48. 魔の森と銀翼のフェンリルの遠征開始
銀翼は魔の森の入口にいた。
森の浅いところは、朝ということもあって、木漏れ日が差していて森が美しかった。
森から放たれる、湿った土と草の匂い、葉の揺れる音も心地よい。
しかし、獣の気配が微かに漂っていた。
魔の森と呼ばれてはいるが、見た目はただの深い森だ。
ただ、魔物が多く、奥にいけばいくほど強い魔物がおり、
最奥には、出てくることはないが、黒いオーラを作り続ける理から外れた変異個体がいる。
通常、森の浅い所なら低級冒険者でも問題ない魔物しか出てこない。
その為、低級冒険者にはいい狩場となっている。
……しかし、最近は森の様子がおかしい。
森の浅い所でも中間あたり、あるいは、奥にしかいないはずの魔物が発見されることがある。
その為、低級冒険者には、あまり森の奥に行かないように注意喚起がされている。
ジークは森の奥を鋭く見据えた。
こういう時のジークは、情報収集中だ。
(今は、森の様子がおかしいから、魔物の間引き中に、
念のため、森で狩りをしている冒険者を見つけたら様子を見ておこう。
確か何パーティーかは森に来ているようだ。
あとは、魔物の種類を見ておこう。
森の浅い所にいない魔物がいたら討伐対象としよう。
魔物の討伐後の処理はどうするか。
とりあえず、各々持っている収納袋に入れて、処理場で処理してもらう。
死骸を残したら、血の匂いで魔物がきそうだし、
魔物や動物が片づけてくれればよいが、
黒いオーラに晒されると死骸はアンデットになることがあると言われている。
今の森の状態では、多くの魔物の死骸を放っておくのは心配だ……)
他のメンバーは、ジークの判断を信じて静かに待っていた。
「よし、それでは今回の作戦を伝える。
まず、今回の依頼は、魔物の間引きだ。
多くなりすぎて、また攻め込まれないようにするためだ。
魔の森の範囲は広い。
そこで、今回は状況によってではあるが、まずは、
それぞれ手分けしての討伐としようと思う。
その為、森に入ってちょうどいいところを野営場所とし、結界を張る。
皆、魔導時計を持っているな。朝、それぞれ間引きに行き、17時には戻ってくれ。
そこを拠点に何日か間引きを行い、問題なければ、
もう少し森の奥に進み、また拠点を設置して間引きをする。
そうして、森の中間くらいまで繰り返す。
それでしっかり間引きをしていこうと思う。」
「それと同時に、森の調査を行う。
森の浅い所にいるはずのない魔物がいた場合、討伐対象とする。
森の中ほどで、いるはずのない魔物も出てきた場合、強い魔物だと思われる。
その場合、無理はせず、厳しいと思ったら誰かしらに連絡をしてくれ。
連絡用の魔法陣が刻まれた木札を持っているだろう。それを使え」
「ああ、これか。これ便利だよな!」
フリードが嬉しそうに木札を見つめる。
「リオンのは、紐をつけて首にかけるタイプにしたが、大丈夫そうか?」
「あぁ、大丈夫だ。
それにしても、面白いのぉ。
こんなものまで作ってしまうものがおるとは。いやはや、興味深い!」
「ああ。これは必需品だ。
連絡が来たら、木札を持っている同士だと位置が分かるようになっている。
近い者は真っ先に急行してくれ。
次に、倒した魔物についてだ。
血の匂いなどで、飢えた魔物がつられて寄ってくるかもしれない為、
放置はできない。間引きして、死骸を放置していたら、
いつのまに魔物が増えてました。じゃ、笑い事じゃすまん。
また、黒いオーラに晒されるようなことがあれば、アンデットになる恐れがあるとも聞いている。
倒したものは一旦自分の収納袋に入れてくれ。
その後の処理については、夜にでも話す。」
「そして最後に、
初級冒険者の数パーティーが森に入っていると聞いている。
冒険者ギルドでは、最近の森の様子を伝えたうえで注意喚起をしているが、
それでも経験が浅い者や若い者は、軽く見て突っ走ることもあるだろう。
強い魔物に襲われていたら、声を掛けた上で、協力、または、魔物を討伐をしてくれ
以上が今回の作戦だ。質問があれば言ってくれ。」
「誰がどっちに行くとかあるか?」
「そうだなー。年少組は年長組の間に挟む感じで行くか。
何かあればすぐに駆け付けられるようにしたい。
俺、クロム、リオン、フリード、オルガ、エルミーで、手分けしていく」
「了解でーす!
