第11話:葵の朝
札束で築き上げた虚栄の城は、一通の督促音とともに音もなく崩れ去った。
プライドの仮面が剥ぎ取られたあとに残るものは、誰にも救ってもらえない凍てつくような現実と、ただ独りぼっちの冷たい朝だった。
六本木の冷たいアスファルトの上で声を上げて泣いた夜から、どれだけの時間が経ったのか分からない。
葵は自室のベッドの上で、ただぼんやりと天井を見つめていた。
手元のスマートフォンからは、乾いた電子音が途切れなく鳴り続けている。
ホストクラブからの未払いの督促、決済エラーを告げる無機質なプッシュ通知、そしてリボ払いの限度額超過を警告するカード会社からの赤字の警告文。現実から目を背け、すべてを無視し続けた結果、画面の向こうのデジタルな数字は、彼女の人生が完全に破綻したことを冷酷に告げていた。
親名義の予備カードも、決済拒否の冷たい振動とともに利用停止へと切り替わった。いつもなら「今月だけだから」と、言い訳を並べてどうにかなったはずの実家の基盤も、今回はもう限界だった。両親にすべてがバレる。その恐怖が、喉の奥を締め付けた。
「……うそ、でしょ……」
シーツの上に這い出るように起き上がり、葵は散らばったブランドもののバッグや、値札のついたままのアクセサリの山に視線を落とした。
昨日まで自分を大きく見せてくれていたはずのガラクタの山が、今はただ首を絞める重荷にしか見えない。換金しようと質屋の相場を調べても、二束三文の査定しか返ってこないことは分かりきっていた。
「可愛いね」「お前がいちばんだよ」
耳たぶの奥にしがみつくように残る甘い残響。男の顔を思い出そうとしても、浮かんでくるのは夜の光に目が眩んだような、輪郭のぼやけた虚像だけだった。金が尽きた瞬間に、客ではなくただの「財布」として切り捨てられたという冷徹な事実だけが、ヒリヒリとした痛みとなって胸に残っている。焦燥感はやがて、手足の先から熱を奪うような重い無気力へと変わっていった。
カネという暴力で自分の価値を証明し、他人の視線を買い取ることでしか、崩れそうなプライドを保てなかった。
その担保をすべて失った今の自分は、東京という街の片隅に放り出された、世界で一番惨めで空っぽな存在だった。
「……私、なにやってんだろ」
誰に向けて言うでもない掠れた声が、朝の冷気に満ちた部屋のなかに虚しく吸い込まれていく。助けを求めようにも、恵比寿の夜に毒を吐き合い、お互いの打算の仮面を剥ぎ取ってしまった今、このスマホの連絡先にすがりつける人間など、最初から一人もいなかった。
逃げ場を完全に見失った葵の頬を、熱い涙が音もなく伝い落ち、床の冷たいフローリングを濡らした。




