47. ギルドマスターの癒しと幼児達の成長
銀翼達一行は、朝、冒険者ギルドに来ていた。
今日も依頼掲示板の前に人だかりができており、
パーティー仲間で話し合いや相談をしている者、
お目当ての依頼がなく、なら、飲みに行くか!と朝から吹っ切っている者までいて、
とても賑やかだ。
銀翼たち一行は、
その賑わいを横目に、受付へ向かった。
受付嬢に声をかけると、
すぐにギルドマスターを呼びに行ってくれた。
その間に、冒険者達からは声がかかる。
「おはようございます!ジークさん!」
「よぉ!いい依頼とれたかー!気を付けていけよー!」
「オルガー!今度また一緒に飲もうぜ!!」
「朝から酒の話かよっ!あははっ!
いいぜ!この間、旨いつまみを出す店、見つけたから、今度連れてってやるぜ!」
「楽しみにしてる!」
「エルミーさん、おはようございます!また今度、弓の指導お願いします!」
「おはようございます!ええ。もちろん、いいですよ。」
「フリード!また何かすげー魔法作ったか?」
「あぁ!もちろんだ!今日もは魔の森だから、魔法いっぱい打ってくるわ~」
「こえーなー!ほどほどになー!」
「クロム様!おはようござ……。
え?魔の森に行くのですか?わ、私も行きたい……」
「おはよう。ついて来ちゃ、だめだよ。危ないからね」
「あぁ、白クロム様もお優しくて……。いい…‥!!」
(クロムファンは、いつも変なのばっかりだ……)
アレクはちょっぴりそう思った。
神獣フェンリルのリオンは、大型犬のサイズになっているが、
やはり声をかけられたり、拝まれたりしてる。
もうすっかり銀翼の一員になっていた。
「アレクとヒナじゃないか、おはようさん!今日は早いな!」
「はよーごじゃいましゅ!!」
ヒナ、よいご挨拶です!アレクはヒナの頭をなでなでする。
自慢げに胸をはるヒナが可愛い。
アレクは、兄として願う。
そのまま育ってほしい……と。
「おるそーさん!おはようございます!きょうは、つきそいです!」
そっかー!えらいなー!じゃあ、またなー!といいつつ、
オルソーさんは俺とヒナの頭を撫でていった。
受付に辿り着き、ジークが受付嬢に声をかける。
「おはようございます。昨日の指名依頼の件で来ました。」
受付嬢はにこやかに頷き、
「ギルドマスターをお待ちです。ギルドマスター室へお願いします。」
とギルドマスター室へ案内してくれた。
ギルドマスター室に入り、
扉を閉めると、外の喧騒が遠ざかった。
ドアの外がにぎやかな分、入るとホッとする空間だ。
部屋のデスクにはギルマスが座っていた。
「おー。銀翼!よく来てくれた」
「おはようございます、ギルドマスター。指名依頼と聞きました」
「まずは座って話そう。座ってくれ」
今日は、ヒナの話もあるので、ジークがヒナを抱っこした。
「きゃはっ!」と言ってヒナは
ジークの両腕をつかみ、着物を着るように自分に巻き付け、喜んでいた。
ジークがヒナに微笑みながら撫でてる。
アレクがヒナのそんな様子をみて笑っていると、
急にひょいっと後ろから体が持ち上げられた。
今日はオルガが抱っこしてくれるようだ。
「今日は俺の膝なー」
「うん!」
エルミーとクロムを見ると、手をわきわきしてぶーたれて、こちらを見ていた。
面白い。
「さて、早速話をはじめたいところなんだが、
昨日のトマスというギルド員がパーティーホームに行ったと思うが、
そいつの報告で、何やらとんでもないのを仲間にしたとか聞いたんだが……。
……その仲間って、今いるか?確認したいのだが……」
(あー、だからギルドマスター室に案内されたのか)
ジークが苦笑いする。
(どんなふうに伝わっているんだろうか)
「あぁ、そうですね。
見てもらった方が早いですね。
もっちー!こっちに来てくれるかい」
ヒナの肩の上で、もっちーがもぞもぞ動き、
ぴょーん!とジークの肩に飛んでいった。
ギルドマスターが目を見開く。
姿を現したのは、
ふわふわのもふもふの毛玉だった。
あざとく首をかしげ、『きゅいっ?』と鳴いた。
ギルドマスターは固まっていた。
「か、か、可愛い……」
「もっちー、こちらはこの冒険者ギルドのギルドマスターだよ。
俺たちが魔の森に行っている間、お前たちの面倒を見てくれる人だ」
「きゅきゅっ!」
手を挙げて挨拶をしているようだ。
「……」
「ギルマス、大丈夫かよ……」
フリードがギルマスを引っ張ってみる。
「なっ、なっ!本当に!幻獣……カーバンクル……だとー!
神獣の次は幻獣だとっ!次は何が来る!?」
(次、期待しちゃってるし。)
「そうだ。可愛いだろう。
この子が幻獣カーバンクルの“もっちー”だ。
黒いオーラの払い方をヒナに教えたのも、この子だ。」
「きゅっ!」
「小さいのに、さすが幻獣!すごいのだな!
