34. 街の危機と黒いオーラVSヒナ
それから数日が過ぎた。
ギルド内はいつもの様子を取り戻している。
ギルドマスターも冒険者も、
アレクには自然体で接するようにした。
いつものように、
「いってらっしゃい!」「おかえりー!」
アレクとヒナのそんなへんてつもない挨拶で、
冒険者たちは『今日もいっちょがんばりますかっ!』と気合が入り、
待っていてくれるものがいるから、ギルドに帰る。
そんな気持ちの変化を与えていた。
今日もいつものように受付嬢が起こしに来てくれて、
ギルドの1階へ向かった。
***
階段を降りた瞬間――
ギルドホールの空気が、いつもと違った。
怒号。
走り回る足音。
武器を構える音。
その雰囲気だけで、体がこわばった。
ギルドマスターが、
焦りを隠せない声で冒険者たちに叫んでいた。
「緊急依頼だ!!
森から魔物の大群がこの街に向かっている!!
出れるものは全員、殲滅に迎かえ!!」
アレクとヒナは、ギルドマスターの指示に驚き、
何事かとギルドマスターを見る。
「ま、魔物……?」
「おにいちゃ……こわいの……くるの……?」
ギルドマスターは二人に気づき、
一瞬だけ表情を緩めたが、すぐに険しい顔に戻った。
「アレク、ヒナ……すまない。
街が危ない。魔物が大量にこの街に向かっているようだ」
受付嬢が説明を補足する。
「ここのところ、ずっと森の様子がおかしかったの。
したら、今日、とうとう恐れていたことが起きてしまったの。
どうも、森の奥で何かが起きているみたいなの。
魔物たちが“何かに追われて”こっちに向かっているのではないかと
冒険者の一人が言っていたわ」
冒険者たちが次々と武器を手に取り、
ギルドを飛び出していく。
「E級からC級までの魔物が混ざってる!
E級冒険者は絶対に単独行動するな!!絶対一人で戦うな!!
それにしても、こんな時に……魔物の数が多すぎる……!!」
「回復役がいないのもかなり痛い……!」
「辺境に行ってる上位冒険者はまだ戻らねぇのか!?」
「こちらに向かっているとの連絡がありましたが、
まだ少し時間はかかりそうです」
ギルドマスターは歯を食いしばった。
「……戦力が足りない……。
俺も前線に出るぞ!!」
その言葉に、周囲がざわつく。
「ギルマスまで……!?」
「ギルマスは元S級冒険者だ!心強いぜ……!」
ギルドマスターはアレクの方を向いた。
「アレク……すまない。
お前の力が必要だ。
だが、前線には出さない。
街の門の前で“回復要員”として待機してくれ」
アレクは小さく息を呑んだ。
「……おれ……みんなを……たすける……!」
ヒナはアレクの服をぎゅっと掴んだ。
「ヒナも……いく……!
おにいちゃ……ひとりでいかせない……!
ヒナも……てつだうよ!!」
ギルドマスターは迷ったが、
ヒナの決意の強さに、ゆっくり頷いた。
「……ただし、絶対にアレクから離れるな。
街の門からも離れるな。いいな?」
「うん……!」
***
戦場は、すでに地獄だった。
地面が揺れ、森の奥から獣の咆哮が響いた。
森から押し寄せる魔物の群れ。
冒険者たちが必死に迎え撃つ。
倒しても倒しても、森から溢れてくる。
そんなに強くないとは、これは数の暴力だ。
気を抜けば、横から狙われ、やられる……。
気が抜けない緊張した戦い、
その中で、体力と精神力が削られていく。
「くそっ! 数が多すぎる!!」
「後ろに下がれ! 挟まれるぞ!!」
アレクの元には、
次々と負傷者が運ばれてくる。
「アレク君! この人を!」
「はいっ!!」
アレクの手から金色の光が溢れ、
傷がみるみる塞がっていく。
「あぁぁ……! 助かった……!!
アレク、ありがとうよ!
