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2. 八重の前世 <後編>

真理子は八重を引き取ると、八重にモデルの仕事をするように説得した。


(この子はなにか人を引き付けるものを持っている子だわ…)

真理子は何か直観めいたものを感じた。

悲しみで今だ無気力な八重は、どうでもいいと了承した。


その後、真理恵は意欲的に営業をし、仕事を持ってきた。

時には面会の予約もなしに撮影現場に突然連れていき、

混乱する中、強引に撮影に参加させることもあった。


そのたびに現場のスタッフや関係者を怒り心頭にさせるも、

今の真理子の影響力には口をつぐむしかなかった。


女性経営者・可哀そうな境遇のモデルを献身的に支えるマネージャー。

世間でそんな肩書を定着させたのはもちろん本人の真理子の策略であった。


いつの間にか、企業トップ側からしてみたら波風を立てたくない相手となっていた。

その為、上からのお達しで真理子の強引な横入りな撮影の参加でも了承せざるを得なかった。


***


その行動力が実を結んだのか、

八重の美貌のせいか、真理恵が強引な手段をとらなくても

仕事は途切れる事無く入ってくるようになってきた。


仕事をこなすうちに、

「ぜひ、うちの仕事もお願いしたい」と望まれ、指名されることが増えた。


真理恵は歓喜した。

私の目に狂いはなかったと。そして自分の将来の姿に。

それからは、より一層八重は仕事が忙しくなった。

真理恵もさらに強引な売り込みもかけていた。


ある時、八重が疲れた顔をしていると、仕事に穴をかけるなと、

化粧でクマを隠したり、顔色を明るくしたりとごまかした。


「仕事を休むとその分他のモデルに仕事が回ってしまう。

そんなチャンスをあたえるな」ということだった。


メイク担当のスタッフにはやはりそんな小細工では隠すことはできず、

心配して声をかけてきてくれた。

「休める時、少しでも休みなさい」

「真理子さんに少しお休みをもらった方がいい」など。


それは実際問題、八重には無理な話だった。

休めそうな時間は、学校に行っていない為、家庭教師の勉強の時間とされ、

真理子は仕事を休むこと、休みを入れて仕事をしないことにとても怒るのだった。


そんな時、メイク担当さんには、

「大丈夫です。最近忙しいけど仕事が楽しくて」と言いうように前もって真理子に言われていた。


たまに、はやりの癒しグッズなどおすすめしてくれる人もいた。

真理子も欲しいと思ったりもしたが、真理子がもったいないと買ってくれたことはない。

たまに、癒しグッズをくれる人のいた。それがとてもうれしかった。


(私が働いて真理子にお給金がわたっているのに、私にはぜんぜん入ってこない。)

もどかしさを感じつつ、声には出せない。

モデル仲間との会話に出てくるおかしやスイーツも太るからということで、却下されていた。

モデル仲間から、はじめはお買い物やスイーツを食べに行こうと誘われたが、

行けるわけもなく断っていたら、あっというまに誘われなくなり、孤立していった。


真理子はどんどん服装やバッグが派手になっているのに。。

それは、”仕事が好調”だという世間へのアピールなのだとか。

そういうものも営業には大事なのだと言っていた。


結局いつのまにかすべてを管理され、

身動きが取れない操り人形となって、

疲れ果てても、ただただ言われるがまま働く生活をしていた。


話ができる友人もいなく、

逃げることはぜったい許さないとばかりに隔離された生活を送っている為、

心身ともに疲れも取れず、疲れ果て、大人が信用できない反面、

それでもどこかよりどころを求めてもいた。


(だれかたすけて。だれか私をこの生活から連れ出して。)

