今度は同志をどうやって募るか(過去)
文書書く、成功報酬を明確にするということは、なかなか前に進まなかった。
「前回も成功報酬の約束だけだったのに、それでもなかなかしなかったからな。」
と彼女は腰を据えた形で交渉するつもりでいた。
同時に彼女は、
「今回は、仲間を・・・同志をどうやって募るか?」
と考えていた。
「今回は、ちょっと難しくなっているな。」
とちょっと表情が曇った。
前回は、勇者は女達の誰を選ぶか、ははっきりしなかった。重大な戦いの、何時死ぬか分からないのに、そんなことをすべきでない、と当然思っていたのだろう。それだけに女達はひどく不安を感じていたるここでいう女達とは、勇者に想いを寄せる聖女以下の女達である。勇者は、人当たりは良かった。内面からして善人でもあった。勇者という立ち位置、その強さ、性格の良さ、一応整った顔、容姿、そして将来性から思いを寄せる女達がパーティー内に何人いても可笑しくはない。戦い、明日が分からない中、そういう思いが強まるのもままあることだった。何人もいることを知っていればなおさら、誰かを選ぶことは、リスクがある、パーティーのチームワークにとっても。その不安をついた。
「どこかの王女様との婚約が内々に決まったらしい。」
と言えば、それで可愛さ余って憎さ百倍の下地ができた。それが、今回勇者は聖女を選んでしまった。そして、はっきりとハブス神聖帝国からの使者にそのことをはっきり言っている。いや、事あるごとに、至る所で、彼は聖女と恋人、いや婚約者、否妻だと公言している。その地の領主、かなり高位の貴族や司教、さらには国王の前でもだ。これからも、そうするだろう。こうなると、彼女には、
「彼には、ハブス神聖帝国の公女との婚約が決まっている。このことは、先日、我々の監察にやってきた連中から確認したことだ。」
と言っても、前回のように不安に感じて、嫉妬と失望から、愛が憎しみに変わって勇者暗殺に加わらせようとするのは難しい。他の女達も同様だが、彼女達には聖女への嫉妬心を煽ればいいかもしれない。男達も、皇女との結婚ということで、自分だけ逆玉ということを煽ったが、聖女と結ばれたことでの嫉妬心を・・・というのは、効果が弱すぎるように思えた。聖女と結婚したことで、勇者だけが特別な報償が・・・ということを付け加えれば・・・しかし、何かあるか?聖女は、勇者ともども殺せばいいか?聖女を勇者が手に入れた結果・・・という説明がつけば、皆を納得させられるが・・・、聖女が一緒だと、2人とも油断しきっていたとしても、暗殺成功の可能性がわずかばかり低くなるのは確実である。
「あの時は勇者の危険性と彼だけが不当に多くの報償、恩賞を受けることになっていることを言って、皆を納得させたが・・・今回は少し難しくなっているな。」
前回も一応は言っていたが、もちろん彼の本心ではあったろうが、辺境の小領主となって悠々自適で生きられれば十分だ、ということを、今回は聖女のこと同様に至る所で、勇者は語っている。しかも、自分はそれを望んでいるが、パーティーメンバー達には、彼らのお蔭で魔王を討伐できたのだから、それに見合う十分な報酬、恩賞を与えてもらうよう、皇帝陛下達にお願いする、ということも同様に言っている。帝国の使者にも、はっきりと何度も、皆の目の前で言っている。
「淫乱聖女も一緒になって、私は勇者様と一緒ならそれで十分です、などと阿保面で言いやがった。」
これでは、勇者を殺して彼の分の恩賞も我々で分配しよう、と言っても効果が薄い。
グレイスは悩んだ。
「勇者暗殺・・・抹殺は皇帝の決定事項、既定方針だ、ということにするか?あいつにそのような文書を出させるか?あと参加者への恩賞の約束もだ。あいつ、出すかな?出さなければできないわけだからな。最悪の場合、拒否するという選択もあり・・・で。」
一人だけでの実行は、パーティーメンバーに疑われ、告発、訴えられる可能性もあるから、だめだ、と考えた。一人でなくても、パーティー全員、少なくとも大部分は一味になってもらっていなれりばならない。今回は聖女も一緒に殺さなければならないから、なおさらだった。
「どうする?とにかく、あいつにやらせなければならないな。それしかない。」
彼女にとっては、勇者暗殺を断念することは、最後の最後でどうしようもない時のことだった。彼女は、そのことに疑問を感じてはいなかった。




