36. 変異個体VS銀翼&ぺちんっ!
今回戦闘シーンがあります。苦手な方はスルーしてください。
オルガが前線に着いた時、
戦闘が始まる直前だった。
「ジーク、アレクとヒナを連れてきた。
少し離れたところで2人についている」
「じっ!じ~~~~~ぐ~~~~~ッ!!
わぁーん!えるみ~~~~~~ッ!!
うぐっ!ふりーーーーどーーーーだぁ~~~~ッ!!
ぐ、、、ひっく!ぐろむ~~~~~!!
りおんにい……ちゃ!!
うわあぁぁぁぁぁーーーん!あいだがったよーーーーーー!!」
ジークの方に駆け寄ろうとする2人。
「こらこら、そっちにいくな。邪魔になるからな!」
後ろからオルガが2人をがっちりホールドする。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~ん!!」
手をふりふり、気持ちだけでもジークの方に行きたがる2人。
「とっても嬉しい、とっても嬉しいんだが、戦闘に入るんだぞ~。
緊張感が………」
ジークも近くに行ってやりたいが、変異個体が目の前にいる……。
「2人とも、そこでおとなしくいているんですよ!
後でいっぱい抱っこしてあげますからね!!」
エルミーはだっこが好きだ。弓を持ちながらプルプルしている。
フリードは笑いながらこっちを見る。
「アレクはおにいちゃんだから、ヒナ守ってやるんだぞーー!」
「うぐっ!わがっだーーーーーーーー!わぁーーん!!」
「あはは~。もうちょっと待っててなー。今すごい魔法で片づけるから!」
「アレク、ヒナ、よくがんばった!
パーティーホームに帰ったら、クッキー作ってあげる」
クロムはあーんて食べさせるのが好きだ。
はやく帰りたい。帰りたいのに……。
「あ~。え~。お前ら。もう泣き止もうな~。
みんな元気だから、大丈夫だぞ~。
静かにまっていような~」
「「ぐすっ!うんっ!」」
まわりの冒険者も変異個体との戦闘中だというのに、
ほっこりしてしまっている。
「オルガが、保育園の先生になってる……」
「悪ぶってるけど、子供好きだもんなー!手慣れてるし!」
「パパにも見えるよな。オルガパパ。にあってるし!」
「……パパ?」
「おるがぱぱ……」
見つめてくる2人に目のやり場に困るオルガ。
しょうがないので、とりあえずまとめて抱きしめる。
そして、2人を驚かせないように、
ギロッ!と冒険者の方を向き、
「しょうもない事、言ってんじゃねーぞ!!」
と、小声で文句を言うしかなかった。
***
ジークが声を張り上げる。
「これから銀翼と神獣フェンリルが攻撃に入る。
大規模な魔法も使うから、少し離れていてくれ!
黒いオーラを払ったら、一斉攻撃を加える!
準備だけはしておいてくれ!」
「わかった!」
「準備しておく!」
「頼んだ!!」
まわりの冒険者からも返事がきた。
「さぁ、泣き虫のちびたちの為に、がんばりますか!」
「「「おう!!」」」
のっそり森から変異個体が出てきた。
姿がはっきり見えてくる。
オオカミ種のようだ。
だが、見た目はもうオオカミ種には見えなかった。
爪も赤く変色し、通常の3倍以上長くなっていた。
体も通常のオオカミより何倍も大きくなっており、
体毛も赤黒く変色し、動くたびに揺れるのに、硬質化していた。
その変異個体が、今にも飛びかかろうと四本足で重心を低く下げていた。
その時、何かを感じとったのか、
変異種が突然フリードを見た。
狙いをフリードに定めたようだ。
「俺かー!いいよ!相手してやろうじゃん!!」
いつものように軽い口調だが、
緊張の色を隠しきれない。
でもさすがA級パーティーの一員というべきか、
怯む様子は一切ない。
「ジーク、あの変異個体、魔力を見ているようです。
フリードは魔力量はすごいですからね、格好の獲物に見えているのでしょう。」
エルミーはエルフの血か濃いせいか、魔力に敏感だ。
仲間たちの中で断トツ魔力が高いフリードを狙ってきた。
「フリード、気をつけろ!触るんじゃないぞ!」
「わかってるってー!じゃあ、そっちがその気なら迎え撃とうか!!」
「グオォォォォォーーーーーーーッ!!」
お腹に響くような魔物のうなり声。
まわりの冒険者の数人は、これだけ腰がひけてしまう。
「おっ!!やるきだね!!
