43. 新しい仲間と、アレクのいたずら
フォレット支部のギルドマスター室で、
アルフレッドが重い報告書と向き合っていたその頃――
パーティーホームのアレクとヒナの部屋では、
アレクとヒナがベッド並んで眠っていた。
リオンはお気に入りのクッションを部屋の隅に置き、
そこで眠っていた。
外は静かで、暖炉の火だけがぱちぱちと小さく音を立てている。
暖かな灯りだ。
そんな中――
ヒナが、むくっと起きた。
「……ん……」
寝ぼけた目をこすりながら、
まわりをきょろきょろ見る。
「あ、ここ、おうちだ……」
そして、アレクを探す。
隣でぐっすり眠るアレクを見つけた。
ヒナはアレクの肩をちょんちょんとつついた。
「……おにいちゃ……おきて……」
「う~ん……。くー……」
「……おにいちゃ!おーきーてー!」
アレクは目をこすりながら、ゆっくり起き上がる。
「……んぁ……ひな……? どうしたの……?」
ヒナは、待ってましたと言わんばかりに、
ぱぁぁっと顔を輝かせた。
「おにいちゃ!こっちすわって……」
ヒナが面と向かって座るように促してくる。
「あのね…!ひなね……!ないしょの、おはなし……あるの……!」
アレクは一気に目が覚めた。
「えっ!? なに!? なに!? ないしょばなし!?なんだろうっ!!」
リオンもそっと目を開け、2人の様子を見守る。
ヒナはこくこくとうなずき、そっと自分の肩を指さした。
「……でてきて……」
すると――
ヒナの肩の上に、
空気がゆらりと揺れた。
次の瞬間。
ぽんっ
白いもふもふが現れた。
すごく手触りがよさそうだ。ふかふかだ!
大人の手のひらサイズ。
長い耳。
若葉色の瞳。
おでこには、宝石のように輝く赤い石。
鳴き声は「きゅっ!」
アレクは息を呑んだ。
(なんてかわいいんだ!!)
「……っっっ!!
もふもふ……!!
ひな……あ……!このこ……!!
このこ……!! まえにあったことがる……!!
もふもふの……もふ~……!!」
興奮しすぎて言葉が出ない。
ヒナは得意げに胸を張った。
「そう! まえ、ようせいのもりであった、もふもふさん!
ぺちんっ!の……まえのひに……
ひなのところに、きたの……!
それで……こうやってかくれてたの!」
もふもふは「きゅきゅっ!」と鳴き、
ヒナの頬にすりすりしてくる。
アレクは目を輝かせた。
(きゃわわ……!!もふもふ……!
見た目、前世のカーバンクルっていうのに似てい気がするなー。
たしが幻獣ってやつだった気がする)
その時、部屋の隅からリオンがゆっくり歩いてくる。
「おぉ、そやつは『幻獣 カーバンクル』だのぉ。
珍しい。見たのは二百年くらい前だったか」
「きゅっ!きゅきゅきゅ!(神獣フェンリル様、お久しぶりです!)
そういうと、もふもふカーバンクルはリオンのところに飛んでいき、
なにやら挨拶をしているようだった。
「すごい……!
ここまでくるの、たいへんだったでしょう……!
よくきたね……!もふもふさん!いや、かーばんくるさん
ひな、いいなぁ……! かーばんくるさん……!」
カーバンクルはアレクの方へぴょんっと跳び、
アレクのほっぺに前足でちょん、と触れた。
「きゅきゅきゅ!(アレクのことも、だいすきだよ)」
アレクはびっくりして目を丸くした。
顔が高揚していくのが分かる。
「……い、いま……ことば……きこえた……!
ひな! いま! きこえたよ!!」
ヒナは嬉しそうに笑った。
「うん! ひなも、こころのなかで、きこえるの!
あとね、もふもふさん、ひなに、くろいおーらのこと、おしえてくれたの!
ぺちんっ!するときえるよって、おしえてくれたのも……もふもふさんなんだよ!」
アレクは感動で震えた。
「すごい……!
