23. 2羽のひよこと、アレクの謎
その頃のフォレットの冒険者ギルドでは……。
アレクとヒナがギルドマスターに抱き着いて離れなかった。
それは数分前のこと……。
「……つらかったな。よく頑張って見送ったな。えらいぞ。
あいつらはすごく強いから、必ず帰ってくる」
その声は、大柄な身体に似合わず、とても優しかった。
「で、でも……ひっ……ひな……こわい……!」
ギルドマスターの胸に飛び込むヒナ。
「おおっと……!
よしよし…よく頑張った。
あいつらも行ったから……もう泣いていいぞ」
「うわぁぁぁぁぁん……!!」
「よしよし、ヒナはよく頑張った。偉かったな」
ギルドマスターはよしよしと何度もヒナの頭を撫でてやった。
そんなヒナの様子をそわそわしながらみる冒険者達。
(泣いてる……!
でも抱きつき方が可愛い……!)
アレクも、そっと近づく
泣かないようにしていたけれど…実はとても不安でこわかった。
「……ひな……だけ……ずるい……」
ぽそっと言いながら、
アレクもギルドマスターの服をぎゅっと掴む。
「アレクもおいで。もう我慢しなくていいから」
「……おれ……がんばる……
みんなのふたんに……なりたくない……から……
ちゃんと……もどってくるっておもってる…でも…こわい」
「うん、知ってる。でも大丈夫だ。
あいつらはちゃんとわかっていると思うぞ。
アレクが頑張って見送ってくれたこと」
「……うん……」
アレクはギルドマスターの腕に
そっと額を押しつける。
ギルドマスター、両腕にひよこ二羽
――完全に“保護者モード”
ずっと遠巻きに見ている冒険者。
「マスター……
なんか……父親みたいっすね……」
(あいつら、何を見ている!早く依頼見つけて仕事へ行けー)
「いや、もう完全にパパだろ……」
(うっさい!仕事しろ!)
「写真撮りたい……!」
「撮るな!!
……いや、まあ……後でなら……」
そして、今に至る。
***
それからというもの、アレクとヒナは
ギルドマスターの後を追いかけた。
……ひよこのように……。
「ギルドマスター!これ、書類が届いています。」
「あぁ、わかった!いま取りに行く」
ギルドマスターは2階から階段で1階の受付まで降りてくる。
すると、後ろから、「うんしょ。うんしょ」と可愛らしい声が聞こえる。
小さな足で一段ずつ降りるたび、ギルマスは後ろをちらりと振り返り、
そのたびにアレクとヒナは嬉しそうに笑う。
追いつくとギルマスのズボンにぽすっとしがみついて笑う。
まるで“ここが安全地帯”と言わんばかりに。
「なるほど、これは確認が必要だな。ありがとう」
そういうと、ギルドマスターはまた2階へ上がっていく。
そして、その後ろからまたもや2羽のひよこが
「うんせ、うんせ」と上って後を追いかける。
「あれ、なんすか?」
「ギルマスの子供っすか?」
「何あれ!可愛すぎるのが、よちよちギルマス追いかけまわしてる!」
面白がって見ている冒険者に受付嬢が簡単に説明する。
「銀翼のところの子供を銀翼が緊急依頼の間、
うちで預かってるんですが、なんだかすごくギルマスに懐いちゃって、
ああやって追いかけまわして離れないんですよ。
まるで、親鳥を追いかけるひよこになってるんですよ」
「へ~」
「ほー」
「なにそれ、面白い」
そんなことを言われているとは気づかないギルマスは、自分の部屋で
書類をチェックする。
その後、不足資料を探しに、資料室へ。
「ぎるどますたー…まって!…あるくの…はやい……はぁ、はぁ」
「ぎる…ま…はやい…む~~~!」
「?あー。悪い悪い。」
ギルドマスターは苦笑いをしつつ、ゆっくり歩きながら資料室で書類を探し、
今度は資材置き場へ移動。
ギルマスが歩く。よちよちひよこ達が追いかける。
ギルマスが歩くたび、
ひよこ2羽は必死に小走りで追いかける。
追いつくと、またぴたっとくっつく。
