49. 魔の森での戦闘(ジーク編)
戦闘シーンが含まれています。苦手な方はスルーしてください。
ジークは、森の中を走った。
森の浅いところであり、朝ということもあって、木漏れ日が差していて森が美しかった。
だが、少し奥に進むと、雰囲気が変わってきた。
道のない道を魔物の気配を感じながら走っていく。
(魔物の気配が多いな。浅い場所にしては異常だな……
倒し過ぎても、低級冒険者の稼ぎが減ってしまう。ほどほどに間引こう……)
どんどん進んでいくと、やがて、少し開けた場所に出る。
そこには、数体の魔物がたむろしていた。
「あれは……浅い場所にいないはずの魔物だな。これは、討伐対象だ。」
ジークは大剣を抜く。
太陽の光を反射し、強い光を放つ大剣『イグニス』
これは、ドワーフの名工「煉獄の鍛冶師ドルガン」により打たれた大剣で、
私の魔法を這わしてもびくともしないどころか、喜んでいるようにも感じた。
それからというもの、俺の相棒はずっとこの『イグニス』だ。
こいつがいれば、おれは心置きなく全力で戦える。
心強い相棒だ。
ジークは大剣を抜き、魔物の中に込みこむ。
魔物が驚いてこちらを見るが、もう遅い!
振り下ろした大剣で、一匹目を一撃で仕留めた。
その勢いを殺さずに横へ。
勢いのまま、二体目、三体目と討伐する。
大剣の軌跡は勢いもあり重いはずなのに、
まるで軽い枝を掃うかのように滑らかで速い。
まるで、大剣『イグニス』が縦横無尽に踊っているようだ。
魔物の爪を軽やかに跳んで避け、
その勢いのまま、大剣で叩き切る。
動きが止まったと見て、襲い掛かってくる魔物達。
剣を持ち直し、くるっと勢いのまま横へ一閃。
ジークの勢いは止まらない。
最後に真上から飛び込んでくる一体を突き上げ、殲滅完了。
魔石を取り、死骸を収納袋へ入れる。
再び走り出す。
途中、浅い場所にはいない魔物がまた現れた。
ジークは眉をひそめる。
(……これは、低級冒険者には、かなり危険ではないか?)
ジークは迷わず大剣を振り下ろし、一撃で仕留めた。
そしてまた走り出そうとした時、
『うわーーッ!!』
『こないでーーッ!!』
悲鳴が森に響いた。すぐ近くだ。
若い冒険者の声だ。
ジークは一瞬で方向を定め、
木々の間を駆け抜ける。
視界が開けた瞬間、
そこには地獄があった。
若い冒険者五人が、
血まみれで必死に戦っている。
一人は倒れており、動けない。
残りの四人が必死に守っているが、
腕は震え、息は荒く、
絶望が顔に浮かんでいた。
泣きながら助けを乞う者もいる。
相手は――
「グローウルフか」
森の浅い所には絶対にいないはずの魔物だった。
しかも三頭。
グローウルフは群れで行動している。
ということは……いた。周囲に気配が……。しかも、複数。
(……群れの本隊が潜んでいる……か)
このままでは、あの若い冒険者達は全滅だ……。
ジークは声を張る。
「俺はA級冒険者、銀翼のフェンリルのジークだ!
加勢するか、戦闘を任せるか、選べ!」
若いリーダーらしき少年が、ジークの声にハッとする!
助けが来たのだと、これで助かるのだと。
涙をこらえながら叫ぶ。
「私たちはD級冒険者パーティー”蒼天の翼”で、私はリーダーのニックです
きょ、協力でお願いします!!感謝します!」
若い冒険者は、体力的にも精神的にもいっぱいだった。
でも冒険者としての意地が「協力」を選択させた。
ジークは、若い冒険者達を褒めてあげたかった。
こんなつらい中の戦い、誰も逃げずにお互いを守りきった。
(素晴らしいパーティーじゃないか!この子らを守らなくては!)
「任せろ。」
ジークは大剣を構えた。
魔物が迫ってくる、地面を蹴る音が――
“消えた”。
若い冒険者はなにが起こったのかわからず、まわりを見回す。
グローウルフの一頭が胴体に大剣をめり込ませ、
くの字になって宙を舞っていた。
「ガッ――!?」
少し離れたところでドサッと音がし、
グローウルフが倒れ、動かなくなった。
若い冒険者が、その一連の動作に驚く。
(すごい速さと力だ!一撃で倒した!!)
