賢者は懸念する(未来)
「昔の仲間達が、次々に殺されているんですよ。その1人の殺害の容疑がかかっているのが、あなたのところで世話になっていたフィエラなんですよ。彼女は、その殺人事件のあった日から、町から姿を消したからなんですが・・・その後の消息はわかっていません。あまり熱心な捜査が行われていませんからね。冒険者などは前歴を問わないですから、その中にうまく入り込めば身を隠せますからね。」
あの日から、放浪の旅に出ている賢者トルポ・モートンは、北の辺境オスロにある小さな修道院、聖女オスクロ・マーロがいる、を訪れた。訪問理由はもちろん、かつての勇者パーティ―のメンバーである彼女と話をするためだった。
小さな修道院の小さな一室で、既に外が肌寒くなり、室内もかなり肌寒い、テーブルには簡素過ぎる食事しか出されていない中で、テーブル越しで2人は話をしていた。
小柄なモートンは、女性としては長身のマーロよりも低かったし、あまり年齢が変わらない彼女よりもかなり年上に見えた。童顔くらいだった面影は、今ではなかった。かえって賢者という名に相応しい姿であった。マーロは少しやつれてはいたが、年相応で清楚さが増しているようだった。こちらも聖女そのものという印象を与えた。
「では、犯人がフィエラということですか?」
疑問だという顔で彼女が尋ねると、彼は首を横に振り、
「多分違うと思います。金をたかっていたようですが、問題が生じない程度にしていたようですし、こういうそんなことは彼女はしませんよ。」
と答えた。
「そうですね・・・あの娘はそうでした。でも、そうすると犯人は誰なのでしょうか?」
「わかりません。ただ、私達勇者パーティ―の元メンバーではないかと・・・勘ですが・・・と思うのです。」
「確かに・・・考えられるのは・・・。みんな・・・私のせいで得られるだろうものを得られなかったわけですから・・・。でも、それなら私を殺そうとするのならわかりますが、他の方々まで・・・。フィエラだって、あの方達を殺す理由はないし・・・。」
「聖女様。我々は・・・我々の誰も、聖女様が余計なことをしたとは・・・思っているかも・・・。でも、皆それがなかったらずっと苦しい気持ちを持ち続けていただろう、それに苦しむことになったと分かっているはずです。」
「それなら・・・。私達を殺したいほどの・・・そう思うだろう人物は、グレイス・フェイスくらいしか想いつきませんが・・・。彼女は処刑されました、死にました。」
「わからない・・・ですね。ただ、何となく、次は聖女様のような気がして・・・。」
「それも運命かもしれません。勇者様を裏切った私への罪です・・・。それで、私の罪が・・・、それで軽くなってくれるかも・・・。」
「そのような・・・言わないで下さい。とにかく気を付けてください。」
モートンは、それ以上は何も言えなくなった。
「賢者様もお気を付けて。これからどこに?一晩泊って行かれれば・・・。大したことはできませんが。」
「いや、聖女様がここにおられるように、私は旅を続けていないと・・・。」
「どうして私達はあのようなことをしてしまったのでしょうね?もう一度やり直せたら・・・今どうしていられたかと・・・思うことが何度もありますが・・・せんもないことなのですね。」
「そうですね。あの時、全てを失ったのですね。自業自得ですね。食事、ありがとうございました。では。」
と立ち上がった、賢者は。
そのまま立ち去る彼の背を聖女は修道院の門からずっと見送ったのだった。聖者は振り返ることもなく、歩み続けた・・・というわけではなかった・・・ずっと先に行ってから彼は振り返った。
「お互いに自分が許せない・・・。あの時グレイスの言葉に乗らなければ・・・どうなっていたんだろうな。」
と空を見上げた。
聖女があの日以来勇者の冥福を祈り、聖女としての加護、癒し、回復を小さな修道院を訪れる人々に施し、それはかなりの数なのだが、修道院の菜園作りやその産物の加工まで働き、清楚、清貧としか言いようのない生活をしている、ついでに魔獣が出てその修道院のある村では対処できる者がいないと魔獣退治まで買って出る。修道女が何人かはいるが、自分の身の回りも含めて彼女の労働量はかなりなものだった。生活費などの年金とこの修道院と付属の荘園が与えられている、魔王討伐の恩賞として、とはいえその姿は人々から称賛されていた。
「戦う聖女・・・だな。あの頃のように、戦いが始まると人が変わるのだろうか?」
そう言って笑う賢者も同様に、年金も領地も身分、特権も与えられていた。だから、流浪の旅ができるという面もある。ゆく先々で賢者として相応しいことをしていた、たいていは無償で。その姿も称賛されている。だが彼は、そうでない可能性に未練があった。
「彼女はどうなんだろうな?」
また、歩きながら独り言をつぶやいた。




