9. 初の魔物戦闘と冒険者
現在、2人と1匹は、森の外に出るべく、移動している。
ここは、アルヴァス大森林といい、別名「精霊のゆりかご」と言われる場所である。
精霊が多くいても、魔物もいる。
浅いところは弱い魔物がほとんどだが、
まれに、つよい魔物も来ることがある。
きっと黒いオーラで強い魔物が追いやられて来ているからだろうと言われている。
リオンは、まわりを警戒しながら、現在2人の幼子を背中に乗せて移動している。
森自体は明るいが、魔物の気配もあちこちに点在している。
そんな時、リオンがピタリと立ち止まり、後ろを振り返った。
その瞬間、草木の間から、何かが勢いよく飛び出してきた。
着地した何かを見ると、
赤く濁った目をした魔物が姿を現した。
「ガアアアアアアッ!!」
魔物のまわりに黒い霧がまとわりついている。
これは変異固定の証。通常の個体が変異し、力をつけた魔物である。
八重が震え、大樹も震えながら八重を抱きしめる。
「にいちゃ……こわい……」
「だいじょぶ……おれが……まもる……から!」
幼児の体で震えながらも、
大樹は八重を守ろうとする。
その瞬間――
リオンは魔物に威圧を放つ。
***
背に乗る幼子2人を振り返り、目を閉じた。
すると、大樹と八重の体は一瞬ほのかにひらった。
「ひかった」
「ぴかーなった!」
そして目を開けて優しく声をかける。
「心配するな。
“落下防止の加護”をかけた。
どれほど動いても、私の背から落ちることはない」
大樹は驚きながらも、ぎゅっと毛を掴む。
「ほんと……?
じゃあ……おれ、がんばれる……!」
八重はリオンの首元に抱き着いて頬を寄せる。
「りおん……あったかい……」
リオンの尻尾が、静かに揺れた。
「……任せろ。
私は君たちの兄だ」
その声は、
若い青年のように澄んでいて、
しかし神獣としての威厳を帯びていた。
***
――白銀の爪から切り裂きの魔法が放たれる。
ザッ!!
魔物はさっとよけ、すぐさま再び遅いかかってくる。
その瞬間――
リオンの毛並みが光を帯びた。
白銀の閃光とともに、雷が一直線に魔物に落ちる。
「グルルルル……!」
バチバチッ!ピシャーン!
普段の優しい気配が消え、
神獣としての本能が解き放たれる。
リオンは魔物の爪を受け止め、
逆に地面へ叩きつけた。
ドガァッ!!
リオンの動きは、
美しく、速く、鋭い。
まるで舞うように。
しかし、力強く。
しかし、魔物の変異個体、一撃一撃が致命傷ともなりうる個体だった。
跳躍するたびに白銀の道筋を光が残る。
その軌跡はまるで“流星”。
大樹は息を呑む。
「……すご……
にいちゃ……かっこいい……」
大樹はやっぱり男の子なので、強いものに憧れる。
八重は目を輝かせる。
「おにいちゃ……ふわぁって!きらきらっ!きれい……」
八重は体が小さく、リオンの毛にくっついているだけなので、
戦闘は目に入っておらず、ただただ遊園地の乗り物に乗っているように楽しそうだ。
リオンは空中で体をひねり、
魔物の背後へ回り込む。
ガッ!!
白銀の牙が黒い魔物の体を噛み砕いた。
魔物が悲鳴を上げる。
「グアアアアア!!」
リオンは静かに言った。
(泣かせたな……許さん)
「幼子を泣かせた罪……重いぞ」
そして――
白銀の爪が魔物を断ち切った。
ちょっと厄介な相手だったとリオンが一息ついていると、
黒い霧が集まり始める。
倒れた魔物の体から、黒い霧が再び集まり始め、
魔物の体全体を覆っていく。
「ガ……ガアアア……!」
魔物の体が再度立ち上がっていく……
リオンは幼子2人を背から降ろし、2人の前に立つ。
「ここからは……激しい戦いになる。背中に乗ったままでは危険だ。
後ろに下がっていろ」
八重は大樹に抱き着く。
「おにいちゃ……怖いよ……」
大樹は八重をなだめるため、頭を撫でる。
「だいじょうぶ…だよ…。
りおんにいちゃは、つおい!