ただただ心の中で願うしかなかった。


その反動か、現実逃避の為か、異世界転生系の小説を特を好んで読んでいた。


物語の中では、

ある者は、冒険者となり、

前世と違う広大な世界を仲間と協力しながら冒険しつつ、

人々を魔物の手から守ったり。


ある者は、魔法使いとなり、

前世の知識を使い、さらなる高度な魔法の研究に明け暮れる。


ある者は、前世の知識を使って内政を改革をし、

国・街をより豊かにしていったり。


ある者は、傷ついた者を癒すことに喜びを感じ、

前世の知識を用いて今まで謎の奇病とされていたものを癒してまわりに驚かれたり。


スマホの所持を許されているのはありがたかった。

なければ心がつぶれていた。

そんな小説を読んでいるときだけ、

いろいろな風景が見えるような気がして心躍がおどり、

息ができるような気がした。


***


八重はその美貌と仕事への姿勢、実績、スタッフへの心配りで、

名が知られるようになり、仕事がひっきりなしにくるようになった。


真理子は、後から後から入ってくる富に高揚していた、

自分がモデル業界の復活したかのように、今まで以上に着飾るようになっていった。


途中、仕事スケジュール状況がタイトすぎて体力、精神面両方の疲労の限界を迎え、

このままでは死んでしまうと危機感に苛まれた。


その危機感から「少しでいいから仕事量を減らしてほしい」と決死の覚悟で訴えたが、

受け入れられるどころか、激怒された。

「他のモデルにチャンスを与えるな。今のこの流れを壊すことは許さない」

そういって、モデルの体をたたくわけにもいかず、近くの物を手で思い切り叩いた。


その後、何かと八重が気に入らない行動をとったり、

取ろうとすると近くの物に大きな音を立てて当たるようになった。


その大きな音で八重の心もびくつき、そのうち何も言えなくなっていった。

そんな状態での仕事は、撮影はこなせるものの、

さりげなく交わされていた言葉さえ、交わさないことも増えてきていた。


***


ある日突如、真理恵が「国内はもう狭い!」といい出し、

いい伝手も最近できたといきなり世界進出に積極的になりだした、

急に英会話の学習も追加され、考える力を放棄した八重は、言われるがまま世界進出を果たす。


世界進出を果たした八重は、日本と異なる現場の雰囲気に馴染めないでいた。

ライバルモデルからの嫌がらせも受けるようになった。


マネージャーでもある真理子に相談してみたが、

かばってくれるどころか、反対に怒られた。


「そんなことくらい自分で何とかしろ」といわれ、

話し合おうとしてみたが付け焼刃の英語では、なかなか会話は成立せず、

逃げても避けても意味がなく、どんどんエスカレートする中、耐えるしかなくなった。


周りのスタッフにしどろもどろな英語で相談もしてみたが、

相手のモデルの愛想がいいようで、信じてもらえなかった。

なぜなら、誰もいないところで、囲んで嫌がらせをし、

人がいるときは好感度抜群なモデルの表情でいたわりの言葉をかけてくる。


現場の誰も気づかない信じないいじめ。休む時間も与えられず、

疲労困憊で働かない頭。

もうどうでもいい、なるようになれと、

何度も繰り返した言葉が今日も頭をよぎる。


そんな中、ある日、

八重が階段を降りるとき、数人の軽い笑い声と共に背中を軽く押され、

疲れ果てた体は、踏ん張って耐えることさえできず、

簡単にそのまま転げ落ちて動かなくなった。


階段の上では女性数人が慌てて走り去った音がした。

頭から温かい何かが抜けて、冷えていく感覚がした。

体中の痛みは感じない。手も足も動かない。眠くなってきた・・・。


このまま死ぬんだろうか。でもいいや。

お父さんとお母さんやお兄ちゃん達にやっと会えるから。

私、頑張ったよね。


いっぱい働いたし、真理子さんにも引き取ってもらった恩は十分返せたよね。

もういいよね。会いに行っていいよね。

そして静かに笑顔で息を引き取った。


こうして引き取られてから10年後の22歳でこの世を後にした。

やっと解放されるという安堵感とともに。

このあとの真理子の事を考えるとちょっと楽しくなった。


(残念でした。さようなら)


来世は異世界小説のようにやりたいことを探して、

私を愛して守ってくれる人に出会いたいな。

もう逃げることも反抗することも許されず、利用され、酷使され、

隔離されるひような生き方は嫌だ。と願った。


本人は自分の容姿が原因など、まったくもって思っていなかったのである。

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