じゃあ、とっておき、いっちゃうよ!!」
***
まず、クロムが前にでた。
「ちょっとまって、先に身体強化するね」
「――《聖励・戦気昂》」
仲間全員の身体に光が走り、筋肉が一瞬で熱を帯びる。
フリードが「おおっ」と声を上げ、
ジークもエルミーとリオンも一瞬で攻撃力と反応速度が跳ね上がった。
「ほいじゃ!変異個体さんは、オレが狙いみたいだから、
さっそくいきますか!」
「――《土砕・重圧崩》」
フリードは、土属性を一点に凝縮し、
“重力の塊”のような魔力弾を作り、変異個体へ放った。
命中した変異個体は、力技で地面に押し潰されるように沈む。
「これでどうよ!」
すると、ガガガガガッと地面が揺れ出した直後、
「グオォォォォォッーーーーーー!!!」
吠えて、抑え込んでいた土を弾き飛ばし、立ち上がった。
ジークが魔法剣を構えた瞬間、
空気が一段階、重く沈んだ。
「じゃあ……次は俺がいく。
――《雷帝・招雷刃》ッ!!」
技名を叫んだ瞬間、
天が「バチィッ!!」と割れて眩しいほどの光を放ち雷が変異個体に落ちた。
「グガガガガガガッ!!!」
雷が落ちた後の静寂。
誰も何も言えない圧倒的な魔法だった。
「す、すげーッ!!二つ名付きの魔法!かっこいいぜー!!」
「銀翼のメンバーみんな、ジークさんに憧れて集まったって聞いたけど、そうなるよなー!!」
「めっちゃ!かっこいいよなー」
冒険者たちは、圧倒的な魔法を放つジークに憧れを抱いた。
アレクとヒナは驚きつつも、冒険者たちの反応をみて、自慢げにうんうん頷く。
変異個体は、雷に打たれ、一瞬動かなくなった。
が、黒いオーラが変異個体の体をゆっくり這い出すと、
傷がふさがり、立ち上がった。
「あれでも立つのか……」
「すげーな。大技2つも受けたのに」
「回復力、異常すぎるでしょう!! 次!私がいきます!」
エルミーが弓を引き絞る。
風精霊が周囲に渦巻き、彼女の髪をふわりと揺らした。
「風精霊たち!絶対にあれには近づかないでください!危ないですから!
――《風王・天穿》!!」
放たれた矢は風の王の力を宿し、
空気をねじ曲げながら一直線に変異個体へ突き刺さる。
衝撃で巨体が後ろへ押し返され、赤黒い体毛がざわりと逆立った。
「まだ倒れぬのか……では、最後に我がやろう」
今のリオンは神獣フェンリルの姿になっており、
佇まいだけでも美しく、また恐怖を感じさせる圧を感じる。
リオンが一歩前へ出る。
その足元に雷が走り、毛がふわりと舞い、雷をまといはじめる。
次第に、リオンのまわりの草が高温に耐えきれず焦げだし、空気が焦げる匂いが漂う。
「――《雷牙・天穿》ッ!!」
雷の牙が地を這い、
変異個体の足元から一気に天へと突き上がった。
雷光が爆ぜ、巨体が宙に浮くほどの衝撃が走る。
「グガガガガガガッ!!ガッ!ガッ!!」
地面に倒れ、また動きが止まった。
しかし、また黒いオーラが変異個体を回復させた。
「また立ち上がるのか……きりがないのう」
何かがブチッと切れた音がした気がした。
「……まだだよ、フリード。
……あれだけやっても立つなんて、なんなの?異常すぎるでしょう。
……帰れないんだけど。ほんとに。」
黒い魔力を放つクロム。
(クロムのやつ、闇の魔法使えないはずなんだけど、なんで魔力が黒くなるんだ?