だって、”しんじゅう…ふぇんりる”だから…。
それに、おれもにいちゃだから……まもるよ」
リオンと大樹は見つめ合いうなずく。リオンが優しく尻尾を一度振る。
その瞬間――
リオンは動き出す。
風を裂く音がした。
***
さっき、リオンが砕いた魔物の体は再生し、もう傷がふさがっていた。
黒い霧を放出する変異個体は回復能力が尋常じゃないくらい高いらしい。
その為、やっかいな魔物で冒険者ギルドでもこういった魔物の討伐は
高ランク依頼となっている。
リオンは、再度襲ってきた魔物の攻撃をさらりと避けた。
正直、幼子をかばいながらのこの手の魔物との戦闘はやりにくい。
(しかし、私はあの2人の兄だからな。守ってやらないと。)
「にいちゃ、がんばれ!」
「わたちも…こわいけど…にんちゃのため…おうえん…しゅる!」
八重は、べそをかき、大樹の服を握りしめながら、
それでも力強くリオンに声をかける。
リオンは尻尾で八重の頭を撫でる。
大樹も八重を抱きしめる。
そうして、2人に勇気をもらったことで、
決意新たし、今度は回復できないくらい攻撃してやろうと
今度はリオンから魔物にとびかかる。
そんな戦闘をしているとき、横から人間の声が聞こえてきた。
***
「幼い子供の声と魔物の声がするぞ!!急げ!」
「こっちだ!」
「魔物同士の戦闘みたいだ!急ごう!」
「子供をたすけなきゃ!」
「なんでこんなところに人間の子供がいるんだ?」
勢いよく背の高い草の間から抜け出てくる冒険者達。
「いた!あそこだ!子供はあっち!」
「片方は子供を守りながら戦っているみたいだ」
「そこの子供を守っているやつ、助太刀する!
我らはA級冒険者パーティ《銀翼のフェンリル》だ」
声をかけられたリオンは、冒険者に顔を向けてうなずいた。
それを確認した冒険者は、
了解したとばかりにうなずき返し、仲間の方に顔を向ける。
「助太刀するぞ、おまえら!」
「「「「了解!」」」」
しかし、子供を守っている魔物をよくみてみると、
冒険者たちは固まった。
彼らの視線はすぐに白銀の魔物?へ吸い寄せられた。
リーダーらしき男は目を疑った。
「………………あれは……魔物じゃない。
伝説の……フェンリル……じゃないか!?」
いち早く反応した隣のが、目を見開く!
「やべぇ……本物だ……!
リーダがフェンリルに憧れが強くて名前つけたの、
怒られねぇかな……!」
神聖力で落ち着いた光をまとうフェンリルをうっとり見つめるエルフらしき中性的な綺麗な顔の男性。
「……美しい……」
好奇心旺盛そうな若い少年は、
手を力強く握り、目をキラキラ輝かせる。
「すごい……すごい……!
本物のフェンリルと同じ戦場に立てるなんて……!光栄だ!」
おっとりしている少年も感激して祈りのポーズをしだす。
「神獣……こんな近くで見られるなんて……!」
全員、伝説と歌われる神獣フェンリルに会えた幸運に感謝した。
「……光栄だ。
本物のフェンリルと肩を並べて戦えるなんてな」
一緒に戦闘準備に入ったリーダーのジーク達に
リオンは静かに言葉を発した。
「……頼む。この子たちを守ってくれ。力を貸してほしい」
「「「もちろんです!!!」」」
神獣フェンリルは、人間の言葉を話せる。
それは昔からおとぎ話のように聞いていて知っていたので、
リオンがしゃべったことに感動はしても、驚きはしなかった。
***
それからの冒険者達の動きは早かった。
さすがA級冒険者パーティーといったところだろうか。
回復薬が2人の様子を見てくれ、
魔法使いがその前に立って守ってくれた。
残りの3名とリオンと共に変種個体と戦った。
「これ、ホーンラビット変異個体だな。
ホーンラビットにしては異常な大きさに強さだ」
冒険者のリーダーらしき男がいう。
「ああ、体も変異しているし、爪も鋭く伸びてる。
回復力も脅威じみてみる。
倒したと思っても気を抜くな」
「「「「「了解」」」」」
冒険者はどうやら神獣フェンリルを特別視しているようで、
リオンの戦っている姿をきらきらした目で見逃すまいと見つめる。
(人間とは、面白きものだ。そんな目で見られるのも悪くはないがな)
魔法と剣で交戦しつつ、間にリオンがとびかかる。
始めてあったのに、とても連携よく戦えていた。
「さすがA級冒険者のパーティーか」
(それにしても、”銀翼のフェンリル”って、
それにそのきらきらしい視線も、
我らは誇り高い神獣フェンリル、憧れてしまうのも無理もないことよ。
…って、尻尾!喜ぶな!揺れるな!動くな!)
人数が増えたことで、戦力があがり、
思ったより早く倒すことができた。
今度は回復できないように念入りに砕いた。
「助かった、感謝する」
「思ったよりしぶとい変異個体でしたね」
「あぁ、あれだけ砕いておけば、もう立ち上がれないだろう!」
「ほんと、倒しても倒しても立ち上がるから、どうしようかと思いましたよ」
そうして3人と1匹が大樹と八重のところに行くと、
回復係の男性に2人が両側からぴったりくっついていて、
くっつかれている男性は、2人にメロメロ状態になっていた。
「か、かわいい~~!!なんて素直で可愛いんだ!もうぼく、だめ……。
可愛さでノックアウトだよ……」
横を見ると、魔法系の男性も、膝をついて震えていた、
「なんだよ…あの可愛さは……!」なんて口走っている。
「「「…………なんだありゃーーーーーーー!?」」」
冒険者メンバーは訳が分からず、茫然としている。
そんななか、自慢げにリオンがこぼした。
「さもあらん、あの子らは可愛いからな。
誰であろうと、骨抜きになってしまうのだよ」
(((きっと、このフェンリルもそうなんだろうな)))
察してしまう冒険者達だった。




