いよいよ魔王城だ(過去)
「勇者様。本当にあいつを信用していいのか?しょせんは魔族だぞ。」
グレイスは、眉をひそめて、かつ小声で勇者に抗議するように質問した。傷ついていた魔族の男女、人間型魔族だったが、を助け、事情を聴き、そして怪我も治療して、食糧なども渡して解放したのである、勇者は。彼女だけではない、パーティーメンバーの大半が反対又は疑問視した。支援の騎士団長も苦い顔だった。
「魔王を、魔族の全てが無条件に支持しているわけではないだろうと思うんだよ。僕たちだって、多くの国、部族に分かれて、時には戦っているんだ。魔族の中でも同じじゃないのかな、と思うようになったんだ。魔王に嫌々ながら従っている魔族だっているんじゃないかなとも。それにさ、魔王軍の四天王も副将軍も王子も王子妃もさ、人間とは似ても似つかない存在なのに、人間型の魔族もいっぱいいる。もし、反魔王派の魔族がいれば、人間型の魔族となら、この後和平、共存、提携できれば、魔族の脅威も減るわけだし、また魔王が新たに現れても、そうした魔族と連合して戦えば、もっと楽に、犠牲も少なく勝てるんじゃないかなと思ったんだ。それにさ、たった数人解放してたころで大したことにはならないだろう?ああ、もちろん念のため進むコースも、陣形も色々と変えるからね。」
と平気な顔で答えた。グレイスは呆れるしかなかった。
「お前の頭の中はお花畑か?」
と心の中で罵った。それでも、苦笑いしただけだ。皆同じだった。今回は、聖女が、
「そうです。勇者様の言われる通りです。」
と積極的に支持したし、賢者も、
「そうかもしれないね。」
と首を捻りながらも、出て来た言葉き勇者を支持するものだった。
「聖女様と賢者様も、そう言うのなら・・・。」
と誰かの声があがると、グレイスも皆と同様に頷いた。
とはいうものの、今回は一応前回同様呆れ果てているふりをしたが、その後を知っていた。魔王城攻略の直前、人間型魔族の数部族が彼らに加わったのである。グレイスは、前回も驚いたが、結果を知っているものの、今回も驚いた。前回よりも数が多かったからだ。どうも、今回は密かに彼らと連絡を取り合っていたらしい、勇者は。それから、解放した連中に、具体的提携、和平案を渡していたのである。
「全く勇者様には適わないな。」
と他のメンバー同様に感じた、彼らとは少しニュアンスが異なっていたが。
「何か違和感があるような・・・なんだろう?」
と引っかかってはいたが、聖女に、
「勇者はああは言ったが、各国王も、何人もの王女達も、勇者との結婚をあきらめてはいないようよ。」
「あの魔族の女を勇者を見る目、狙っているんじゃないか、勇者を?」
と聖女ら囁き、魔族殿提携への反対論が多いこと、それに不快、怒りを感じている王侯貴族も多いことを皆に吹き込むことも忘れていなかった。
「私は、勇者様を信じていますから。」
と彼女は余裕のある微笑みを浮べて答えた。
「まあ、愛されているらしいね。」
とグレイスは揶揄うように、苦笑いしながら言った。
「ふん。顔が引きつっているぞ。」
と心の中で毒づいたものの、
「前回よりもずっと余裕がありそうだな。」
とも感じていた。ずっと勇者のそばにいるのだから仕方がないか、と彼女は思ったが、勇者が聖女に、聖女との結婚が皇帝をはじめ各国に内々に認められたことも、魔族との和平、提携について詳しく話していること、彼女らとのやり取りも聖女とともに行っていることを彼女は知らなかった。賢者をはじめパーティーメンバーの何人かに勇者は、聖女と同席で密かに話をしていた。そのこともグレイスは知らなかった。
そうこうしているうちに、魔王城が目前の位置まで来た。
「盟主のメンティロ族の族長の代理トライシオン・メンティロです。」
と連合軍となった魔族、人間型及び人間に近い獣人系・・・そしてエルフ達もいた、を代表するという、典型的人間型魔族の若者が、勇者に頭を下げ挨拶に来て、勇者も頭を下げて、握手していた。
「全てがより完璧だな。」
グレイスは、ロンギヌスの槍を握りしめ呟いた。違和感が大きく膨れ上がっていたが、彼女には勇者暗殺以外の選択肢がどうしても思い浮かばなかった。




