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無色の恋  作者: 白夜
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6/7

陸【貴方を好きになった、あの日から】

一定の基準を超えれば、出場権を握れる県大会。

中堅ほどの小さなうちでは、その舞台に立てるだけで十分。

その先に進む部員は、数人程度だ。

記録が出ず、付き添いとして行く俺と、リレーのみの出場権をもつゐざよ。

そして、出場する6人ほどのメンバーで県大会の会場へ向かう。

5時半集合の中、ギリギリで走ってきたゐざよに手を振る。

「5時に起きた〜」

と自慢げにいうゐざよに、愛想笑いを浮かべた。

電車は比較的空いていて、みんな座ることができるほど。

それでも、腰が痛いと嘆くゐざよの前に立ち、他の3年も交えて話をする。

くだらない話。

あとから、何を話していたのか聞かれても、思い出すことはできないような、そんなくだらない話ばかりしていた。

目的の駅に着き、もっと話していたい、と惜しみながらも電車を降りる。

エスカレーターに乗った時、前に立つゐざよが、いつもより小さく感じた。

「ゐざよってチビだな〜」

今だけは、俺の方が上だ。

いつもリュックサックに手を置かれる側だった俺が、今はゐざよのリュックサックを肘置きにできている。

「はぁ?何言ってんだよ〜」

クシャッと笑いながらゐざよがこちらを軽く見上げる。

「こうして見れば俺の方が高いだろ?」

普段より胸を張る俺に、ゐざよがニヤッと笑みを浮かべた。

「今はそういうことにしておいてやるよ」

ホームへ降りると、一気に形勢逆転したのを確認し、ゐざよが頭に手を置いてくる。

「はぁ?!お前、舐めてんのか!」

「はいはい、おチビちゃんは黙ってね〜」

ニヤニヤしながら見下ろしてくるゐざよに威嚇の視線を送った。

「お前な、舐めんなよ!あんま変わらんから!」

「俺165とかだけど?」

「うっわ、155だわ...」

意外と差があることにびっくりしてしまう。

と同時に、頭に置かれた手がポンポン、と頭を叩いた。

「おい!身長低いからって、舐めんじゃねぇ!」

「絶対勝てないもんな〜♪」

「うるさい」

ムスッとし出した俺に対して、またニヤニヤと笑みを向けてきた。

「負け犬の遠吠えかな?」

「次の電車来んぞ!」

丁度着いた、乗り換え用の電車にゐざよを押し込む。

さっきとは違って、かなり混んでいる。

中には、他校の陸上部も伺えた。

「へぇ、意外と人いるんだな」

周りを見渡しながらつり革を掴もうとした手が、空を切った。

「は?」

上を見ると、つり革が普通より少し高いところに設定されている。

「だっさ!」

吹き出しながら、軽々とつり革の上の棒を掴もうとするゐざよ。

そんなゐざよを睨みつける。

「さいっあく」

ため息をつきながら、少し背伸びしてつり革を掴む。

「うわ、つま先立ち?チビだな〜」

「うるさいな〜!」

周りに人もいる分、いつもより顔を寄せて小声で話す。

少し近いその顔に、ドキッとしてしまったことは、なかったことにする。

「もうお前のリュックサック借りるわ」

返事を待たず、ゐざよのリュックサックに手をかける。

ついでに、少しの体重も。

それでも、微笑んで見下ろしてくる目は変わらない。

ゐざよの柔軟剤が鼻をくすぐった。



♡



最寄りの駅に着いてからも、ぎゅうぎゅうのバスに乗り込み、また30分ほど移動する。

俺らは、少し段差になっているあたりに落ち着いた。

隣にはゐざよ。

今度は段差の差がない。

前に持った荷物がだんだん落ちていき、混んでいるせいで上に持っていけない。

無理やり持ち直そうとして、足元がふらついた。

「あっ...ぶないな...」

段差を踏み外しそうになったところで、ゐざよに支えられた腕が身体を支える。

そのままグイッと引き寄せられ、元の体制に戻ることができた。

「ガチありがとう、助かる」

「身長低いからやっぱり押されちゃうのかな?」

こんな時でも煽り続けるゐざよを睨みつけるが、すぐ口角が上がってしまう。

「ゐざよさいっこう」

それに合わせて、ゐざよの目尻も少し下がったように見えた。



♡



部活を嫌いと言っている割に、積極的に動くゐざよは、普段から目立ちたがり屋だ。

久々の県大会。

意外にも、うちの学校の雰囲気はゆるゆるしている。

悪く言えば緊張感がないのだろうか。

昼が近くなり、お昼ご飯を食べ始めた部員同士で談笑する。

「ゐざよのそれめっちゃ美味そう」

俺の目についたのは、ゐざよの弁当に入った卵焼き。

焦げ目が少なく、綺麗に巻かれている。

