引き受けるが(過去)
「しかし、勇者を抹殺するとしても、どうやってやるのですか?勇者は、不死身に近いほどの存在ですよ。例えば、私の持つ聖剣でもって突き刺しても、殺せませんよ。即死させられないばかりではなく、即座に殺害者はもちろん周囲にいる、パーティー全員が私の仲間であっても、その彼らもろとも殺すことも可能で、その後回復も十分可能ですよ。」
グレイスは、2回目の話し合いでは、そのように言った。これは前回どうりである。ロンギヌスの槍を受け取る確約をとるために、焦らせていたのだ。簡単に同意してしまったら捨て石にされかねない。そういうことを前回は考えたのだ。
今回も取りあえずは、これを言ってみたのである。
「いや、勇者が魔王との決戦で疲れ切った、力を消耗しつくしたならば、十分貴方の聖剣で十分倒せる。」
とはハリグトンは言った。
「これも前回通りだな。」
とグレイスは思った。同時に、
「さて、どうしたものかな?今回は?」
と考えていた。
ただ、彼女には勇者暗殺を回避する、断るという選択肢は全く念頭にはなかった。あくまでも、ここでよりよい条件を勝ち取るための戦術についての選択だった。その後は、聖女が勇者にはっきりと寄り添うことになってしまったことで、暗殺のタイミングが少し難しくなったことで、どうやって実行するかということだった。
どうして、勇者を暗殺することを止めないのか?彼女は、そのことについては全く念頭に浮かばなかった。
「ところで、カルタゴは滅ぼされなければならない。」
古代ローマの大カトーが、どういうときにでも話の最後に、上記の言葉を付け加えたように、グレイスは勇者は自分によって殺されなければならない、ということは絶対だったのだ。それに対しては、全く動かなかった。
「ロンギヌスの槍がある。これなら、勇者が疲れ切っている時なら殺せる。勇者の毒耐性の対象外の毒性を持つ。勇者の生命力が通常であれば、難しくとも、魔王との戦いで消耗しきっている時であれば、勇者を確実に殺すことができるはずだ。ああ、それからそれ以外の戦いでも、お前の聖剣以上の力を発揮してくれるだろう。槍は不得意か?」
彼女が、どんな状況でも、自分の聖剣と力では勇者は殺せないだろう、と言った後ロンギヌスの槍の話を持ち出した。本当はそれなしでやらせたいのである。それがダメであれば、しかたがないというところなのだろう。これまた、前回と同じパターンだった。
「今回は、もう少し躊躇してみせるか?」
と彼女は考えた。
「しかし、先日も勇者様は魔王を倒した後は、田舎の小さな領主として静かに、聖女様とともに暮らしたいと言っていました。聖女様も、勇者様と、この戦いで死んだ仲間達の霊を弔って過ごしたい、と言っていました。二人の表情からは本心だと思いましたし、長くともに戦っている仲で、彼らの欲のなさ、人の良さはよく知っています。卿のご心配は、杞憂ではないかと思うのですが。」
と迷う風に言ってみたのだった。彼は、大きく何度も首を横に振り、
「杞憂であったとしてもだ、僅かな危険性であっても、事前に、国のために排除しておく必要がある。それに、人というものは変わるものだ。大きな功績を自覚した後には、野心が生まれるものだ。少し時間がたてば、欲が出る、小さな田舎領主では満足できなくなるものだ。栄光の日々、人々の歓呼の声の記憶は、人を増長させるものだし、唆す者達は事欠かぬものだ。それに所詮は、身分の卑しい者は、決して清楚な、清貧な生活に落ち着けるものではなく、野心や欲望を膨らませるものなのだ。」
とまるで勇者の顔を脳裏に浮かべて、苦々しく思っているというような表情だった。
「自分はどうなんだ?勇者や聖女より卑しい身分じゃなかったか?」
勇者と聖女は、地方貴族とはいえ、男爵とはいえ爵位持ちで、古い家柄の出身である。しかもそこそこに裕福ではあった。一方、ハリングトンは一応貴族か?というところであり、結構貧しい家の末子だとも、庶子だとも伝えられている。実は、はっきりとしてはいないのである。彼自身があまり語らず、それが、その時々で異なっているためだった。
そう思うグレイスではあったが、やはり2人を下級貴族と見下していた。爵位無しの下級貴族、上級騎士の出であったにもかかわらず。
「どう答えるか?」
彼女は少し迷った。
「分かりました。ただし、条件があります。」
と彼女が言うと、ハリングトンは、
「?」
という顔になった。
「ロンギヌスの槍をまずいただいてから、勇者が野心に溺れるようであれば、実行いたします。そうでなければ、暗殺はしません。それから、このことについて、命令書を正式な文書でいただきたい。最後に、それ相応の報酬を求めます。それについても、事前に文書でお約束下さい。」
前回は報酬についてのみだった。