今回は、ご協力感謝する!」
そして、ギルマスがもっちーに頭を下げてお礼をした。
もっちーが誇らしげに「きゅいっ!」鳴くと、
ギルドマスターも思わず笑ってしまった。
***
あれから、ギルマスはもっちーと握手したり、なでなでさせてもらったりして、
完全にただの愛玩動物好きのおじさんになっていた。
銀翼一行は、『うんうん。わかるよーその気持ち!』という目で
あたたかく見守った……。
ギルマスが少し落ち着きを取り戻したころ、話を戻した。
「もっちーについては、小さいから、ひょいっと攫われそうで怖い。
ここにいるメンバーと、今度来るグランドマスター、領主以外には
他言無用とする。」
「「「「「「わかりました!」」」」」」
「はい!」
「はぁーい!」
「さて、気を取り直して、指名依頼の説明にはいる。
依頼内容は、もう聞いていると思うが、魔の森の調査と魔物の間引きだ。
もうじきこの街に、冒険者ギルドのグランドマスターと、この領の領主がやってくる。
道中や滞在中に、この間のような魔物大量発生が起きたら困るから、念のためだ。
よろしく頼む」
ヒナは銀翼たちが森に行くと聞いて、
ジークの袖をぎゅっと掴んだ。
「……いっちゃうの……?」
ジークはヒナの頭を優しく撫でる。
「ヒナ、大丈夫だ。俺らは強いからな。
この間のすごく強い魔物の時も無事だっただろう?」
「うん……。わかった……。おにいちゃんと、まってる……」
(最近、ちゃんと”おにいちゃん”って言えるようになってきたな。
少しずつ話が聞き取りやすくなってる。成長しているのだな。)
もっちーも「きゅいっ!(僕も一緒にいるよ!)」と慰めている。
ギルドマスターは微笑む。
「いい子たちだな……。
よし、銀翼が出ている間、またよろしくなー!」
「おねがいします!」
「おねがい……しましゅ!」
***
銀翼たちがギルドマスター室を出て、
魔の森へ向かうためにギルドから出発した。
アレクとヒナは手を振って見送るが、 姿が見えなくなると、
「……うぅ……」
「……ひぐっ……」
2人そろってギルドマスターにしがみついて泣いてしまった。
「よしよし……すぐに帰ってくるさ。」
しかし、アレクは涙を拭き、顔を上げる。
「ギルマス……おねがいがあるの!
おれ、みんながかえってくるまで、じぶんができることをやりたい。
せっかく、かいふくまほうが、つかえるようになったから、
もっとうまく、つかえるようになりたい。
だからね、くんれんしつで、けが、したひとを、ちゆしたい。
いざというとき、みんなのたすけに、なりたいから!」
ギルマスターは目を細める。
泣き顔のまま、それでも前を向こうとする姿に、ギルマスは胸が熱くなった。
「そうか……うれしいよ。
だが、無理はするなよ。……許可はしよう。
こちらも助かるからな。」
こうしてアレクは、
訓練場の隅で“回復師見習い”として一日の数時間、訓練をはじめた。
最初は冒険者たちも戸惑っていた。
すでにアレクが回復魔法を使えることは広まっていた。
しかし、実際治すところをみた者は少なかった。
その為、訓練中に負傷する者がいても、
「大丈夫だ。たいしたことはない」と、我慢してしまう者が多かった。
だが、本気の訓練であれば、やはり『たいしたことない』で、済まない者も出てくる。
そんな冒険者をアレクは快く回復していった。
「おお……本当に治った……!」
「すげぇ……本当に治癒魔法使えるのか……!」
「ありがとうな、坊主!」
アレクは照れながらも、
「どういたしまして!」と笑顔で返す。
だが、そんな様子をギルマスが見て、冒険者達にくぎをさす。
「ここでアレクが回復魔法を使っているのは、お前らと同じく回復魔法の訓練の為だ。
だから、訓練中の負傷なら、アレクの治癒魔法を受けることを許可しよう。
だが、依頼で負傷したものは、ポーションを使って自分で治すか、
街の回復師に依頼しろ。街の回復師の仕事を取るわけにはいかない。
それに、あまりアレクに頼りすぎるなよ。まだ3歳なんだからな!」
ギルマスは、その辺の線引きをきっちりしてくれた。
(さすが頼れるギルドマスターだ。)と思っていたら、
「そうだった!アレクってまだ3歳だった!」
「あれ?3歳ってそもそも魔法使えたっけ?」
「そこはさ、銀翼に引き取られて、魔法バカの影響受けたとか?」
「じゃあ、そのうちアレクも大魔法とかうっちゃうのか?」
(そこはさ、テンプレでさ、『アレクだからしょうがない。』でしょ!
その方が、なんかかっこいいし!)
と、アレクは心の中で反論した。
ヒナはどうしているかというと、
アレクの回復魔法の助手で、看護師さんをしたり、
受付嬢の横に子供用の椅子をおいて、受付業務のお手伝いや、
依頼を受けに来た冒険者に、
元気よく「いってらっちゃい!」「おかえりなしゃい!」と声をかけていた。
『えらいなー!』『行ってくるよ!』『ただいま!』『今日はお土産があるぞ!』など、
これが冒険者に大好評で、いつのまにか冒険者ギルドの”マスコット”になっていた。
なかには、『ヒナちゃんに、おかえりなしゃい!っていう声を聞きたくて、
魔物との戦闘で負傷してきつかったけど、帰って来れたんだ』とか、
『ヒナちゃんの、”いってらっちゃい!”と、”おかえりなしゃい!”って言う声を聞きたくて、依頼に来た』という冒険者もいた。
この数日、ギルドの空気はいつもより柔らかく、笑い声が増えていた。
(マスコット効果すげー!さすがヒナ!)
アレクは妹を誇りに思うのだった。
後から分かったことだが、この期間、冒険者の依頼受注件数が上がったり、生存率自体が上がったとか。
そんなこんなで、あっという間に日々は過ぎていった。