ひな……すごい……!かーばんくるさんも……すごい!!」
カーバンクルは得意げに胸を張る。
「きゅっ!(でしょ!)」
ヒナはアレクの手をぎゅっと握った。
「みんなが、おきたら……みんなに、みせてあげたいの……
みんなで、かわいい、おなまえ、つけてあげたいの……!」
アレクは力強くうなずいた。
「うん!!
ぜったい、みんなよろこぶよ!!
みんなで、かーばんくるさんにぴったりのおなまえ、つけようね!
かーばんくるさん、よろしくね!!」
「きゅきゅ!(よろしくね!)」
「さぁ、それじゃあ、まだよるだから、もうすこし、ねよっか」
そういうと、ヒナはふと、もじもじし始めた。
「……あのね……
ひな……おといれ……いきたい……
おにいちゃん、ついてきて……」
アレクは笑って立ち上がる。
「うん! いいよ!いこ!
かーばんくるさんも、いっしょにいく?」
「きゅっ!」
「リオンにいちゃんも、いっしょにいく?
「いや、寝ている。気を付けていくのだぞ」
「「はーい!」」「きゅいっ!」
三人(?)はそろって部屋を出ていった。
夜の静かなパーティーホームに、
小さな足音と、かすかなカーバンクルの「きゅきゅっ」とう可愛い声が響いた。
***
トイレにヒナが入ると、カーバンクルはアレクの肩に乗った。
ほっぺがくすぐったい。かわいい!
ふわふわで、あったかくて……なんか、ねむくなってきた……。
「おにいちゃ、おわった!ありがとう!」
「うん……。ねむく……なってきた……かえろー」
カーバンクルは、ヒナの肩に飛び移る。
すりすり。ふふふっ。
可愛い風景。
ヒナも眠くなってきて、
また二人でふらふらと来た道を戻る。
(なんか……、ドアが……少し開いているところもあるけど……、あそこは違うな…。)
そこを通り過ぎると、ヒナが次のドアに入ろうとする。
(あれ……?そこだったかな……?たしかあそこは……オルガ?)
そこでアレクはいたずら心がちょきっと出てきた。
(くっくっく……ヒナ、ぜんぜん気づいてない……!
よし、このまま……、おるがのへやでねちゃおう……!!
ふふふ……あしたの、おるががどんなかおするか、たしみだなっ……!くくくっ!)
(カーバンクルさん、部屋の中に大人の人いるけど、俺たちの家族だから、
大丈夫だからね。今日はここで寝よう!)
「きゅ?きゅきゅ!(そうなの?わかった!)」
アレクは楽しくなってしまった。
ヒナがふらふらしながら、オルガの布団に潜り込み、
横向きに寝ている胸元にがしっと張り付き、
「あったかい……」と言って、すぐ寝た。
(ヒナは、一回張り付くとなかなか剝がれないんだよなー。くくくっ!)
オルガは、無意識に、う~んと言いながらヒナを抱きしめる。
(ヒナは子供体温だから暖かいんだよな。
あ、俺もそうか。なははー)
カーバンクルは、ヒナたちを見て、
小さく「きゅきゅ~(あったかそ~。ぼくもあそこで寝る!)」と言って、
ヒナとオルガの隙間にすっぽり収まった。
(くくくっ!オルガ、明日が楽しみだぜ!俺もねよーっと)
そしてアレクも布団に潜り込み、背中に張り付いて目をつむった。
(オルガ、大きくて暖かいや。なんか安心する……。
俺もこんな男になりたいなぁ)
そんなことを思いながら、アレクも眠りについた。
***
朝、オルガはいつもより暖かい事に気が付いた。
(暖かいというより……、少し暑い……?)
しかも、なにかが腹と背中についている……。
腹についている物を触ってみる。
柔らかい。小さい。
動こうとすると、しがみついてくる。
「……もふ……もふ……」
(もふもふ……。オレはモフモフしてねぇぞ……くくっ!なんかおもしれーな)
背中についている物を触ってみる。
やっぱり柔らかくて暖かいのがついている。
「…………」
寝起きでぼーっとしながら考える。
そして、
(……ま、いっか)
「ぐー」
「オルガー!あさだ………よー……ぐふっ!」
あれは、フリードだな。すぐに戻って行った。
(なんだ?)