ジーク!森の中だから火魔法や雷魔法は使わない方がいいよね。
それ以外なら使っていい?」
フリードがわくわくしている。
「あぁ、そうだな。山火事になったら目も当てられない。」
「山火事になれば、黒オーラの魔物までの距離が短くなりそうだがな」
ふふっと笑って怖い事をいうオルガ。
「まあ、確かに。でも、それで魔物達がどんな行動を起こすかわからないからねー」
「怖い怖いっ!」
「精霊が泣いてしまいます!」
「よし――行くぞ。久しぶりの森だ、気を引き締めていこう。
まずは野営場所を探す」
「そういえば、1時間くらい入ったところだったか?広くなっているところがあったはず。
まずはそこを目指してみるのはどおだ?」
「そだな。オルガのいうところなら、ちょうどいいかもしれん。
とりあえず、行ってみよう」
「オレ、狩りモードになってきたぜ!」
肩を回したり、屈伸したり、準備運動を始めるオルガ。
「弓の調整は完了です。風の精霊達、今日もよろしくお願いしますね」
その言葉に、ふわっとエルミーの髪が風で舞う。
「今日は、風の魔法メインに使おうかなー。水にしようかなー。どっちも使おうか!」
魔力を指先に発生させ、丸い風の球体を作って遊んでいるフリード。
「念のため、身体強化魔法かけるよ……《全身強化・銀翼クロム式》」
青白い魔力が仲間全員を包み、身体能力が一気に跳ね上がる。
「クロムありがとう!」
「たすかる!」
「ありがとうございます!」
「クロムー!サンキュ~!」
「クロムのおかげで、体が羽のように軽いわっ!
私の狩猟本能が騒いでおるわ。久々の森、やはり森はいいのぉ。」
その時、鳥の声が途切れ、森の奥からは何かが這うような音が聞こえた。
やはり、何かが起こっているようだ……。
「――行くぞ。銀翼、出発だ。」
***
一歩、また一歩と森を進むたびに、
森の湿った土と草の匂いと、獣の気配が濃くなってきた。
木々が草花がざわめく音は、緊張感を誘う。
魔物が、いつ、どこから襲ってくるかわからない。
鳥なのか、魔鳥なのかの声が森の奥から不気味に響いてくる。
銀翼一同は、道らしき細い獣道を、縦一列になり進んでいく。
時折、森の奥から――
『ガルルル……』
と低いうなり声が聞こえ、そのたびに一同は足を止め、周辺を確認する。
(魔物だろうか。気が立っているようだ。)
結局野営場所に着くまで、こちらを伺うような威嚇の気配があったものの、
魔物との戦闘はなかった。
「ここを野営場所としよう」
ジークが周囲を見渡し、ちょうどいい場所だと頷く。
「結界は魔道具で張る。忘れるなよ。命綱だ。」
「わかってるって!じゃーん!結界まどーぐー!!
よし、張るぞー!」
フリードが楽しそうに魔道具を取り出し
まわりに6本の結界魔道具を土に挿していく。
『ブアァンッ』
高い音が鳴り、黄緑の色の魔法がドーム型に広がり、閉じた瞬間、
『キィィン……』
高い音が鳴り、結界が張れたことを知らせてくれた。
この結界は、
1.中の匂いを外に出さない
魔物の中には、匂いに敏感なものもいる。そのための対策。
2.姿が外からは見えない
魔物は夜目も効く。しっかり魔法で姿を見えなくする。
3.結界に触れた場合、高圧電流が流れ
もし魔物が結界に触れた場合、高圧電流が流れ、心臓が止まる。
頼もしさと同時に、触れたら最後という緊張感が漂う。。
「さて――
ここからです。
魔導時計、ちゃんと確認しておけよ!
17時には必ずここに集合だ!
状況の共有をしたい」
「「「「「了解!!」」」」」
「じゃあ、解散!」
ジークの一言で、
銀翼の面々は一斉に森へ駆け出した。
次回から戦闘に入ります!




