42. フォレット支部からの緊急報告を受けて(シルヴァラント領 領主編)
魔の森に最も近い領地の領主、辺境伯レオンハルト・シルヴァラント。
シルヴァラント領 、ラントの街にある領主館の執務室で、
辺境伯レオンハルト・シルヴァラントは、
夜の書類仕事中、一息ついて椅子にもたれかかっていた。
「……ふぅ。
今日も魔の森関連の報告が山のようだ……」
窓の外を見ると、遠くに魔の森が見え、木々がサラサラと揺れている。
この領地は、魔の森と隣り合わせ。
何かあれば真っ先に被害を受ける場所だ。
それゆえに、元S級冒険者パーティーの実力と統率力を買われ、
もともと貴族の出の俺、が辺境伯に陞爵させられ、
この地を任されることになった。
(たしかに、冒険者達の協力を得てなんとかなっている。
森の偵察に関しても今のところ、問題ない。
だが!しかし!報告書の山は、どうにかならんもんか。
たしかに、書類仕事も嫌いではない。
いろいろな情報を知ることができるからだ。
だが、それにしても、この書類の量、何とかならんものか。)
「あー。また冒険者として冒険の旅に出たいものだ。
その時は、アルも誘ってやろう。きっと喜んでついてくるだろうさ。
あっはっはっはーーーーー。はぁ~~~~。
現実逃避はここまでとしよう。
書類が減るわけじゃないからな。」
そんな時だった。
緊急用の転送魔法陣が淡く光り始める。
ふわりと柔らかな光と共に、手紙が現れると、緊急転移物の到着の音が鳴る。
『ピーッ!ピーッ!ピーッ!』
レオンハルトの表情が一瞬で引き締まる。
「このタイミングだとアル(アルフレッド)か?
ははっ! アルのやつ、また面倒ごとを拾ってきやがったな!」
(緊急転送魔法陣を使うとは、何かあったのか……)
「……フォレット支部からの緊急の手紙か。
やはり、アルだったか。例の2件の殲滅戦のことだろうか……」
彼はすぐに手紙を取り、封を切った。
静かな部屋に手紙の開く音だけが響く。
読み進めるにつれ、
レオンハルトの眉が深く寄っていく。
「今回は立て続けの2件だったが、
よく対応してくれたものだ。さすがはアルだ。」
読み進め、レオンハルトの手が止まる。
手紙を握る指先に、わずかに力が入る。
手紙に書いてあったのは、
2件目のフォレットでの殲滅戦での出来事だった。
この件は、まだ報告書が上がってきていない。
手紙には、衝撃的な内容が並んでいた。
「……大量の魔物……
黒いオーラを纏う変異個体……
殲滅戦完了……」
そして手が止まった。
「……黒いオーラを“払った”者……?
……金色の光を放つ回復師……?
……幼児……?
……伝説の神獣フェンリルが保護者……?」
レオンハルトは思わず椅子から身を乗り出した。
「な……なんだ?この内容は……。
アルがウソを報告することはないだろう……。
ということは、現実に会った話……」
レオンハルトは、考えることをいったん放棄し、
デスクに突っ伏した。
「は~~~~~~。読みたくなかった……。
アルのやろう……
ものすげぇ内容の手紙、送ってきやがって……」
「神獣フェンリルが保護者って、その幼児たちは何者だ?
「それに、まさか黒いオーラに取りつかれたものが出てくるとはな……。
その上、黒いオーラを払えるものが出ただと……っ!
笑えるぜぇ!とうとう黒いオーラに勝てる希望が出てきた!!
が!!しかし……2歳?ガキすぎるだろうがーーーッ!」
「はぁ。はぁ。はぁ。手紙にツッコミを入れてしまった」
頭を押さえて、顔を左右に振る。
「で、もう一人のガキが、金色の光を放つ回復師……。
欠損も修復できるだとっ!!すごいではないかっ!
欠損まで修復できる回復師なんて、本当にごくまれだ。
のどから手が出るほど、欲しい存在だ。
それが……。3歳児!?
狙われやすいどころか、どうぞ狙ってくださいな感じだろうがーーーー!」
「はぁ。はぁ。はぁ。しかし、アルもすごい爆弾を抱えているな……。
あいつは昔から、誰よりも人を守ろうとする男だったが、
ほんとうに、よくやってくれている。
確かに、ここから先は、私の仕事だな……」
「今回、黒いオーラを払える存在が現れた……。
世界が動くぞ……」
彼は深く息を吐いた。
デスクにおいてあるコーヒーを一口飲み、心を落ち着かせる。
「それにしても……2歳と3歳か……。
あの年で、そんな力を得てしまうとはな。
どれほどの重荷を神に背負わされているんだ……
私もアルと一緒に守ってやろうじゃないか」
彼は立ち上がり、
机の引き出しから新しい紙を取り出した。
「……すぐに動く必要があるな」
ペンを走らせながら、
レオンハルトは静かに呟いた。
「……極秘扱いは当然だな。
……すぐに国王への謁見を願い出たいものだが、
その前に、自分の目で子供たちを見る必要がありそうだ……」
「神獣フェンリル、俺も会ってみたいな……」
そして、親友のアルを思う。
「アル。お前が守ろうとしているものは、俺も一緒に守る。
あの幼児達も、フォレットも……だ。
なんたって俺は“最強の辺境伯”だからな!」
書き終えた手紙を緊急伝達用魔法陣に置き、
魔力を込める。
「――《伝達》」
手紙を送ってから代官を呼ぶ。
「フォレットの街の冒険者ギルドへ、明日早朝に出発する。
あとは頼む」
「承りました。
レオンハルト様、前回みたいに森で迷子にならないでくださいね!」
「あれは迷子じゃない! 偵察だ!
それに、今回はフォレットの街だ!」
くすくす笑いながら代官が部屋を出て行った。
窓の外の夜空を見上げる。
この領地は王都から遠く、夜は暗い。
その為星々が綺麗に煌めく。
冒険者達一人一人が自分の命を燃やしながら、懸命に生きているように……。
(黒いオーラが動き出した。
俺も忙しくなるな。……今よりもずっと……)
「アル、……必ず守れよ。その子どもたちを……希望の光たちを。」