そんなことを何度も繰り返しているうちに、
やっと必要なものがそろって、自室で計算を始めるギルマス。
ヒナは疲れて、ソファの上でお昼寝中。
アレクは、ギルマスの横に使っていない椅子を引っ張ってきて、
椅子の上に上り、ギルマスが見ている書類を見つける。
「なんだ?興味があるのか?」
「ぎるますが、むずかしいかお、してるから、どうしたのかなって、きになった」
「そうかそうか。ちょっと計算が合わなくてなー。
こういうの苦手なんだよなー」
(計算ね。提出資料の形式が、みんなバラバラで見づらいな。
これ、ほぼ日記みたいになってるし、これ書類って言わないよな。
あー。これ、計算、まちがってるじゃん。
ギルマス気が付いていないみたいだな。
しょうがない、手伝うか。お世話になってるし。
さっきのも面白かったし。)
「ぎるます、そっちのかみ、けいさん、ちがう」
「え?」
ギルマスがアレクを驚きの顔で見る。
とりあえず、アレクは胸を張っておいた。
「そ、それはどこだ?」
「こっちの紙の、下の方の、ここ!」
「あ………本当だ」
「これで合うかな。あれ…まだ……合わない」
「んー。ちょっとみせて」
「アレク、計算できるのかい?」
「ぎるます、これくらい、かんたんだよ?」
ギルマスの心にクリティカルヒット!うぐっー!!
「………」
(いったいどうなっている?
今の幼児はこんな計算も出来るのか?
いや、出来ないだろう!
でも、こいつ、出来ちゃってるんだが……)
「はい。わかったよー。
まず、こっちのかみの、ここね。
つぎは、そっちのかみの、うえから3つめの、そこね。
それでけいさん、しなおすと、ごうけいが、こっちの紙とあうよ」
アレクが指差すたびに、
ギルマスの視線が右へ左へ忙しく動く。
だが、理解は追いつかない。
「……天才か?」
ギルマスは思わずペンを落とし、
慌てて拾いながらアレクを見る。
(いやいや、天才とかいう次元じゃないような……)
「ちがうよ。でも、ぎんよくのみんないがいには、ないしょね。
あとね、ていしゅつしてもらう、ふぉーまっと、
とういつしたほうがいいよ。」
「それぞれちがうと、みづらいし、
こうもくさがすだけでつかれるし、
なにより、ぎるますのふたんがおおきい。」
(ま、待て……今の説明、俺でも理解に時間がかかるんだが?
いや、そもそも“フォーマット”って何だ?
なんで幼児がそんな単語を知っている?)
「ふぉ、ふぉーまっと、とは、なんだ?」
「ふぉーまっとは、しょるいのけいしき、みたいなもの。
こんかいのばあい、あらかじめこうもくがはいっているひょうに、
あいてにすうじをいれてもらうだけでいいものをつくる。
そして、あいてには、それにすうじをかいて、
おくってもらうようにすればいい。」
(それだけでギルマスの負担はかなり軽減されるはずだ)
「このしょるい、にっきみたい。
こどもじゃないんだから、あいてがわかりやすいようにかくのが、
あたりまえじゃないの?
ねえ、ぎるますもそうおもうでしょう?」
「ま、まあ、そうだな。」
「ぼくがここにいるあいだなら、
いつでもけいさんてつだうからいってね!」
そういって、アレクは、あーつかれたーといって、
ヒナの向かいのソファによじ登って寝た。
残されたのは、完全に困惑しているギルマスであった。
(……銀翼は……いったい何を拾ってきたんだ?
いや、拾ったのか?託されたのか?
いや、そもそもこれは人間なのか?
そういえば、この子は確か創造神の愛し子だったか。
それが何か関係しているのだろうか……)
あれから、ギルマスは、アレクの言葉どおり、
”ふぉーまっと”なるものを作成し、提出者に送った。
「これからはこれに記入して送ってくるように」と、
その後の集計作業が、驚くほどスムーズになったのは、少ししてから実感したことだった。




