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無色の恋  作者: 白夜
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5/7

伍

「ゐざよ」

「なに?」

「今日部活ないらしいよ」

「マジで?!」

副部長とは思えないほど喜びを爆発させるゐざよに、思わず笑顔が漏れる。

最近になって、ゐざよは部活に来なくなることが増えた。

後輩が入ってきたばかりの頃はもちろん、よく来ていたはずなのに。

先生にしたくない種目をやらされるから?

幅跳びのピットにネズミが出たから?

それとも、最近俺を避けるから?

最近、ゐざよからの態度が少し変わった。

ほんの少しだけ、嫌な味を残す態度。

俺とゐざよを含め、俺のクラスに陸上部は3人しかいない。

陸上部だけにしか伝わらないネタが出た時、ゐざよはこちらと顔を合わせようとしてくれない。

すぐもう一人の方に顔を向け、ニマっと笑う。

ずるい、よりも先に、なぜ、が押し寄せてきた。

なんで、そうなってしまうのだろうか。

嫌いと言われるより、苦々しさが残る。

陸上部のじゃれ合いの一環で、ゐざよに声をかけても、前のようなふざけた回答は得られず、気のない返事だけが残された。

渡したいものがある時も、ゐざよに近づくと、それに気づいたのか気づいていないのか、フラッとその場を去っていく。

だから、結局、他の人を経由して渡すことにしていた。

気まぐれなら良かった。

気まぐれであってほしかった。

ゐざよは、尚変わらぬ笑顔を浮かべる。

極端に、それを向けられる機会が減った。

なんで、他の人と俺が同じことをしても俺に対してあたり強いのか。

分からない。

ゐざよが分からない。

それでも、顔にかかる髪の艶やかさ、他の人に向けられる笑顔の輝かしさ、自分の好きなことを話す時の普段とは違った雰囲気、いじられて照れくさそうに笑うその顔が、流れ込んでくる。

辛い。

今は、それが単純に辛くなってしまった。

なんで、それが俺に向けられないのか。

卒業式になれば終わる恋。

なぜ、その一瞬一瞬に惑わされてしまうのか。

もう、分からない。

前の子とじゃれてる今の瞬間が、いつまでも頭に残ってしまいそうだ。

ゐざよに溺れる。

なんで、なんで...

分からないからこそ苦しい。

せめて理由だけでも知れたなら。

謝れることなら謝るのに。

それでも、目が合えば、やっぱり笑ってほしいと思ってしまう。

この苦しさは、いつまで続くのか。



♡



二学期もいよいよ終わりに近づく頃。

学期末の学級集会が行われた。

班長が組んでくれたらしい。

内容は、なんでもバスケットとジェスチャーゲーム。

なんでもバスケットは、班長の1人から始まった。

同じ人が何回も続いたり、恋愛に関する内容や、ふざけた内容が増える度、笑いが起こった。

俺も例に漏れず、何度か中央に立たされる。

悩んだ末出てきたものが他の人と被っていたり、周りに言われた内容だったり。

ゐざよの方を見ると、ほかの陸上部と並んで座っていた。

今の位置であれば、「陸上部」と言っても、席を交代するだけでつまらない。

周りに言われた通り、学級目標の発案者をターゲットに、お題を出す。

周りの思わく通り、発案者が中央に躍り出た。

ゐざよは、相変わらず周囲の人と席を交換することで凌いでいるらしい。

何度目かのお題で、残り少ない席数に焦り、友達に手招きされるまま、ゐざよの隣に駆け込んだ。

「うわっ」

というゐざよの声が聞こえた。

心なしか、こちらを避けるように椅子の端に寄っている。

もちろん、それを察せない訳がない。

それに気がついた瞬間、胸がびっくりするほど締め付けられた。

今、初めて、露骨に避けられた。

ゐざよの気持ちを汲み取って、こちらもゐざよとは反対側に身体を寄せる。

次のお題は、当てはまらなくとも席を立とう。

ゐざよに嫌がられ、心を抉られるくらいなら。

少し嫌そうな顔をしていたはずなのに、もう隣の人へ輝きを向けている。

もう一度、心臓を掴まれた。

散々悩んだ出題者のせいで、ゐざよの隣にいる時間が増えた。

以前なら嬉しかったその距離感も、少し避けられただけで地獄に置き換わる。

悩んだくせに、出たお題はつまらないもの。

すぐに席を立ち、できるだけ遠いところへ駆け込もうとしたが、すぐに埋まってしまった。

また、出題者になる。

ゐざよの方を向くと、さっきとは違い、陸上部員との距離が離れている。

ゐざよではない方に身体を向け、「陸上部」

と発してみた。

その瞬間、誰もいなくなったその席へ滑り込む。

ホッと一息着こうとしたその時、ゐざよの呟きが、こちらまでハッキリと聞こえてきた。

「は、きも」

いつもとは違って、本当に気だるげな声。

間違えた。

心臓が早鐘を打つ。

輝きを一瞬失った瞳は、こちらを睨もうともしない。

うちのクラスに、俺を含めて、陸上部は3人。

俺が、ゐざよとは違う部員の席に座ると、必然的にゐざよの席はなくなる。

かといってゐざよの席に座ったところで、ゐざよが軽蔑の色を浮かべることは、なぜか想像できてしまった。

それが、余計に苦しさを増させた。

息が上がって、背に汗が伝う。

その後無事に席につけたゐざよは、今日は一度も目が合っていない。

他の人が、ふざけて1人を狙ったお題を出す。

「は、だる〜!」

わはは、と笑いの起こる中で、ゐざよも、笑い声を上げながら、「俺だって、さっきめちゃくちゃダルいお題出されたんだからな〜!」と投げていた。

それが、陸上部のことは明らかだ。

冗談も許されなくなったのか。

やるせなさと悲しさに包まれ、なんでもバスケットの間、その席から動くことは出来なかった。



♡



意味もわからず、避けられている、と自覚した日から、4ヶ月が経った。

その間に、ゐざよとの距離感が変わったことはない。

なぜか避けられ、嫌われる。

席替えはあっても、離れても、ふとした瞬間にそれを感じ、苦しみ、時々向けられる笑顔に、それでも嬉しさを感じていた。

それも、あと数日で終わってしまう。

卒業式は、目前まで迫っていた。

自分の進路を決め、それに向かって努力していた日々は、1ヶ月前に終わった。

ゐざよは、推薦を受け、体操の道に進むようだ。

ゐざよらしい。

そんな小話を耳にするだけでも、それが本人からではなく、他の人から聞いたものであるから、1層虚しい。

俺には、ゐざよしかいないのに。

ゐざよにこれだけ振り回されても尚、ゐざよは俺を見向きもしなかった。

その事実だけが残る。

楽しいこともあって、嬉しいこともあった。

最後はこんな気持ちで終わってしまう。

最後はゐざよからなにも貰えずに終わってしまう。

それが、ただただ悲しかった。

ゐざよを好きになった日が、遠く昔のことのように思える。

あの日は、県の陸上大会で、穏やかな天気だった。

虚しさと悲しさに包まれながら、ゐざよを好きになった、鮮明なあの日を思い出してみた。

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