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幸福な時間  作者: 悠木 泉
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再会

 シスターたちの好意で教会に来てから、早、3か月が経っている。教会の広い庭の花々も可愛いつぼみを付けて、本格的な春の訪れを今か今かと待っている。菜園の野菜たちも早春の光を受けて、すくすくと成長している。咲いては散り、また、花開く花の姿や実を付ける野菜を見て元気を貰う。こんな当たり前のことが出来る毎日。

 そんな、穏やかで美しい季節に、懐かしいひとに出会う。いつものように、庭仕事を終えて教会に入った時だ。大きな窓の側に置かれたテーブルで、白い陶器の花瓶に花を活けている女性を見た。真白なブラウスに紺色のパンツスタイル、長い黒髪を後ろで一つにまとめ、花を選んでいる。オレの気配に気づき、振り向いた顔に驚いた。オレが大学に通っていた頃、亡き母の供花を買っていた花屋の娘の彩花だった。彩花もオレが分かったらしく、驚きから優しい笑顔になった。最後に会ってから、もう、12年も経つのに彩花はあの時のままの優しい笑顔を見せてくれる。

「驚きました。こんな所でお会い出来るなんて。お元気でしたか?」

「何とかここまで来ました。また、会えるなんて思わなかったです」

彼女が花を活けるのをじっと見ていた。白くて細い彩花の指にかかれば、愛らしい花々が花器の中で新しい命を授かって行く。窓から差す、春を先取る光を浴びて煌めいている。彩花の店に行かなくなってから、花を見たり、飾ったりする事はなかったし、そんな、当たり前のことにも気持ちが向かず心に余裕もなかった。花を見ながら、彼女の手を遮ってオレの淹れたお茶を二人で飲む。オレは今までの全ての出来事を正直に話した。彩花には良い格好はしたくなかった、むしろありのままの自分を知って欲しかった。黙って聞いていた彩花はそっと涙を拭う。「ごめんなさい。泣いてはいけないのに。色々おありだったんですね」自分のことのように悲しんでいる彼女の思いが嬉しくて「僕の方こそ、聞いて貰って、有り難う」と答えた。

 彩花は一緒に店を切り盛りしていた弟を、去年病気で亡くし今は一人で花屋を営んでいると言う。まだ独り身であるとも。1週間に1回店が休みの日にボランティアで花を活けている。大輪の薔薇ではないが、野に咲く可憐な花を思わせる彩花に好意を抱いていた若い日。あの時、小さい花屋の娘を選んでも夢は叶わないと思った。その事に後悔はしていないが、長い遠回りの果てに、出来ればあの頃を取り戻したいと思う。

彩花の気持ちは分からないが……。

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