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無色の恋  作者: 白夜
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4/7

肆

「ツユキ?」

こちらを覗き込んできたゐざよの顔に、ハッとする。

薬品の匂いが漂う中、カーテンに遮られた陽光の代わりに、無機質な光が部屋を明るくする。

ゐざよの席に教科書を置き、自分は少し離れた斜めの席に座る。

教室でも、理科室でも斜め。

ゐざよの隣は、体育祭でよく笑顔を向けていた女子だ。

あぁ、近いよ。

俺も隣にいたい。

二人で笑い合いたい。

実験時、見えない、と小さな嘘をついて2人の間に入る。

その子に向ける笑顔と同じものが飛んできた。

少し、ホッとする。

その子だけが特別なわけじゃない。

それだけで、なぜだかとても、心地よかった。


♡


理科の授業が終わって、3階にある3年の教室に戻る。

戻る時には、別々。

ゐざよの仲良くしているグループの、少し後ろを他の子と歩く。

もちろん、ゐざよの荷物をもちながら。

すれ違う1年の男子、2年の女子。

知り合い一人一人に一言ずつかけるゐざよは、なぜだかこういうところだけ丁寧だ。

ふと、ゐざよの笑顔が少し明るくなる。

それに違和感を覚え、ゐざよの視線を追う。

その先には、2年生の女の子。

その子に向かう笑顔は、やっぱりどこか不思議で、モヤッとするような、嫌な味がした。

ゐざよの瞳孔が、いつもより、少し開いている。

それだけで、嫌な汗が背を伝った。

綺麗なだけのはずの、その笑顔。

あの時と似ていた。

俺の幼馴染に恋をしていた、あの時と。

それに気がついてしまった。

途端に世界が少し暗くなる。

あぁ、また。

また、心が沈んだ。

ゐざよから目を逸らし、隣にいる友達へ目を向ける。

いつも通りの友に、乱れた心をまた整えながら、笑いかけてみた。


♡


「ゐざよが付き合ったらしい」

そんな噂は、3週間前から流れている。

そもそも、4週間前にゐざよに好きな人を教えてもらってから、諦めるつもりだった。

付き合った、と聞いてからは、ゐざよの前の席の子が、以前よりもゐざよと話すようになった。

恋愛以外での話でも盛り上がりが増した気がする。

ゐざよが付き合った、という事実より、目に見えるそちらの方がよっぽど堪えた。

もちろん、お互いに気がないのは見て取れる。

それでも、時に目を逸らしたくなり、時になにもかも投げ捨ててしまいたい、という衝動に襲われる。

ゐざよと席が斜め、ということは、いいこともある。

たくさん話せるし、楽しい。嬉しい。

その分、2人が仲良くしているのを嫌でも目に入れなきゃいけない。

廊下側の一番端なのが悪かった。

隣がその女の子なのも辛い。

横を向くとしたら、その2人の方を向かなきゃならない。

言いようのない倦怠感に襲われ、胃の底が沈む。

何故こんなことを考えてしまうのか、分からない。

それでも、襲ってくる感情に抗えないから。

「そこ、イチャイチャしないで」

と、教室の後方に向かって声をあげる先生に、「ツユキ」と小声で呼んできたゐざよは、後方を指さす。

「またあそこがイチャついてる」と言いたげな瞳に、こちらも目で返事をする。

こういう目でのコミュニケーションが、ゐざよと俺とではよくある。

その瞬間が、いちばん楽しい。

二人で共有する感覚、話す感覚。

そして、自分に最初に向けられるその言葉。

それがこの席の利点だ。

長めのセンターパートが、ゐざよの片目にかかる。

気にせず笑うゐざよに、少しドキッとしてしまった。

彼女のいるゐざよは、1層明るくなったように感じる。

あぁ、虚しい。

やっぱり、ゐざよは男の子。

それは、越えられない壁だった。

少しずつこちらにも向けられる笑顔は、いつまでも眩しかった。

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