第17話 ストーキング・デイブレイク
バイトが終わり、彼は帰路についていた。
彼の名は、陽室響介。何も知らぬ他人から見れば、ただの大学生にしか見えないだろう。しかし、彼を知るものは口々にこう言う。
変人。奇人。天災。ある意味最強の男。クレイジー○○アモンド。
とにかくこの男を良い目で見る人物はほぼいない。親友である筈の月神奏でさえ手を焼く男。
だが、ここに。正確には電信柱の陰に、世界にただ1人と言って良い人物がいた。
彼に恋い焦がれる、幼気な乙女が。
「……ハァ。陽室先輩……」
彼女の名前は秋蘭。高校3年生。ブラウンのショートカット、大人びた顔立ちとスタイル、成績優秀。高校の中でも指折りの美少女。
そんな彼女は今、史上最強の変人に恋をしてしまっているのだ。
「あのミステリアスな雰囲気、切れ長な目、あぁ、全てが素敵」
だが話しかける事が出来ない。きっかけが無さすぎる。
一体どうすればいいのだろうか。
「い、いっそのこと話しかける? いやいやいや、出来ない出来ない! 絶対無理!」
確かに普通ならば絶対に不可能だ。何故なら彼が普通でないのだから。
だが彼女は単純に、羞恥心で行けないだけなのだ。
「どうしよ……と、とりあえず見失わないように跡をつけなきゃ」
まるでストーカーのように、コソコソと陽室を追いかけ始めた。
「……にしても、寄り道とかしないんだなぁ」
秋蘭が追いかけている間、陽室は一切の寄り道をしていない。普通ならば何処かに買い物へ行ったりしてもおかしくないのだ。
ちなみに何故そう言い切れるかと言うと、毎日陽室を観察している成果だからだ。
「きっと旦那様になったら、素敵なんだろうなぁ……へへ、へへへ」
美少女らしからぬえげつない笑いを浮かべる秋蘭。
だが、
「あ、あれ!?」
なんと、見失ってしまった。人影はほとんどない、一本道だというのに。
「う、嘘でしょ……私が彼を見失うなんて……!」
かなり台詞の響きが危険だが、秋蘭は慌てる。
「し、瞬○!? 瞬○なの!?」
「今のは瞬○ではない。ソニー○だ」
「えっ!?」
背後から陽室の声が聞こえた気がしたのだが、振り向いた先には誰もいなかった。
「何…………だと!? 一体何が……」
「あれ? どうしたの秋蘭」
と、今度は聞き慣れた声が耳に入った。
「ふ、冬乃お姉ちゃん!? どうしてここに!?」
「アルバイトが終わって買い物してたの。そうだ、折角だしこの後お茶しない?」
「へ? う、うん、いいよ」
後ろ髪が引かれる思いだったが、今回の調査はここまでだ。
秋蘭はモヤモヤした顔をしながら、冬乃と共に通りを後にした。
「ふぅ。振り切ったか」
陽室は電信柱の上で一息ついた。
その周りにはまるでカラス達が仲間のように寄り添っている。
「俺を観察しても何もないぞ。俺は普通だからな。……よし、帰るぞ」
「カァ」
陽室はカラス達に肩と背中を掴まれ、空へ飛び立った。
カラスを用いて空を飛ぶことは、彼にとって普通の出来事なのだ。
そう、陽室響介にとっては。




