22. 変異個体「狂爪バーグロウベア」討伐完了!
今回は戦闘シーンです。苦手な方は飛ばしてください。
銀翼のフェンリルとリオンは、ギルド専用馬車で辺境の街と森の間の砦に向かっていた。
ギルド専用の馬車は、大抵緊急依頼時に、冒険者を送り届けるためのもので、
とにかく頑丈にできてた。馬も2頭であり、なんと鍛え上げられた軍馬だった。
その為、通常の馬では怖気づいてしまう場所でも、颯爽と走り抜ける。
「こんなすごい馬が冒険者ギルドにいて、いいのかって?
『そんなもん、緊急依頼だっていえば、領主様が貸してくれるんだよ。』
だそうだ。」
なんにせよ、
急いで移動でき、さっさと討伐して、さっさと帰りたいのだから文句なんてない。
そんな話をしながら、すごい速さで街道を進んでいく。
そうこう言っているうち、煙の出ている砦が見えてきた。
よく見ると、砦はぎりぎりもっているが、今にも崩されそうになっていた。
砦の門の前で、必死に騎士の指揮官が指示を出し、
冒険者と騎士と兵士達が、黒い巨大な魔物一匹と、必死に戦っていた。
その少し離れた場所では、小型の魔物と冒険者と兵士の戦いがあちこちで行われていた。
まわりには、動かなくなっている冒険者や兵士、
必死に立ち上がろうとしている者、
助けを求める者が動ける者達によって、
砦の方にひっぱられ移動されている。
砦の上からは、
弓矢での攻撃や魔法攻撃が行われているが、
矢が的にはあまり効果がないようだ。
魔法も魔力不足で倒れている者もいる。
砦に到着した銀翼のメンバーは
討伐対象を見つけて眉を寄せる。
黒い霧に包まれた変異個体は、
よく見ると、もともとは熊の「バーグロウベア」という魔物だ。
ただこの魔物、変異前でもかなり強い。
大型でとても力の強い上に、
体毛が硬い、その上魔法が通りにくいということで、
”見たら逃げろ” ”絶対戦うな”と言われている魔物だ。
ただでさえ厄介な魔物が、
変異個体になってしまったということで、
厄介極まりない魔物になってしまった。
ジークは走りながら、
仲間の状況を確認し、
敵の動きや行動を観察する。
バーグロウベアがどのような変異をしたのか。
どの攻撃が通りにくく、
どのような攻撃が有効か、
急所はどこか、
魔法を使うのか、
有効的な属性はなにか、
防御能力はどの程度か、
回復の力はどうなのか。
「どんな状況であっても焦るな。
頭は冷静であれ。
物事は全体的に見ろ。
視野を決して狭めるな。
それは自分のみならず、
仲間をも救うことになるからだ」
俺の師匠から教えてもらったことは、
今でも俺を支えている。
バーグロウベアの変異個体は、
爪が黒く、通常の個体よりも長く伸びており、何か力を感じる。
爪で切り裂く為だけではないようだ。
次に、体毛は異常に硬く、大斧を振るう冒険者の一撃でようやく小さな傷がつく程度だ。
剣ではなかなか難しいだろう。大剣でも小さな傷程度だろうか。
なら、魔法を這わせるか。
属性は、火は耐性があるようだ。水も効果が薄いようだ。
雷は、効果があるようだ。
回復は……早い!これは異常だ!
今得た情報を、メンバーとリオンに共有する。
そして、大型の変異個体の前にたどりついたジークが
息を思い切り吸い、大きな声でまわりの騎士・兵士・冒険者に告げる。
「今までよく耐えてくれた!
これからA級冒険者パーティー 銀翼のフェンリルが変異個体の相手をする!
皆はまわりの通常個体の討伐を頼む!以上!」
それを聞いた変異個体を相手にしていた者達は、
泣きそうになりながら後ろに下がっていくもの。
心配で仕方ないが、自分が足手まといになると分かって
しぶしぶ下がるもの、
自分も参加したいと最後の方まで残っていたが、
まわりの説得で下がるもの、
それぞれであったが、みな下がってくれた。
そして、再度通常個体へと散らばっていく。
それを見たジークは、仲間に向かい、ニヤリと笑って一言。
「いくか!」
「「「「「おぉ!!」」」」」
まず動いたのはリオンだった。
今回は厄介極まりない変異個体。
現在の状態では足手まといになりかねない。
そこで、もとの神獣フェンリルの姿に戻った。
もちろん、皆の合意済でだ。
まわりの者達は、急に犬のような動物が神々しく光り出したことに、
驚き、神獣フェンリルの姿を見てさらに驚いた。
中には拝みだす者もいた。
「なぜ、冒険者と神獣が一緒にいるのか!?あいつらは何者だ?」
困惑している者もいるが、今はスルー。
あの”伝説”の”神獣フェンリル”が自分達に加勢してくれている!
