第19話 同居人はゴースト
夏の風物詩の一つ。
それは怪談だ。これ、去年も言った気がするな。気のせいか?
去年は瀬ノ森との出会いという恐怖体験だったが、今年の夏こそ平穏に過ぎて欲しい。
そう願っていた日に起きた、ある出来事だ。
〈後ろには、恨めしそうにこちらを睨む女の霊がーー〉
俺はチャンネルを変えた。怖いからではない。むしろその逆。あまり怖くなかったからだ。
本当に怖い映像や映画は叫び声すら出なくなる。だが、今のテレビは反応に困るものばかりだったのだ。河童のミイラとか、「お、おう」となってしまう。
「……寝るかな」
エアコンが動かない今、夜風と扇風機だけが頼りだ。涼しいうちに寝るのがいい。
ベットを直し、電気を消そうとする。
「さて、おやすみなさいっと」
「おやすみなさい」
「おう。…………おう?」
あれ、俺1人だったよな。
外か? 確認したが、隣の電気はすでに消えている。
誰だ?
「誰かいるのか?」
返事は無い。当然だ。俺1人しかいないのだから。だが心なしか、気配を感じる気がする。
「ま、まさか俺にス○○ドが覚醒しーー」
「え」
ほら、やっぱり聞こえた! 俺のボケに狼狽えた声が響いた!
部屋を見渡すが姿が見えない。ええい、勘に頼る!
「そこかぁぁぁっっっ!!」
ベットを跳ね除けた。
本当にいた。ブレザーを着た、血塗れの女子高生が。
「きゃああああああ!!」
「待てぇぇぇ!? 何でそっちが叫ぶんだ!!」
「す、すいません。勝手にベットの下に住み着いて……」
「ベットの下に住み着くって」
礼儀正しくペコペコする血塗れ女子高生。頭を振るたびに紅い血が床を濡らす。正直やめて欲しい。
「あまりに住み心地が良くて、それで5年前からずっと住み始めて、だってここ綺麗だし快適だしでーー」
「いや、それはいいけど、さ……」
正直、今でも夢なんじゃないかと思っている自分がいる。
だってあまりに現実離れしすぎだろう。妖精が見える女に巨大な蛇と亀を買うお嬢様、存在が怪奇現象な男に頭がホラーなロリ大生、一般人…………。
何だ。全然マシじゃないか。たかが幽霊くらい。
「あ、あの、怖くないですか? 気持ち悪くないですか?」
「いや、何の問題もない。その血だって現実に流れてるわけじゃないだろ」
「よ、良かった……祓われちゃうんじゃないかと心配で……」
安堵して胸をなで下ろす幽霊。生きてる彼奴らよりよっぽど常識人だ。
「あぁ、じゃあ、これからよろしくな。お前が成仏するまで」
「はい! あ、自分は狭間六、はざまりくです。此れからよろーー」
狭間が礼をした時だった。
彼女の顔からポロリと何かが零れ落ちた。丸い二つの物体がバウンドし、奏の足にぶつかる。
「あれ? 目、私の目、どこ行ったの? あれぇ!? 何処ぉっ!?」
「…………」
言動、考え方は常識人。
しかし彼女の存在は非常識、否、オカルト。
一体彼女は何者なのか。そして何故こうなったのか。
そして俺は、彼女は、無事に暮らしていけるのだろうか。
とりあえず俺は転がった目玉を拾い上げ、狭間の顔にはめてやるのだった。
次の日、俺は夏香のマンションへ向かった。現状気軽に避難出来る場所がそこしかないためだ。
そしてもう一つ、ここに遊びに来ている、ある人に相談をしに。
「…………月神君?」
「おう瀬ノ森。相談がある。まずは……」
俺は自分の背中を指す。すると後ろから狭間がひょっこり顔を出した。
「ど、どうも……」
「此奴が見えるか?」
「…………」
瀬ノ森はじっと俺の背中を見つめる。そしてゆっくりと息を吐き、悲しげな表情を浮かべて俺の肩を叩いた。
「月神君、熱中症で頭やられた?」
「何で見えねぇんだよぉっ!!?」
俺は思わず瀬ノ森の肩をつかみ、身体を揺らす。
「お前妖精見えるんだろ!? 何で幽霊見えねぇんだ! 何が違うんだよ!!」
「私は妖精とかUMAとか。幽霊は私のお母さんが得意なの」
「何だと……? ダメか、すまない狭間」
「いいですよ。見えないのが普通ですし」
良い子だ。本当に良い子だ。
「何を騒いでいるんだい」
と、後ろから夏香がやって来る。今日はナスの寝間着だ。何で? 夏野菜だからか?
「お前には関係ない。さて、上がらせてもらうぞ」
「ようこそ。あ、その前にさ」
「ん?」
「奏、ス○○ド使いになった?」
「……お、お、お前は見えんのかよぉぉぉっ!?」
続く