あれも、魔法研究の成果か?
かっこいいよなーあれ!
俺も今度ああいうの開発しようかなー)
フリードがそんな場違いな事を考えていると、
「フリード、この間完成したやつ、あれ、まだ実際には試してないよね……」
クロムの声が低く、黒いが楽しそうだ。
フリードがニヤリと笑う。
「おっ、いいね!出来たてほやほや、披露しちゃう?あれ、やっちゃう?」
「試したかったんだ。
お前との魔法研究の成果……ここで使わせてもらうよ」
「いいねぇ! じゃあ合わせるぜ!」
2人はそういうと、フリードがクロムの横に立つ。
互いに魔力を練り上げだす。
ちょっとしたミスでこの周辺がどうなるかもわからない融合魔法。
2人の魔力が絡み合い、風と雷と闇と光が混ざり合うような、
異質な魔力の渦が生まれた。
渦はゆっくり混ざり合い、凝縮されていく。
「アハハハハッ!!いくぞ、フリード」
黒く笑うクロム。
「ウハハハハッ!!もちろんだ!!」
楽しくてしょうがなさそうなフリード。
息ぴったりの幼馴染2人が同時に叫ぶ。
「「――《双極融合・天墜閃》ッ!!」」
空が急に荒れだした。
天から落ちる眩しく真っ白な閃光の柱が、
変異個体を中心に大地ごと叩き潰した。
「グッ!!!!!!」
轟音が森を揺らし、
冒険者たちが思わず耳を塞ぐほどの衝撃。
砂煙が晴れると――
変異個体は地に伏していた。
ピクリとも動かない。
「うん。この魔法いいね。威力もあるし、叩き潰した感がたまらない。」
「こえーよ!その言い方!!
でも、かなり威力あったし、こういう時使えていいな!!俺も気に入った!」
「お前たち、またすごいのを作ったな……」
「耳が痛いです」
「目がチカチカするのう……」
リオンが頭を振って目を前足でこすっていた時、
「グ……オ……ォ……」
変異個体が、声がした。
「またか……」
「は? しぶとすぎるだろ……。
黒いオーラってこんなにしぶといの?」
クロムのこめかみがピクッと動く。
「……もういい!!
今のうちにガチガチに拘束する!!」
「――《雷鎖》《雷鎖》《雷鎖》《雷鎖》《雷鎖》」
雷の鎖がバチバチと何重にも拘束し、がんじがらめにした。
”ハッ!!これでどうよっ!”という顔をするクロム。
「グッ!!!!!」
「オルガ、これでいける?」
「サンキュー!クロム!!」
オルガが全速力で駆けてくる。
腕にはヒナだけを抱えていた。
「ヒナ、今だ、いけっ!!」
ヒナがにょきっと顔を出す。
小さなおててをグンと伸ばした瞬間、
空気が軽くなった気がした。
そして、勢いをつけながら、
「せーの!ぺちんっ!!」
「「「ぺちんっ!」」」
なぜか冒険者も一緒に言ってしまった。
「言っちゃうよなー」
「可愛いもんなー」
小さな手が変異個体の額に触れた瞬間、
黒いオーラが一気に吹き飛び、
まるで霧が晴れるように消え去った。
「「「「「おおおおおおおおおおおおっ!!」」」」」
冒険者たちから大歓声が上がる。
ジークが待ってましたとばかりに剣を掲げ、叫んだ。
「お前ら!! やっちまえぇぇぇぇッ!!」
冒険者たちは、
ジーク達の背中を見て、
足どりも軽く自然と前へ出た。
「「「おおおおおおおおおおっ!!!」」」
黒いオーラを失った変異個体へ、
冒険者たちが一斉に突撃していった。




