最悪の時は2人で姿を消そう(過去)
「あ、勇者様、こ、これは・・・。」
と聖女オスクラは狼狽えた。狼狽えたのは、グレイスも同様だった。流石に、
「こ、これは・・・あなたと聖女様のためを思ってのことであって・・・。」
呂律が流石に回らず、噛んでしまった。
「くそ。何でここに勇者が出て来るんだ。前回はなかったぞ。それに気配は感じなかった、ドアにも、部屋全体にも結界をかけていたのに。」
と心の中でグレイスは歯ぎしりした。
しかし、雄姿やフレブレは、穏やかな表情で、
「そのことは、よくわかっているよ。君達が、僕のことを考えてのことだということはね。」
と言った。そして、聖女のところに歩み寄り、微かに震えている彼女を優しく抱きしめた。
「こいつ、いつの間にこんなジゴロになったんだ。」
とグレイスは心の中で悪態をついた。
「私の聖女様。心配する必要はないよ。僕には、君だけしかいないんだよ。どこかの王女様とは婚約なんてしないよ。もちろん結婚もだよ。」
と彼女の耳元で、ただし、グレイスにも聞こえるように言った。
「で、でも・・・。」
「そうは言っても、勇者様。」
オスクラとグレイスは同時に反論しようとして止めた。勇者が話そうとしたからだ。何となく、彼が話をしたいと思う時、圧を感じて口が開かないからだ。
「魔法聖騎士殿の言うことは、一里も二里もあることだよ。てせも、考えて見てくれ。どこかの王女様と結婚するということで、かえって権威というかが上がったり、王位継承権の問題が出て来てしまうかもしれない。グレイスの意見は一里も二里もあるけど、僕に対する不安というかの解決策にはならないと思う。だから、僕は真摯に辺境で静かに暮らしたいことを、それが僕の真意であることを、説明するよ。それでも納得してもらえないようなら。」
とかれは言葉を切って、間をあけた。女達はゴクリと唾を飲んだ。長い時間のように感じた。
「聖女様と2人で姿を隠すよ。辺境の辺境に行くか、冒険者として旅でもすることにするよ。聖女様ねそれでいいかい?」
と彼女の顔を覗き込んだ。
「はい。もちろんです。勇者様といられるのであれば、どこにでも行きます。」
ときっぱりと言った。そこには、覚悟のようなものすら感じられた。
「ふん。しかし、どうする、私は?」
と迷ったが、とにかくここを立つのが正解だと考えた。
「分かったわよ。もうお熱いお二人のことは、よーくわかったわ。部屋をでて涼みに行くわよ。」
と暑いという風をして立ち上がり出て行こうとした。
「グレイス待ってくれ。」
と勇者が止めた。
「何よ。」
ギクリとした。
「上の人達の意向で何か感じたら、伝えてくれ。」
「どう言う?どうする?」
と少し迷ったが、
「分かったわよ。何かわかったら教えてあげるわよ。私も、お二人さんが不幸になるのを見たくはないしね。」
グレイスは、出来るだけ明るく、邪気の無い感じで答えて、後ろに手を振って振り返ることもなく言った。
その後ろで、勇者が聖女を抱きしめ口付けを繰り返していた。
「全くのバカップル、お気楽カップルめ。淫乱聖女は、一緒に殺すしかないな。」
と心の中で悪態をついた。
「私は、勇者様に拾われて今があるし、あの時拾われていなければ、どこかで路頭に迷って死んでいたはずだよ。何時までも、勇者様について行くつもりだし、何もいらないよ。身分とか何とかってさ、私には似合わないし、わからないから。」
とケモ耳獣人フィエラは殊勝に、勇者に言っていた。
「まあ、そういうなよ。お前の人生を、俺への義理で制約するな。地位とか、一時金も、恩給も、新しい人生のために役に立つものさ。それでもって考えればいい、ということだ。」
「2人のお邪魔虫になるから、僕が邪魔ということなの?」
これまた泣かせることを言う。
「邪魔なわけじゃないよ。」
「そうですよ。3人で一緒にいてもいいのよ。」
「ということだから、地位も、一時金も、恩給も頼むから、それから、その後のことを考えてくれればいい、ということだよ。」
「うん。分かったよ。でも、私は、勇者様について行きたい。あ、聖女様も一緒でも問題ないよ。」
「はは・・・。嬉しいことを言ってくれるな。」
と勇者は苦笑し、聖女は微笑んで、フィエラは純情そうな表情を浮かべていた。
「ふん。外面だけは完璧だな。」
と話を聞きながら悪態をついて、グレイスは。
そして、2人が席を立つと
「ふん。」
と彼女がしたことで、
「前回と全く同じだな、こいつは。」
とグレイスは思った。