朝食まで、まだなんだろう。
もうすこし寝るか。
「ぐー」
ドアの向こうで、ひそひそ声がする……。
(なんだ?もう朝飯か?じゃあ、そろそろ起きるか……
なんか暖かくて起きたくねぇーな……)
しょうがねえか、と、
起きようとすると、起きれない……
「??」
目を開け、胸元を見る。ヒナが寝てる。
と、なると……と、思い、背中をちらっと見てみると……。
やっぱりか。アレクが寝てる。
気持ちよさそうだ。
俺ももう少し寝るか………。
「な!?」
バッと顔を上げる。
くすくす声がする。
ドアを見ると、ジーク、エルミー、フリード、クロムが立っていた。
「よう!起きたかー。オルガぱぱ」
ぐぬぬ……。
「な、なんでこいつらがここにいるんだ?」
リオンがのっそり来た。
「この間と一緒であろう。トイレに行ったようだからな」
「ジークの後はオレのとこかよ……」
そうしてゆっくりを体を起こす。
ヒナが「うにゅー」と言い出し、小さく丸まった。
そして、横からぽろっと何かが転がってきた。
「ん??なんだこれ」
「「「「なにそれ、はじめて見たな。動物か?」」」」
「きゅ~~」
もふもふは、小さく鳴くとお腹を丸出しで広がって寝た。
無防備だな……。それでいいのか?
「あはっ!なんだこいつ。こんな無防備でいいのかよ……」
そういって、つんつんしてみるフリード。
するとまた丸まった。これはなんだろうな?
「きゅい~」
(文句を言っているみたいだ)
そう思っていると、後ろからアレクの声がした。
「オルガーーー!まだうごかないでーー!」
背中にアレクが張り付く。
「なっ!」
「「「「くくくくっ………」」」」
「お前ら。笑ってないで、なんとしろ」
「あ、そうでした。
ギルドの受付嬢が、ヒナはぎゅっとすると目が覚めるそうですよ」
「しょ、しょうがない……」
ふにゃっとしているヒナを抱えなおす。
「……ぎゅっ!」
ヒナの目をパチッと開いた。
(やっと起きたか。よかっ……)
「うきゃ~!!お返しのぎゅ~~~~!!」
「うわーー!!」
オルガが慌てだす。
すると、後ろからも笑い声が聞こえてきた。
「くっくっくっ!オルガ、おはよーーーー!!!
ひなだけずるいーーー!おれも、ぎゅーーーー!!
おるが、だいすきだよー!」
「ひなも、だいすきのぎゅ~!!」
「おっ!おまえらーー!助けろーーー!!」
「オルガぱぱ、子供たちを起こして、ダイニングこいよーー」
ジークが笑いながら手を振り、戻って行く。
「ドア開けておいたのに、入ってきてくれませんでした。次はどうしたら……」
エルミーが何やら次の作戦を立てながら戻って行った。
「オルガぱぱ、似合ってたぜ~~にひひっ!」
フリードが、「あーおもしろかったー」と戻って行った。
「あーとても尊い姿を見れて、朝から幸せです。写真……撮りたかったな……」
クロムも言いたいことを言って戻って行った。
「アレクは面白がっているな。子供らしくていいんじゃないか?」
そういうとリオンも面白そうに戻って行った。
「おい!おまえらー」
「ねえねえ、オルガ、びっくりした?びっくりした?」
アレクがわくわく顔で迫ってくる。
「びっくりちた?」
(おまえもか!ヒナ!
とうか、ヒナはわかっていないよな。)
アレクの態度がひっかかる……。
(………これは?どういうことだ?……!!!!)
「アレク、もしかして、おまえー……!」
「ちがうよ!
よるね、ヒナが、おるがのへやに、はいっていっちゃったんだ!
だから、おもし……じゃなくて、しょうがなく、おれも、
おるがのとなりで、ねたの。おるがといっしょにねると、あったかかった!」
「ひなも、あったかかったのー」
「きゅいっ!!」
なにやらもふもふもいる……。
「そして、おまえはなんだ?」
オルガが「しょうがねぇなー」とつぶやきながら、
「さて、お前たち、みんなが待っているから、いくぞ!」
といって、2人と1匹の頭をひと撫でし、扉に向かって歩き出した。




