークはあの実直さをドルガンのおやじに気に入られてすぐ作ってもらえたが、
オレのは、なかなか打ってくれなかった。
酒を貢いで、さらに貢いで、ジークの後押しもあり、やっと作ってくれたものだ。
いやー。あの時は酒探しが大変だった。
ドワーフが酒好きで、特にドルガンは舌も肥えてやがった!
おかげで、高い酒を何度も買わされたが……。
その甲斐はあった!!
初めて見た時はめちゃくちゃ感動したっけ。
ナイフに一目ぼれなんて、あれが初めてだったな。
触ってみたら、ずっと使っていたかのような手馴染みに驚いたっけ。
ジークは、自分の大剣に嬉しそうに名前を付けていた。
それがうらやましくて、俺もこっそり名前をつけた。
「烈風双牙」オレの双子のナイフ。
こいつらとなら、どこまでも駆け抜けられる気がした。
今度王都に行った時にでも、酒を土産に寄ってみっか。
そんなことを思いながら、オルガは魔物の群れへ飛び込んだ。
***
オルガは魔物の群れへ飛び込んだ瞬間、
ナイフに風の魔力を這わせた。
「――まずは一閃、風刃・瞬断ッ!」
すれ違いざまに放った風の斬撃が、
魔物の胴を素早く切り裂く。
二体目の魔物が横から飛びかかってきたが、
オルガは木の幹を蹴って跳び上がり、
すれ違いざまに斬りつける。
「翠風・斜閃ッ!」
緑の風の軌跡が残り、その直後に魔物が崩れ落ちた。
三体目、四体目が同時に襲いかかる。
オルガは地面を強く蹴り、土の魔力で脚力を強化。
「風土・裂走ッ!」
爆発的な加速で二体を一気に切り裂く。
群れの半分以上が、
オルガのスピード&縦横無尽なアクロバティックな戦闘で数十秒で沈む。
逃げていく魔物たちは追わない。
「これだけ間引いておけばいいだろう。
逃げるやつは放っときゃいい。
これで魔物の大きな群れになる原因の一つは潰せただろう」
ナイフをはらうと、オルガは再び森の中を走り出した。
走っていると、突如、声が森に響いた。
『やめろ!!』
『誰か助けて!!』
若い冒険者の声だ!
オルガは即座に方向を変え、木々の間を疾走する。
視界が開けた瞬間、状況が一気に理解できた。
サル型の魔物が、
回復師の女性を肩に担ぎ、森の奥へ跳び去ろうとしていた。
残されたメンバーは怪我人を庇いながら必死に応戦しているが、
同じ群れのサルの魔物が行く手を塞ぎ、追いかけられない。
「チッ……頭のいい厄介な連中だな。連携してやがる。しかも群れが少し大きいな……」
オルガは枝を蹴り、風の魔法で跳躍し、女性冒険者を担ぎ逃げるサルを追いかけた。
すると、少し開けている場所で女性冒険者が、数匹のサルの魔物と戦闘していた。
剣などを持っていない弱そうな対象を数匹で攻撃し、交戦したり、逃げる様子を楽しみ、
逃亡中のエサを群れの連携で追い込み、とどめを刺す。
実に魔物らしく群れの若い者への連携の練習と遊ぶために連れてきたようだ。
サルの魔物が女性冒険者に、牙をむき出しにして襲い掛かろうとした瞬間――
「させるかよッ!!」
オルガの飛び蹴りが魔物の側頭部に炸裂!
魔物は吹っ飛び、木に叩きつけられ、地面に落ちた。
女性冒険者は、一瞬の出来事に、
「え?ええ?な、なにが?」
と、混乱しているが、オルガの姿をみて、更に驚く。
「オレは、A級冒険者パーティー『銀翼のフェンリル』のオルガだ。
依頼遂行中に声が聞こえて駆け付けた」
女性冒険者が絶望的な状況を脱せたことに安堵し、
体の力が抜けたのか、崩れ落ちそうになる。
慌てて女性冒険者を横抱きにし、魔物から素早く距離を取り、降ろす。
とはいえ、周りは魔物の群れに囲まれている。
「もう大丈夫だ、お嬢ちゃん。
こいつらはオレが倒すからここで待ってろ!」
震える女性冒険者を背に庇い、
周囲を囲むサルの魔物――十匹くらいか。
「数は少し多いが……負けねぇよ」
ナイフに風を纏わせる。
「――風牙連舞ッ!!」
オルガは地面を蹴り、そして、風のように消えた。
跳躍、回転、着地を利用した敵を翻弄するアクロバティックな高速連撃が、
サルの魔物を次々と切り裂いていく。
若い女性冒険者には姿が見えないものの、
サルの魔物の悲鳴や崩れ落ちる音、
枝が蹴った軋む音、
草の中を移動する音が周囲の支配する。
女性冒険者は、オルガの戦闘に見入っていた。
しかし、オルガの隙を見てこの冒険者に襲い掛かろうとする魔物はいなかった。
近くによっただけで、オルガから斬撃が飛んでくるからだ。
二匹目、三匹目、四匹目――
風の乱流が巻き起こり、魔物が吹き飛ぶ。
「ギギッ!!」
「ギャギャギャッ!!」
五匹目が木の上から勢いをつけ、襲いかかってきたが、
オルガは枝を蹴って逆に上へ跳び、魔物の正面に躍りでた。
そこに、隙をついたとばかりに飛び込む数匹の魔物の気配。
オルガは、風の魔法をナイフに這わせ、空中で高速の斬撃を叩き込む。
「翠嵐・乱閃ッ!!」
緑の嵐の閃光が走り、魔物数体が落下した。
最後の一匹が逃げようとしたが、
オルガは逃がさない。
「風土・旋裂走ッ!!」
地表に這わせた風の刃が、
逃げる魔物の背中を切り裂いた。
「よし、終わり!」
いまは時間がない為、死骸は魔石は取り出さず、一旦そのまま収納袋へ放り込む。
「よし、片付いたから、嬢ちゃんの仲間のところにいくぞ!