よし!戻るぞ!」
「ヒナ、つぎのひとをよんで!!」
ヒナはアレクの横で、
負傷者を案内したり、
アレクの汗を拭いたり、水を渡したり、
治療の手伝いをしたり、
小さな手で必死に手伝っていた。
「おにいちゃ……つぎのひと……よぶねっ……!」
***
ようやく魔物の群れが減り、
残り一体となった。
だが――
その最後の一体は姿からして異様だった。
「な、なんだあれ……」
「黒い……オーラ……?」
変異個体。
しかし、ただの変異個体とは違うようだ。
体のあちこちから黒い靄を噴き出し、
周囲の魔物を追い立てていた“元凶”。
黒い靄はまるで生き物のように蠢き、触れた草木がしおれていく。
「皆、近づくな! 黒いオーラに直接触れるなよ!!
触れたらところから取り付いてきて、魔力を吸いつくし
苦しみながら死ぬまで消えないそうだ!」
「「「ひーーーっ!!こえーよ!!」」」
遠距離攻撃が飛び交うが、
変異個体はしぶとく、傷を負ったところから驚異的なスピードで回復していく。
冒険者たちは、触れられないように避けながら攻撃するしかなかった。
そんな中、一人の冒険者が逃げ遅れた。
「うわっ――!!」
「えっ!!おい!よけろーーーーーーーっ!!」
ガシュッ!!
「ぐあぁーーーーッ!!!」
逃げ遅れた冒険者は、背中を爪で切り付けられ、
更に、手にまとわりついていた黒いオーラもまた、
冒険者の背中に取りついて、苦しめながら魔力を吸いはじめた。
黒いオーラが不気味に揺らめく。
「あがぁぁぁーーー!!」
黒いオーラに取りつかれた冒険者は、
ショック状態に陥り、気絶した。
その冒険者のパーティーメンバーたちが
涙を流しながら、左右の手を引っ張り
『とにかくアレクのもとへ!』と、運んでいく。
「アレク君!! 頼む!!」
アレクはすぐに手をかざしたが――
黒いオーラが強すぎた。
男の魔力を糧に黒いオーラは燃えるように存在を主張している。
「……だめ……!
黒いの……はがれない……!」
触れればアレクにも黒いオーラが移る。
どうしようもない状況。
その時――
ヒナが黒いオーラをじーっと見つめた。
そして、「え?……うん……わかった」
誰かと話しているように呟き、前に出る。
「……ヒナ、これ……けせるよ」
「え? どうやって?」
ヒナは小さな手を上げて――
「こうやって……」
ぺちんっ!!
黒いオーラは形があるわけでないのに、
ヒナが、ぺちんっ!と叩くと、弾けて消えた。
「…………え?」
アレクは今、いったいなにが起きたのか、
目の前の出来事が信じられなかった。
冒険者たちも同様だった。
「な……今……何した……?」
「黒いオーラが……消えた……?」
ヒナはもう一度、
別の場所にまとわりついた黒いオーラを見つけると――
ぺちんっ!!
また弾け飛んだ。
その場にいた全員が固まった。
「……ギルマス呼んでこい!!」
冒険者が全力で走り、
ギルドマスターが戻ってくる。
「どうした――」
ヒナがぺちんっ!!
黒いオーラが弾け飛ぶ。
ギルドマスターは言葉を失った。
「………………」
そして、アレクを見る。
(……なんだ……この子は……
アレクだけじゃない……
ヒナも……とんでもない力を……)
アレクも、なぜヒナがこんなことが出来るのか
よくわからず、首をかしげる。
だが、現在は戦闘中。
誰もがハッ!と我に返り、立ち止まっている暇はない事に気づく。
「ヒナ、アレク! とりあえず、よくやった!
ここは任せる! 俺は前線に戻る!!」
ギルドマスターが走り出す。
その先で――
冒険者が魔物に襲われる寸前だった。
「間に合え――!!」
ギルドマスターが自分を鼓舞し、冒険者を守ろうと必死に走る。
(……だめだッ!まにあわん……ッ!!
だれか、あいつを魔物から助けてくれッ!!)
その瞬間、
空気が震えた。
轟音。
閃光。
大地を揺らすほどの大規模魔法が、
変異個体に直撃した。
「な、なんだ……!?」
「援軍か!?」
「この魔力……まさか――!!」
森の奥から、
銀色の影たちが風を裂き、次々と駆けてくる。
「――銀翼だ!!!」
冒険者たちの大歓声が、
戦場に響き渡った。