隙をつくように、二頭目が飛びかかる。
ジークは大剣を横薙ぎに振り抜き、
グローウルフを切り飛ばす。
三頭目が横から噛みつこうとした瞬間――
その勢いを殺さず、大剣を円を描くように流し、
グローウルフの頭頂部へ叩きつけた。
手前にいたグローウルフで、すべて片付いたはずだった。
と、思ったその瞬間だった。
森の奥から――
『ガルルルルルルルルッ!!!!!』
低く、重く、群れ全体の咆哮が響き、
次の瞬間、十数頭のグローウルフが一斉に飛び出した。
若い冒険者たちは、そのあまりにも残酷な状況に絶望する。
「こ、こんなの無理だ……!」
「こわい……!」
「もう……ダメだ……!」
若い冒険者達は、足が震えて、
頭では逃げろと警戒音を鳴らしているのに、
体が言うことを聞いてくれなかった。
この状況だからこそ、ニックは、
勇気を出して、傷だらけの仲間たちの前に立つ。
体は震えてそれを拒否をするが、それをどうにか抑える。
「俺はリーダーだ。こんな時こそ、俺がみんなの盾になる!」
「よく言った!」
ジークは一歩前に出た。
「下がってろ。
ここからは――俺の仕事だ」
大剣を構えた瞬間、
空気が変わった。
これがA級冒険者の“覇気”なのか、ジークの雰囲気がガラッと変わった。
「イグニスいくぞ!」愛大剣にそっと声をかける。
すると、愛大剣が答えるように熱くなったような気がした。
その瞬間――
ジークが動いた。
「――≪雷牙・瞬閃≫」
大剣が一瞬バチっと弾けた瞬間、一瞬で踏み込み、雷速の斬撃を叩き込み、
グローウルフの群れが次々と吹き飛んでいく。
「ガアアアッ!!」
「ギャウッ!!」
「ギャッ!!」
「ガアッ!!」
「グゥーッ!!」
「ギャンッ!!」
若い冒険者には、もはや目で追うことも出来なかった。
グローウルフの群れの牙も爪も、ジークには届かない。
攻撃しようと近寄れば、斬撃の呑み込まれる。
ジークは若い冒険者たちの前に立ち、
盾となり、壁となり、ただひたすらに――殲滅した。
しかし、今回は「協力」ということで、
数匹、様子をみて若い冒険者に任せることにした。
若い冒険者達も、近寄るグローウルフをコンビネーションで倒した。
最後の一頭をジークが倒した時、森はもとの様子を取り戻した。
若い冒険者たちは、自分達が本当に助かったのだと分かった途端、
体の力が抜けて、その場に崩れ落ちた。
「生き残れた……よかった……
「す、すごかった……早くて見えなかった!」
「これが……A級冒険者……」
「助かった……助かったんだ……!」
倒れて意識のない仲間の傷は深い。
回復師の魔力は既に尽き、
ポーションも使い切ってしまっていた。
せっかく助かったのに!!と泣き崩れるメンバー達。
そんな様子をみて、
ジークは収納袋から一本の回復ポーションを取り出す。
「これを使え。うちのパーティーメンバー特製だ。深い傷でもよく効くぞ。」
「えっ……そんな……!」
「いいから先に飲ませろ!時間がない!」
メンバーの一人が、回復ポーション受け取り、無理やり飲ませると、
淡い光が大きな傷口を包み、徐々に他の傷がふさがり、顔色がよくなり、呼吸が落ち着いていく。
「すごい……!こんな回復ポーション……!」
「本当に……本当に、ありがとうございます……!」
意識のなかった冒険者がゆっくりと目を覚ます。
「あれ……ここは?グ…グローウルフは?もう終わった?」
きょろきょろまわりを見る。
そして、助かったことでの安堵感で泣き出した。
そしてジークは先ほどとは別の回復ポーションを4本取り出す。
「これは、他の4人用だ。飲んでおけ。帰りもあるんだから、回復しておけよ」
「「「「はい。ありがとうございます」」」」
パーティーリーダーのニックが苦しそうな声で言う。
「俺が……俺が悪いんです……
判断が遅れて……逃げられなくて……!」
ジークはその肩を掴んだ。
「いや、本当によく頑張った。
お前たちは決して弱くない。
今日、生き残ったんだ。それが何よりの証拠だ」
え?と、ニックが顔を上げる。
「反省するのは大事だ。
失敗したと思うなら、それをしっかり受け止めた上で、今後に活かせ。
力をつけて強くなるものは、失敗して倒れても、それ前向きに受け止め、すぐに立ち上がる者だ。」
若い冒険者達の目に、光が戻る。
「後悔というのは、”気づきがあった”からこその後悔だ。
そんな”気づき”をしたという”経験”を得たんだ。
今後に活かさないのはもったいないだろう?」
ジークは、ニックの肩をポンポンと軽く叩き、激励する。
「俺はお前たちを応援してる。
お前たちはとてもいいパーティーだと思うぞ。
困ったら、いつでも来い。
若い冒険者を守るのも、A級の役目だからな。」
「……はい!!」
「それと、魔石と討伐した魔物は持っていけ。
お前らの取り分だ」
「で、でも……」
「今回の戦闘で、武器も防具もボロボロだ。
少しは足しになるだろう」
若い冒険者たちは深々と頭を下げ、
涙をこらえながら帰っていった。
ジークはその背を見送りながら、
ふっと笑う。
(……俺たちも、昔はあんなだったな。
オルガと二人で無茶ばかりして、ケガも多かったっけ……)
そして、再び走り出す。
間引きはまだ終わらない。