あっちも戦闘してっから、急がねえと」
女性冒険者を背負い、オルガは来た道を走り出した。
戻ってくると、若い冒険者たちは、今も必死に戦っていた。
「くそっ!追いかけなきゃいけないのに……くっ!」
「こいつら、動きが早すぎる」
焦りながら戦う若い冒険者パーティーに近づく。
「お前ら、よく持ちこたえたな!
攫われたお前たちの仲間は取り返してきたから安心しろ。」
「「「え?ソニア?」」」
「助けていただいて、戻りました」
「よ……よかった!!本当によかった……」
「あの、俺たちは、D級冒険者パーティー『白狼の牙』で、ぐっ!
俺はリーダーの”マーティス”と申します。うぐっ!!
この度はご助力ありがとうございます。くッ!」
パーティーリーダーと名乗る冒険者が、
戦闘で忙しい中、律儀に自己紹介をしてきた。
オルガはその実直さにジークを思い出してほくそ笑む。
「俺は、A級冒険者パーティー『銀翼のフェンリル』のオルガだ。
加勢とオレに任せるのとどっちがいい?」
「!!!ソニアを助けていただいた上に、ありがとうございます!
加勢いただけたらありがたいです!!」
「了解だ!!任せろ!
……とりあえず、数を減らすか!」
オルガは再び戦場へ飛び込んだ。
枝から枝へ、地面から空へ。
その動きはまるで縦横無尽の“風そのもの”。
アクロバティックなその自由な戦闘スタイルに、
若い冒険者たちは驚いた!
「すげぇ……!」
「速すぎて見えねぇ……!」
「なんだあの動き……!」
中でも斥候役の若い冒険者は、
オルガの動きに完全に魅了されていた。
「……すごい!すごい!かっこいい!!
あんな戦闘スタイルがあるんだ!まるで風そのものみたいだ!すごい!
俺も……、俺もあんなふうに戦えるようになりたい……!」
斥候役の若い冒険者の瞳は、まるで新しい世界を見つけた子どものように輝いていた。
オルガは群れの中心へ突っ込み、
ナイフに風を這わせ、体を回転させて、広範囲の斬撃を叩き込む。
「風刃・円舞陣ッ!!」
風が円を描き舞い、爆ぜた、
十匹近いサルの群れが一気に吹き飛んだ!
「これで全部か。よく頑張ったな、お前ら。おつかれ!」
深い怪我人にはエルミー特製の回復ポーションを渡し、
はじめは遠慮していたが、諦めて飲んだ。
他のメンバーにも別のポーションを渡し、飲ませた。
「死骸は手分けして集めろ。魔物の死骸と魔石はお前らが持って帰れ。
収納袋あるんだろ?入るだけ、いれていけ。俺はこの後も依頼があるんでな。」
「本当にありがとうございました!」
斥候らしき若い冒険者が前に出てくる。
「あの!オルガさん!街に帰ったら、時間がある時でいいので、訓練見てもらえませんかーーーっ!!!」
オルガは笑ってしまった。
すごい必死なその顔、自分はもっと強くなりたいとの語っている、そのキラキラさせた瞳。
オルガはそんな姿に弱い。
「お前、”ジン”だったか?依頼がない時ならいいぞ!」そう言って頭をぽんぽんしながら撫でた。
ジンは嬉しそうに笑った。
その横で、今回助けられた女性冒険者は、どこか熱のこもった目でオルガを見ていた。
「かっこいい……」
オルガは、強面ながら頑張る子には優しいのと、強い上に、あの戦闘スタイルで、
実はいろんな意味で結構モテるのである。
若い冒険者たちは深く頭を下げて、森の入口へと向かっていった。
オルガは軽く手を振り、再び森を走り出す。
途中、浅い場所では見ない魔物を発見し、
身体強化で跳ね上がった攻撃力を付け、
更に飛び上がって落下の勢いをつけたドロップキックで瞬殺。
さらに、逃げている冒険者を見つけ、
背後から冒険者に迫る魔物を空中回転蹴りで撃破。
魔物は白目を向いたまま、蹴り飛ばされ、木に叩きつけられ、落ちた。
(うわっ!すげー威力ついたぜっ!)
「そのまま森の外に走れ!まだいけるだろ!」
冒険者は震えながらも頷き、森の出口へ走っていった。
「……まだまだ間引きは必要そうだな。しょうがねえ!いくか!」
オルガは再び走り出す。風のように縦横無尽に。自由に。




