や~めた(未来)
フィエラは、両手に短剣を持ち身構えた。両手剣と格闘技、素早い動き、さらに爪と牙も使い、という戦い方である。しかし、短剣は聖剣の類ではない。
「腕はなまっていないようね。」
とは思ったが、以前より強くなったということはあまり感じなかった。きっと強敵相手に戦ってこなかったのだろうな、とエスペランサは考えた。
彼女も剣を抜いて構えた。時間をかけているわけにはいかない。このまま、彼女を殺して、たまたまここを通ったら彼女が襲い掛かってきたので、返り討ちにすれば、金銭のもつれで・・・ということで殺人犯人を彼女にすることもできるのではないか、とも素早く考えた。
二人の間に強い殺気が走った。エスペランスが半歩踏み込んだ。すると突然、
「ああ、もうや~めた。」
「ん?なんだ?どうしたの?」
とエスペランサは構えを崩さなかった。フィエラは、早々に剣を鞘の納めてしまった。ここでエスペランサが、有無を言わさず斬りかかって来る可能性は十分あったが、素早く逃げる自信があった。こういう時には、素早く戦意を捨てるのが得策であり、そのタイミングはよく心得ていた、フぃエラは。
「あんたに勝てる気はしないもんね。どう、一緒に連れて行ってくれない?あんたがグレイスと言っても信じてくれないから、得にはなにもないだろう。でも、あんたは安心できないだろう?あたいが、そばにいた方が安心じゃない?お互いに?」
戦う意志はないし、戦う構えも解いたままだが、何時でも逃げられる構えは隠しながらもちゃんとしていた。このままここにいたら、今までの関係から疑われるのは自分だし、グレイスが生きていたんだ、彼女が犯人だと言っても信じてはもらえないし、かえって疑われる。それならかえってエスペランサに同行して、そのうち・・・の方が利益がある、と計算していた。そのことは、エスペランサは見抜いていた。
「わかったわ。このまま行っちゃいなさい。途中で合流しましょう。3日後に出発するわ。行先は・・・その時言うわ。合流場所は。」
彼女がそこまで言った時フィエラは、大きく飛び上がった。彼女が仕掛けたわけではない。火球を後方に感じたからだった。エスペランサは、魔法トリップを仕掛けていたのだ。その位置にフィエラょ上手く誘導して発動したのである。
「く、糞野郎。」
と、フィエラは両短剣を手にした。その彼女の前にいくつも熱球が向かって来た。それを全て簡単に避ける。同時に反対側から放たれた複数の火球を次々避けた。そして、いつの間にかエスペランサが目の前にいた。
エスペランサが振り下ろした剣を何とか受け止めた。しかし、その後は何とか彼女の攻撃を凌ぐのでフィエラは精一杯という状況となった。防戦一方という状態である。
短剣が2つとも飛ばされた。逃げようとしたところで、拳で、爪でと動いた時に蹴り飛ばされて、フィエラは倒れた。起き上がろうとした時、剣が首元につきつけられていた。
「ち、相変わらず強いな。どうした、殺さないの?」
フィエラは、エスペランサに殺気が消えたのを感じとっていた。その時、足下に金銀銅貨がばら撒かれた。
「?」
「これを持って、直ぐにここを何としても抜け出せ。数日したら、私もここを出る。北に向かう。聖女のところだ。私を見つけて合流しろ。」
見下ろしながらエスペランサに言われて、フィエラははふてくされるように、
「そんなら何で、こんなことをしたんだよ?」
「腕が鈍っていないか調べただけよ。まあ、合格よ。それに、力の差を思い知らないと従わないでしょう、あんたは?」
しばらくじっと見つめていたが、
「わかったわよ。言われたようにしてあげるわよ。」
と言ってフィエラは言うと素早く貨幣をかき集めると走り去った。
「ふん。相変わらずだ。」
とエスペランサは呟いた。殺すか、と思ったし、半ばまでそのつもりだった。しかし、彼女の死体を処理するのは困難だ。彼女がいなくなれば、彼女が犯人とみなされる。その方が楽だ。が、単純に出ろと言っても素直に実行するとは限らないし、そもそも信用できない奴だと思っていたし、結構変な所に敏感な女だ。他方、獣人は力の上下関係をはっきりさせると、以外にそれに従う傾向がある。そう思いついて、当初の予定を即座に変更したのである。これで、犯人はフィエラだと思われる。エスペランサは、小さく笑った。




