賢者は脆い(過去)
「ぼ、僕は・・・勇者・・・すまない・・・。」
と涙を流す賢者。小柄な体から、これだけ涙が出たら干からびるんじゃないかと思うくらいに涙を流した。
「前回と同じだな、こいつも。」
利益や報酬ではとても釣れないと感じたので、ハリングトンも交えての正攻法でグレイスは、賢者トルポ・モートンを説得した。正攻法とは、勇者の危険性でもって彼を殺さざるを得ない、世界のためならば彼を殺す必要がある、世界のために勇者を殺さなければならない、と説得するということだ。
彼も、古参のパーティーメンバーである。勇者のことは、その言動はよく知っている。賢者のスキルを持っているだけに、頭が切れる男である。常識も正義感も、理性も、良心もある。頭の良さは、小柄で童顔な彼からは考えられないほどいい。だが、彼女達の説得を了解してしまった。頭はいいが、グレイスよりも若い。パーティーメンバーの古参に属するとは言え、魔法力が幼少期より高く、神童として教育されたのだが、パーティーでは一番若かった。現実の裏が分からない。経験が不足していた。若すぎたのだ、一言でいえば。だから、同意してしまったのである。
彼は勇者との友情に悩んだし、彼の言動に対する信頼感は強かった。彼が99%、世界の害になることはないと思っていたし、周囲がどうあろうと正しい行動を取ると確信はしていた。しかし、1%の可能性は残る。また、人というものは分からない、豹変することも多いということも、その歴史知識からよく知っていた、あまりにも知り過ぎていた。そして同時に、国々から脅威に感じられている以上、彼を弁護するのは自分も危うくなるということを理解してしまったし、もともと自分のことが彼の影に隠れてしまうことにいら立ちも、嫉妬も、悔しさもあった、心の奥底には少しばかりだが。
「ふん。賢者といっても所詮は欲に動くのが人間よ。まあ、亜人達も同じだけどね。」
グレイスは、前回と同じことを泣き崩れる賢者を見て思った、同情している顔を装いながら。
「分かっているわよ、あなたの苦しむ気持ちは。私も同じだから。本当は勇者を信じたい・・・。」
と哀し気な顔をして言った。その顔を、捨てられた犬が拾い主が現れたのを見ているような、見て
「私の言葉で救われた?そうでしょうね。私の言葉を利用して・・・自分をだましているのよね、賢者ちゃん。ずるい奴。」
心の中ではいいつつ、
「でも、私達はどんな汚名を受けても、世界をすくわなければならないのよ。わかるでしょう?賢者様?」
慈愛のこもった女神のような顔をして、そのつもりだったが、グレイスは賢者にかたりかけた。すると、彼は彼女にすがりついて号泣した。
「ご、ごめん。勇者・・・僕は・・・。」
と言いながら。




