覚えている?➂(未来)
「大体、俺が勇者を殺したおかげで、勇者がいなくなったおかげで、今の平和があるんだ。もし、生きていたらどうなったと思う?どれだけのものを、あの田舎者の成り上がり者に与えなければならなかったか?あいつがいなくなって、国も民も、その膨大な負担から逃れることができたんだ。あいつが生きていたら今頃は、あいつは増長して権力を求める、あいつに王侯貴族も平民たちも良からぬ連中があいつの下に集まり、陰謀だ、暴動だ、反乱だと言い出す、そして、各地で騒乱が起こっていただろう。名もない小さな村までもが焼かれ、あいつを信奉する連中に略奪され、凌辱され、殺されたろう。俺は、それを皇帝のため、民のため、神のために、多数の女を侍らせ、気に入らない者を気ままに殺し、毎日朝から晩まで酒池肉林の贅沢三昧と殺戮をする、あの糞勇者を殺したのだ・・・感謝されてしかるべき俺が・・・どうして、どうして、こんな目にあわされるんだ。皇帝以下、みんな、それがわかっているのに、俺に全ての責任を押し付けて・・・。」
と彼は延々と愚痴とも言えないことを語りだしていた。
「おい、私の忍耐もそろそろ限界なんだよ。私を裏切り、お前を・・・こんな目に合わせて、地位と名誉と富を得た聖女以下のいる場所と現状を知っている限り教えろ。」
と彼女は、殺気を込めた声で言った。その顔におびえながら、
「こ、こんな身になって、知っていることなぞ・・・。」
彼女に少しでも協力することになっては不味い、と彼の勘と嗅覚が命じていた。
「ふん。お前が簡単に、ここで大人しくしてはいないだろう。何とか復帰しようと、画策していたはずだ。そして、自分の計画を台無しにした聖女達のことを許していなかった務、何時かは報復してやろうと思っていたはずだ。そのお前が、彼女達が今どこでどうしているか把握していないはずはないだろう?」
「ん・・・。うん。・・・。」
「早く言え。お前は殺さないでいる私の忍耐にも限度というものがある。それも、そろそろ、持たなくなってきたぞ。言いたくないならば、殺してやろうか?今、お前を殺すか?」
彼女の顔は、本気だと、彼は悟った。
「分かった。知っていることは説明する。」
と言わざるを得なかった。
「最新の情報とは言えないから、そのことは理解して許してくれよ。」
と彼は言いながら、部屋の奥の棚から紙束を両手で抱えるほど持ってきて、机の上に乗せると、これでもない、あれでもないと紙束を右左に投げ捨てていった。
「お、これだ。わかった・・・違うこれは二年前だった。なんだ、どこにいった?もう・・・。」
とぶつぶつ文句を言いながら続けた。
「こいつは、昔から整理整頓が苦手な奴だったな。」
と思い出した。昔からとはいっても、それを見たのは自分が処刑される1年ほど前にあった時、勇者の暗殺の依頼をしてきた時からの数日間だけのことであるが。
「ええと、ええと。」
と必死に探している姿をエスペランサは、しかたがない、と思いつつじっと待った。
「おお、あった。フェイス。」
と言って振り返った。
「今さらだがな、今はエスペランサ・ルスだ。」
「エスペランサ・ルス・・・か。わかった、ルス。数か月前に聞いた記録、メモだ。まあ、あの時からの経緯も説明しておくか。いいか?」
「ああ、いいぞ。」
「皇帝陛下はな、聖女が自分が同意したから他の者達も見て見ぬ振りをしたのであるから、罪は私だけにありますと言う言葉と既に勇者パーティ―が凱旋し、それを民も見ている、帝都だけでなく、途中の村々町々都市国々で、以上勇者パーティ―が顕彰されていないと疑いが起こり、動揺が広がり、帝国への信頼が薄れると判断されて、聖女以下を助命し、それなりの恩賞を与えることとしたのだ。だがな、聖女が私が首謀者で、お前が実行犯で積極的に勇者を殺害したと告白したのだ。わ、私は言ったのだ。勇者の存在がどれだけ危険な存在であり、彼がいかに野心を持っていたかを説明し、殺害は仕方がないことだったと説明したのだが・・・フェラファックスの馬鹿ものが、勇者にそのような野心家ではなかったと言い出し、聖女も勇者がいかに清楚な人間だと言い出し、それに皆が同意して・・・。それで、お前の処刑となり、連中は恩賞を受けたのだ。俺は、こんな目に・・・。まあ、本来勇者が生きていれば貰えるだろう恩賞よりずっと少ないものだったし、領地も辺境に与えられたがな。勇者が死んでしまったということで、皆が辞退したということにしたのだが・・・。それに聖女だが、北の魔界に近い辺境の小さな修道院で勇者のことを弔うということで、清貧な生活をしているらしいがな。ここにあるのが、聖女以下の所在地だ。」
などと言ったが、彼女は、ふん、としか思わなかった。




