第18話 トサカ先輩
去年の夏、一体何をしてたっけ。
この小説は例の国民的アニメの法則が適用されているため、俺たちは永遠に同じ年の四季を繰り返す。
…………などということはない。俺もきちんと3年生に進級したし、夏香も4年生に進級した。
何故か俺には今年の春の記憶がいくつか抜けているが、何故かは分からない。とりあえずこの世界の神様が忙しかったからだと考えることにした。
そして今年の夏。俺たちを待つ夏の一大イベントとは…………。
ピンポーン。
「あ、久しぶりだね奏。上がって上がって。暑いよね今年も」
「どーもっす、トサカ先輩」
「いつになったらその仇名やめてくれるの?」
何もしねーよ。
キャンプ? 海水浴? しねーよ。
今年の夏は強烈な猛暑日が続く地獄の様な季節だぞ。そんな中で海や山でキャッキャウフフ出来る体力は俺にない。
というわけで、俺は高校時代に世話になった先輩の家にお邪魔することにした。彼の名はトサカ先輩。
「回想に割り込んで申し訳ないんだけどさ、ちゃんと紹介してくれるかな?」
まさか思考を読まれるとはな。
改めて、彼の名は鴫原鶏士。
俺が高校生の時から世話になっている人で、今では立派に社会の波に揉まれる社会人だ。
……社会人だが、鶏のトサカみたいなその髪型はどうにかならないのだろうか。ちなみにどんなに直そうと努力しても、数分で元に戻ってしまうらしい。
「ところで今日は何をしに?」
「いや、うちのエアコンがとあるお馬鹿に大破させられまして。修理終わるまで日中匿ってくれますか?」
「お馬鹿って…………あぁ…………」
トサカ先輩は何処か遠い表情を浮かべる。そう、夏香のことも知っている。昔の奴と今の奴との変貌ぶりに、初めて見た時の彼は凄まじい形相したものだ。
「エアコンにラジコンヘリぶつけて壊すって、あぁ、頭が痛い……」
「何故ラジコンヘリを……? まぁ、彼女は天才だし、僕には分からないか」
「そうですね。天才ってか、天災?」
中に上がると、エアコンがガンガン効いている部屋に通された。天国だ。扇風機二台体制の我が部屋には帰りたくない。
「無事進級したってね。おめでとう」
トサカ先輩がグラスに入った麦茶をテーブルに置く。
「結構スレッスレでした。また夏香に頼ってしまった…………」
「ま、まぁ、恋人同士らしくて良いじゃないか」
そんな事言いつつ、トサカ先輩は苦笑い。これは俺の憶測だが、未だに俺と夏香の関係を信じていないように思える。
「付き合い始めて何年?」
「あぁっと、4年?」
「長いなぁ。でもまさか夏香ちゃんと奏が恋人になるなんて。運命って奴かな?」
「運命って、残酷ですな」
「……本当に君達、恋人同士なんだよね?」
狼狽するトサカ先輩。前に冬乃にも似たようなこと聞かれた気がする。
「恋人っていうより、保護者って言えば信じますか?」
「それはそれで信じられないけど、まだ分かるかな」
「じゃあ、そういう事にしといて下さい」
「照れ屋だな、奏は」
先輩分かってるんだぞ、と言った口振りで笑う。話が面倒になる前にハンドルを切る。
「ヒヨコ先輩いるんすか?」
「今はネットでもやってるんじゃないかな? かなりだらしない奴だし」
「だらしないんすか。てっきり家でもピーピーしてるのかとーー」
「兄貴ー。お腹空いたからなんか作れー」
気怠げな声と共に、リビングの扉が開く。
そこから現れたヒヨコ先輩の姿は、確かにだらしなかった。
子供みたいなシマシマのランニングシャツにゆるゆるなショートパンツ。ボサボサな髪。起きてそのまま来ましたみたいな格好だ。
「飛佳子、せめて着替えなよ」
「ソーダソーダー」
「うるさーい。兄貴の癖に…………って…………」
と、やっと俺の存在に気づいた。瞬時に飛び退くと同時にカウンターキッチンに逃げ込む。
「あああああ、あんた何でいんのよ!!?」
「馬鹿がエアコン壊した。以上」
「あんたの恋人でしょ!? しっかり手綱を取りなさい!」
「あいつの手綱取るなんざプロジョッキーでも出来ねえだろ。それより何だ今の態度は。自分の兄貴だからってトサカ先輩に失礼な事言いやがって」
「いや君も負けず失礼だけどね」
夏香といい飛佳子先輩といい、何で俺の周りにいる女はだらしないんだ? 辛うじてしっかりしてそうなのは冬乃くらいか。
「どうせニ○○コ動画でも見てたんだろ。夏休みだからってだらけんな」
「人の家でだらけてる奴に言われたかないわよ! そしてあんたとうとう敬語捨てたわね!?」
「おっと失礼。夏香に似てたもんでついつい」
「あ、あ、彼奴にぃ…………!!?」
あ、だらしない姿で俺の前に出て来た。珍しくお怒りだ。挑発の仕方間違えたかな?
「ド、コ、ガ、似てんのよ!? ウギギ、もう限界!出て行きなさいよ!!」
「いや、すんません。調子に乗りすぎました、ピヨコ先輩」
「ガアアアア!! 覚悟ォォォッッッ!!!」
ヒヨコ先輩は近くにあった麦茶のペットボトルを取り、狂戦士が如く飛びかかる。
「秘技、体縛突!!」
俺はヒヨコ先輩がペットボトルを振り上げた瞬間、そのがら空きの脇に手刀を繰り出した。「ウヒッ!?」という叫びと共にピーンと身体が強張る。
だがその勢いで手を離れたペットボトルは宙を舞い、
エアコンに直撃した。
エアコンはガタガタと震えた後、大きな炸裂音を発して動きを止めた。
「…………」
「…………」
「…………」
「ん〜? どったの、奏?」
「今からそっち向かっていいか……? ヒヨコ先輩とトサカ先輩連れて」




