覚えている?➁(未来)
「ふん。かつての威勢はどこへやらだな。見る影もないな。」
立ち止まってみていては怪しまれるから、通り過ぎるだけだった。それだけで十分だった。屋敷は以前のままだったが、荒れ果てている、人の気配をほとんど感じない。そして、さほどの人数ではないが、衛兵達がいた。だが、雰囲気ではこの屋敷を守っているという感じよりも、監視している、中の者が出ないように注意している、という感じだ。
そして、宿を抜け出して、その屋敷の前に立っていた。トルシド・ハリングトンの屋敷である。かつては、皇帝の寵臣として絶大な権勢を振るっていたものだ。若禿げを気にしていたが、なかなかの伊達男で、その地位もあり、周囲に女達も群がっていたものだ。男達も群がっていたものだが。
「ふん。あいつも、あのことで全てを失ったか。それでも、生きて、こうしていられるだけ、私よりましなんだよ。」
「まったく、もうダンジョンみたいなものだな。魔獣の類はでてこないが。何かが出てこないか、気をつけないといかないのは同じだな。」
簡単に屋敷内に入ることができた。警備の兵は士気も規律も弛緩しきっていた。その間、縫って入り込むのは容易だった。その後が面倒だった。だだっ広い屋敷の中は、人の気配が少なく、空き室が多く、埃が積もっているところが目についた。一番困ったことは、目的の人物がどこにいるかが分からないことだった。
「まあ、私の実家と基本的に構造は変わらないから、こちらの方向かもしれないな、主人の寝室は。」
とゆっくり歩き始めた。すると、よくある展開、怒鳴り声、大いに聞き覚えのある声がした。続けて謝る声、そして駆けだす足音。手近な部屋のドアを開けて、身を隠す。もちろんドアを閉める。ぶつくさ不満の声。内容からも主人に命じられたものを持ってくることになっている。それを待ち、もう一度、彼女が前を通っていくのを確認して、他の足音、声、気配を確認して部屋をそっと抜け出し、微かな光が漏れている部屋にそっと侵入する。
「お前、随分変わったな。」
彼女の目には、すっかり頭の禿げた太った醜いと言いたくなる男が酒をベッドに腰を掛けて飲んでる姿が映った。それは、かつて知っている人物とは、別人という以上に別の生き物としかいえないものだった。それでも、なにがしかの面影がある・・・ないのでは・・・だが、何となく、彼が、それがトルシド・ハリントンだと感じたのである、第六感?
「なんだ?」
彼女の声に、鈍すぎる反応だったが、ゆっくりと頭を上げ、蝋燭の薄暗い光の中で目を凝らした。それから、しばらくじっと見つめた。ただ、突然見知らぬ者がいて動じることなく、平常の延長のような態度を取っている姿は、流石だとはエスペランサは思った。もしかすると、単に頭の回転が鈍くなっているだけなのかもしれなかったが。
「お前は・・・。なんだ・・・?誰だ?・・・。もしかして・・・まさか・・・お前は死んだはずだ。4年前・・・処刑されたはずだ・・・私は首を斬られたお前を見た・・・グレイス・フェイス!」
彼の目は大きく見開いて、彼女を見つめて、うめき声をあげ、金縛りにあったように動かなくなり、顔は恐怖で引きつっていた。しばらく時間がたってから震えだした。目は、恐怖の色で包まれていたが、先ほどまでと比べると生気が出てきたようにすら見えた。
「あの時から、神の意志で時を越えて蘇ったのよ。まあ、自分ではどうしてかはわからないけどね。別にあなたに復讐に来たわけではないわよ。あなたの口車に乗って処刑されてことは忘れてはいないけどね。」
と彼にさらに近づいて微笑みかけた。それは、悪魔の微笑みのようであった。
「そ、それは、お前がヘマをしたからではないか。お前が上手くやっていれば・・・。う。」
彼の首元に剣先が付きつけられていた。
「まずはお前に聞きたいことがあるんだよ。殺したりしないから、安心しろ。ちゃんと言わなければ、殺してしまうかもしれないわよ。」
とさらに恐ろしい笑みを浮かべた。トルシドは、さらに硬直しながら震えて始めた。




