僕は王女様とは婚約しないよ(過去)
「こいつ、前回より強くなっていないか?」
というグレイスの勇者への疑いは、また少し強くなった。
魔王軍の最後の四天王。唯一の人間型魔族、といってもダークエルフの血が入っているという話だった。そのダークエルフ、人間側というか、人間と接しているダークエルフは、栗色の髪の浅黒い肌ということになっているものの、かならずしもそうでない場合が多い。人間の傭兵とか人間の下で働いているとかいうエルフがそうひとくくりになって呼ばれる場合も多いからだ。そして、魔界にもエルフがいるが、彼らは全てダークエルフとされる。人間と接しているダークエルフとは関係ないと考えるのが普通だが、ハイエルフも含めた各種のエルフも魔界にはいる、という話もある、いわゆるハイエルフをはじめとするエルフは絶対認めないが。とにかく、その四天王は剣技と弓に優れた魔導士タイプだった。男である。なかなかの美男子だった。彼に従う8人の女達、と思ったら1人は男だったらしい、後で聞いたところ、もかなりの実力者だった。槍や大鎌、鎖鎌、格闘技などそれぞれを得手とする魔導士系だった、全員。連携も見事だった。目立つ攻撃の後ろから、やや遅れてトンデモナイ方向から、或いは他の攻撃に隠れて、上官の攻撃と一体になった8人の連係攻撃、とても受けきれるものではないと、グレイスでも感じた。
だが、勇者は最後の四天王を追いつめながら、8人の攻撃を軽く避け、受け流して、一人一人確実に倒していった。二重、いや三重の魔法を纏わせ、さらに複数の魔法を放って、
「おいおい、何重詠唱・・・無詠唱か・・・だよ?」
とグレイスはツッコミを入れたくなるほどだった。勇者の放つ攻撃にダメージを受ける度に、彼の拳が自分の部下、最強の親衛隊の首が落ちるのを見せつけられ、最後の1人が真っ二つにされたのを見て、
「こ、この悪魔め。」
と我を忘れて飛び出していた。
渾身の防御結界を纏い、身体強化を目いっぱい高めていた、彼の剣の一撃を簡単に折り、次の瞬間、勇者の剣は彼を切り裂いた。その後指揮官を失った部隊は総崩れとなった。
魔王の四天王は全部壊滅したわけである。総崩れだ。後は、副魔王だが、この調子なら余裕で倒すことだろうとグレイスは感じ取った。最後の段階まで、後一歩というところまで来たのか、と歓迎すべきことなのだろう。しかし、そうはいかなかった、グレイスにとっては。
「なあ、聖女様。勇者様にはある国の王女様との婚約、魔王を倒した後、結婚する、という話が進んでいるそうなのよ。動揺しないで、よく聞いてね。勇者様の力、魔王を倒した後の名声、権威は危険なものなのよ。あまりにも多くの物を求めるかもしれないし、力に酔い権力を求める、力と権力に酔い酒池肉林傍若無人な振る舞いに走る」
「勇者様はそのような方ではありませんわ。」
と聖女は立ち上がって声を荒げた。顔も引きつっていたし、彼女を睨みつけていた。
「ああ、あの時も同じだったな。」
と思い出しながら、
「私だってそう思っているわよ。勇者とは長い付き合い、パーティー立ち上げの時の最古参メンバーだもの、彼の誠実さ、馬鹿がつくくらいの善良さも自制心も、よく知っているわ。でも、そう見ない人間、そういうことが信じられない人間も多い。聖女としても、そういうことはよく見ているんじゃない?」
「う。」
と呻いた聖女は、椅子に座割り直した。
「人は変わる時もある。変わらなかったとしたら、多分そうだと思うけど、その場合でも世の中に不満を持つ色々な人々が勇者に期待し、或いは利用しようと近づいてくるわ。そのことを心配する・・・わかるわよね。」
聖女は、黙った。
「え~と今回はというと。」
と考えて、
「王女様との結婚で、そういうことに担保ができる、安心できるということがあるのよね。わかるでしよう?」
「そ・・・それは・・・。」
と口ごもっていた。
「いいぞ。これで勇者から別れて・・・自分の意志でそれを決めてもやはり悔しい。・・・それが悔しさを生み、可愛さ余って憎さ百倍になっていく・・・。よし、まずは、あと一歩。」
と心の中でほくそ笑んだ。
「わ、私は。」
と聖女が言いかけた時、ダンっとドアが開き、
「僕は王女様と婚約はしないよ。信じてくれよ。」