「1個あげようか?」

「まじ?!」

「たくさんあるしいいよ」

そう言いながら差し出された弁当箱。

その中からひとつ、卵焼きを拾い上げた。

「やば、これめっちゃ美味い。少し甘いね

「ホント?これ俺のお母さんが作ってくれたやつな」

「最高すぎ」

見た目を裏切らない美味しさに思わず目を見張る。

「それは良かった」

そう言いながら平然と食べ続けるゐざよに、笑みが浮かぶ。

ご飯を食べ終えると、途端にのどかな午後が訪れる。

うちの学校から出場する生徒のほとんどが午前で終わるために、テントには和やかな雰囲気が流れていた。

大の字に寝っ転がり、ジャンパーを顔にかけて寝だすゐざよ。

その腹を枕にして、他の同級生と談笑する。

体操のために割れたお腹は固く、傾斜も相まってすぐ滑り落ちそうになる。

毎回這い上がり、もう一度枕にする。

そうしているうちに、春の陽気に包まれて、眠くなってくるのだ。

ずり落ちても這い上がるほどの力は残ってない。

いくらなんでも眠たすぎた。

腹を諦め、ゐざよの腕に身体を任せる。

腕を抱き枕として寝ることにした。

同時に、ゐざよのウィンドブレーカーも奪い取る。

枕は必須アイテム。

自分のウィンドブレーカーは既に着ているため、ゐざよのものを代理品として扱う。

ウィンドブレーカーと人肌の暖かさに身を任せ、目を閉じた。



♡



「ツユキ、もうすぐうちの学校出るよ」

他の部員から揺られ起こされ、眩しい視界に目を細める。

「ツユキ、早く行くよ」

他の部員に引っ張られ、慌てて靴を履いた。

まだ目を擦るゐざよも引っ張り出し、競技場の柵の前に並ぶ。

少し上にある目線に、イラッときた。

その悔しさを糧に、部員を腹から応援する。

その横で、うるさいとでも言いたげに耳を塞ぎ、微笑むゐざよが視界に入った。

「何笑ってんだよ」

「スピーカーだなって」

「お黙り」

そんな短い会話を経て、種目を終えた選手に激励を送った。



♡



小腹の空く時間帯。

ゐざよ達のリレーが目前になる。

そんな中でも、普段通り寝ているゐざよが可笑しい。

ふと、遊び心から、ゐざよの髪を結ってみた。

長めのセンターパートだからか、意外と簡単に三つ編みが出来る。

集合5分前になり、飛び起きたゐざよは、三つ編みに気がつくが、ニッと目を細め、靴を履き出した。

「外さんの?」

「これ、つけたまま走るわ」

悪戯げにそう笑うゐざよが、今日はどこか煌めいて見えた。

「俺ゐざよの付き添い行くわ」

普段から、基本的に誰が誰につくかは決まっていた。

俺は、ゐざよ。

その日も、普段通りの組み合わせだった。

「ゐざよ、呼ばれてる」

「おっと、うわっ」

うちの中学の招集が掛かり、少し焦って駆け出したゐざよと、他校の生徒がぶつかった。

「いって...」

「ゐざよ!その穴...」

「さっきぶつかった時に踏まれたっぽいわ」

少し顔を顰めながらもふざけたような微笑を浮かべた。

「走れんの?靴の小指、穴空いてるけど」

「まぁ、やってやんよ」

キュッと口角をあげ、脱いだ部Tと体操着のズボンを渡された。

その下から現れた真っ赤なユニフォームは、太陽の日を浴びて、より主張を激しくする。

待機場所へ駆けていくゐざよの背を見ながら、渡されたTシャツを畳む。

「じゃ、ゐざよ、行くからね」

「おう」

「あ、髪それでいいの?」

「これで走るからな」

「わかった。ファイト!」

歯を出して笑い、親指を立てたゐざよに、こちらからも笑みを向けた。

そのまま背を向け、更に4走の待機場所へ移る。

そこに居る、赤いユニフォームの背中を叩く。

びっくりしたような顔をして振り向いたその生徒の、固まった表情が少し崩れた。

選手が各々の立ち位置へつく。

スタートの合図が鳴る。

1走から2走へ渡ったバトンは、勢いを落とさないままゐざよに渡った。

一気に加速しつつも、先程の小指が痛むのか、少し歯を食いしばっている。

赤いユニフォームを着て、太陽の下、火照って輝くその身体が、俺の胸をも熱くした。

4走へ無事にバトンが渡り、一礼して戻ってきたゐざよにTシャツを渡す。

放送で何気なく耳に入ってくる順位。

1位に俺たちの中学校名が出た瞬間、心臓が飛び出そうになった。

もちろんの如く、全体での1位にはなれなかった。

ただの組内、8校中の1位。

それでも、自己べストを出し、1位を掻っ攫ったことに、少しの感動を感じてしまった。

「睡眠と、この三つ編みのおかげだな!」

カラカラと笑うその声に、現実へ引き戻される。

その代わり、三つ編みのおかげ、という言葉が頭に反響していた。

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