これで、味方の士気が大いに高まったことは確かだ。
最後に、変異個体に圧力をかけるのを忘れない。
さすがリオンである。
「グゥオオオオオオォォォォォォォーーーーー!!」
そして戦いははじまった。
***
黒い霧をまとった巨大な熊の魔物が、砦の前で暴れ狂っていた。
もとは「バーグロウベア」という熊の魔物。
ただでさえ“見たら逃げろ”と言われる危険な魔物だ。
だが今目の前にいるのは――
その常識を遥かに超えた“何か”だった。
爪は黒く変色し、通常の倍以上に伸び、
体毛は鉄のように硬質化し、
黒い霧が体全体を覆っている。
ジークが観察した情報を仲間に共有すると、
オルガがナイフをくるりくるりと回しながら言った。
「……こいつ、もうバーグロウベアじゃねぇな。
爪が特にやべぇ……“狂爪バーグロウベア”ってとこだな」
その名がぴたりとハマった瞬間、
変異個体が地響きを立てて咆哮した。
「グオオオオオオオオッ!!」
砦の石壁が震え、兵士たちが思わず耳を塞ぐ。
だが、銀翼のフェンリルは一歩も引かない。
クロムが静かに前へ出る。
「……《全身強化・銀翼クロム式》」
青白い魔力が仲間全員を包み、
身体能力が一気に跳ね上がる。
リオンが神獣の姿で吠え、
狂爪バーグロウベアの注意を引きつけた。
「グゥゥゥオォォォォッ!!」
その隙にフリードが杖を構え、
地面に魔力を叩きつける。
「《雷鎖・捕縛》!」
雷の鎖がバチバチッと音をたてながら地面から伸び、
狂爪バーグロウベアの足を絡め取った。
「ギャアアアアアッ!!」
巨体が感電し、一瞬止まる。
その瞬間、オルガが地面を蹴った。
「いくぜぇぇぇっ!熊やろう!!」
オルガはナイフを逆手に持ち、
狂爪バーグロウベアの腕を蹴って跳び上がり、
背中へ、肩へ、首元へ――
「おら!ここだよ!ざんねん!こっちだ!」
まるで風のように駆け回る。
「おらぁっ!!」
強化済のナイフが硬質化した体毛の隙間を狙い、
次々と切り裂いていく。
狂爪バーグロウベアが暴れ、
巨大な腕を振り回すが、
オルガは軽やかに跳び、
巨体の周囲を翻弄し続けた。
「オルガ、動かないでください!」
エルミーが弓を引き絞り、
矢に光の魔力を込める。
「《光矢・穿通》!」
光の矢がオルガの肩越しに飛び、
狂爪バーグロウベアの右目へ突き刺さった。
「ギャアアアアアアッ!!」
黒い霧が揺らぎ、
狂爪バーグロウベアが大きくのけぞる。
そこを見逃さず、
ジークが雷を纏った大剣を構え、地面を蹴った。
「《雷刃・断罪》!!」
雷光が一直線に走り、
狂爪バーグロウベアの胸元へ深々と突き刺さる。
内部で雷が炸裂し、巨体が大きく揺れた。
やがて――
黒い霧が薄れ、
狂爪バーグロウベアが崩れ落ちる。
「……倒したか?」
兵士たちが歓声を上げる。
「銀翼だ!銀翼が倒したぞ!!」
だが――
「……待て。」
ジークが大剣を構え直す。
狂爪バーグロウベアの体表に、
黒い霧が再び集まり始めた。
「グ……ルルルル……」
裂けた肉が盛り上がり、
傷がみるみる塞がっていく。
「嘘だろ……!?」
「回復力が……異常すぎる……!」
狂爪バーグロウベアは、
あっという間に完全回復し、再び立ち上がった。
「グオオオオオオオオッ!!」
クロムが前に出る。
「……ふぅん。そう来るんだ~」
その声は、いつもの穏やかなクロムではなかった。
目が細まり、
口元がゆっくりと歪む。
「あ!……そうだ!……とっておきのオリジナル、いっちゃおうか~…ふふふっ…。」
そう。クロムは戦いの中で切れると黒クロムに変化するのである。
それはもう、怖いくらい笑い、楽しそうに大魔法をぶっぱなす。
そう、今日も先ほどあれだけぶちのめしたのに、
あっさり回復しきった狂爪バーグロウベアにぷちっときたのだ。
黒い魔力――いや、雷の魔力がクロムの周囲に渦巻き、
バチバチ雷を放出しだし、そこに聖属性魔法が加わり、
さらに魔法の渦が眩しく光り出す。空気が震える。
そして――
クロムは高らかに笑った。
「ハハハハハハハハハハッ!!
感電しろ、狂爪バーグロウベアァァァァ!!」
「《雷禍・聖嵐》!!」
空から聖雷が降り注ぎ、
狂爪バーグロウベアの周囲を焼き尽くす。
「ギャアアアアアアアッ!!」
フリードが笑いながら魔力を重ねる。
「クロム、それ最高!
じゃあ僕もそれに合わせるぜ!」
「《炎雷・双嵐》!!」
聖雷と炎雷が混ざり合い、
巨大で狂暴な渦となって狂爪バーグロウベアを包み込む。
「グオオオオオオオッ!!」
黒い霧が、吹き飛び、体毛が焼け焦げ、
狂爪バーグロウベアがよろめく。
「ここだ!!」
オルガが煙の中へ飛び込み、
すれ違いざまにナイフに風の魔力を這わせ、
「風牙穿!!」
加速度と切れ味を大幅に増したナイフを突き立てる。
狂爪バーグロウベアの動きを完全に止めた。
「グ……ガ……!」
ジークが大剣を空にかざすと、一瞬、世界が静まり返った。
雷だけが、ジークの大剣に集まっていく。
膨大なエネルギーが大剣に宿り、大剣が黄金に輝く、
とっておきの雷魔法剣を手に一直線に駆ける。
狂爪バーグロウベアは最後の力で腕を振り上げたが――遅い
「終わりだ――!」
「《雷刃・終断》!!」
雷光が一直線に走り、
狂爪バーグロウベアの身体を――完全に断ち切った。
バチバチと雷の残りが表面を走り終えると、
黒い霧が弾け、巨体が崩れ落ちる。
今度こそ、回復の兆しはない。
「……討伐完了。」
銀翼のフェンリルの勝利だった。




