【閑話】とある冒険者の視点 -銀翼と天使-
俺の名はロガン。
フォレットの街を拠点にして、そこそこ長く冒険者をやってる。
腕っぷしには自信があるし、魔物討伐依頼もよく受けている。
ここはそんな者達のたまり場。
ちょっとしたもめごともいつもの風景だ。
……だが、あの日だけは違った。
あの日、俺は“魔物より手ごわい”存在”を見た。
***
昼過ぎのギルドは、いつも通りの喧騒だった。
冒険者は時間関係なく、いつでも酒をのむ。
酒場の兄ちゃんがジョッキを運び、
新人が先輩に怒鳴られ、
依頼掲示板の前では取り合いの小競り合い。
「今日も平和だな〜」なんて思ってた、その時。
ギルドの扉が開いた。
銀翼のフェンリルが帰ってきたのが見えた。
あのA級パーティーだ。
強いし、人気もある実力者パーティーだ。
あのパーティーに憧れる若い冒険者も多い。
(まあ、目立つわな。
)
だが――
その後ろにいた“ちっこい影”を見た瞬間、
俺の脳が一瞬止まった。
「……え?」
銀翼の後ろに、
よちよち歩きの子供が二人が
一緒に入ってきた。
しかも、手を繋いでる。
しかも、びっくりして、あちこち見るのに忙しい様子。
めちゃくちゃ可愛い。
冒険者ギルドには、場違いと言ってもいい。
しかも、銀翼の連中が全員デレデレしになってる。
「なんだ……あれ……?」
周りの冒険者もざわつき始めた。
「銀翼が……子供連れてる?」
「いや、拾った?護衛依頼か?どっち?」
「てか、あの犬……なんか光ってねぇか?本当に犬か?」
(そう、長年冒険者をしている俺にはわかる。
銀色の大型犬――あれは、犬じゃねぇ。
あれは絶対犬じゃねぇ。
なんか神々しい。
目が青くて吸い込まれそうだし、毛並みが光ってるし)
でも銀翼は堂々とこう言い切った。
「犬だ!」
(……いや、それ、無理あるだろ)
苦笑してしまう。
そう思ってたら、事件は起きた。
***
子供たちが、ぎくしゃくしながら
ギルドの真ん中に出てきた。
手を繋いで、胸を張って、
小さく深呼吸して――
「「せーの……こんにちはーー!!
これから……おせわに……なります!!」」
ギルドが止まった。
本当に止まった。
酒を飲んでた奴はジョッキを落とし、
受付嬢は書類を抱えたまま固まり、
新人は鼻血を出し、
ベテランは涙ぐみ、
酒場のマスターは「今日は酒が売れる」と呟いた。
俺はというと――
胸を撃ち抜かれ、テーブルに突っ伏す。
「く、胸がくるしい……
な、なんだ……この破壊力……」
あの瞬間、ギルド全体が“尊さ”に支配された。
誰もが同じことを思った。
天使が来た。
こんな荒くれ者の巣窟に来た!
免疫のないものは、すべてやられたっ!
***
その後、子供たちは恥ずかしくなって
銀色の犬(?)の後ろに隠れた。
犬(?)は尻尾で二人を包んで慰めていた。
その光景を見た瞬間、
俺の寿命は確実に伸びた。
「尊い……」
「守りたい……」
「銀翼……羨ましい……」
ギルド中がそんな声で溢れた。
***
そして、とうとうギルドマスターが出てきた。
「……説明してもらおうか」
あの厳ついマスターが、
子供たちを見た瞬間だけ、
ほんの一瞬だけ目を丸くしたのを俺は見逃さなかった。
(あのギルドマスターもそんなところがあるんだな…)
銀翼が応接室に呼ばれ、
子供たちと犬(?)も連れていかれた。
扉が閉まった後、
ギルドはしばらくざわざわしていた。
「銀翼……子供守ってるのか……」
「いや、護衛依頼かもしれないぞ」
「なんか……いいな……」
「俺も真面目に生きようかな……」
「なんか俺、結婚して子供がほしくなってきた」
「まだ恋人もいねぇけどな!まあ、がんばれ!」
「天使……また来ないかな……」
その日、ギルドは仕事にならなかった。
***
後で聞いた話だが、
あの子たちは“アレク”と“ヒナ”というらしい。
銀翼の新しい家族だとか。
……いいな。
俺もいつか、
あんな風に誰かを守れる冒険者になりたい。
そう思わせてくれた日だった。




