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第9話 波乱! 電波少女の猛攻

 

「私ね、見たことあるんだよ」

「え、何を何を?」

「幽霊!」

「うっそ〜、いるわけ無いじゃぁん」

「本当なんだよ〜! キャハハ!」



 ……あ〜、今日は古傷が痛むなぁ。

 こういう話題を人目を気にせず出来るってすごいと思う。嫌味とかじゃなくて。


 だがそんなスピリチュアルな話をして許されるのは仲間内だけだ。


 と、後ろの女子学生2人の会話を盗み聞きしてた俺が言ってもな。

 俺も興味が無いわけでは無いんだが、精々番組をやってたら見るくらいで、そんな熱心じゃない。体験なんてしたこともない。


 あったらあったで大変なんだろうが、気になりはするよな。

 近くで心霊体験をした知り合いもいない。いれば是非とも話してみたいが……


「あの、 月神くん」

 聞き慣れない声。だがこの講義室で聞こえたという事は同学年だろうか。

 振り向いてみると、やはり見慣れない女子学生だった。


 サラサラとしたボブカットの髪に、トロリと溶けそうな瞼。女子にしては身長が高めだ。


「……ダリナンダアンダイッダイ?」

 いつか誰かに言ったような台詞をかけると、ややあっと自己紹介を始めた。

「瀬ノ森霊詩(せのもりれいし)です。月神くん、話が」

「他をあたってくれ。さらばだ」

 だが立ち去ろうとする俺の腕をガッチリホールド。

 逃がさないというわけか。面倒な。


「月神くん、貴方に、話さなきゃいけない事がある」

「なんだよ。幸運の女神でもついてるからこのツボ買ってくださいだったら断るからな」

「いや……あの……」



「君の肩に、妖精さんがいるんだ」



 俺は無言で踵を返し、足早にその場を去っていく。なんか後ろで呼び止める声がするが、一切無視する。



 絶対関わったらダメな奴だ!!

 絶対関わったらマズイ奴だ!!


 アレは相当危険な匂いがする。洗剤を二つ混ぜるな的なやばい匂いがする。

 早く離れなければ……


「ムギャッ!!」

 と、何かを跳ね飛ばしてしまった。俺は手だけをあげてその場を去ろうとした。

 が、またしてもガシリと掴まれた。

「待ちなさいよ月神奏!! 人にぶつかっといてごめんなさいも無し!?」

「あぁっ!? ヒヨコ先輩かよ、本当についてねえな今日は!」

「何よそれ!? ってかヒヨコ言うな!!」

 クルクルヘアーなヒヨコ先輩だった。構ってたら追いつかれてしまう。早く逃げなければ……。

 と、俺は後ろを確認した。

「あれ、誰もいない」

 振り切ったのだろうか? とりあえず一安心だが、次の講義で遭遇したらどうしたらよいのだろうか。

「ていうかあんた、何から逃げてたのよ?」

「いや、それがっすねーー」


「私から逃げてたんですよね」

「そうそう、お前から……」


 …………え?

 俺がおかしいと思った時には、目の前にボブカットの頭が現れていた。

「ダメだよ、妖精さんが逃げちゃうじゃない。ほら、とっても怒……」


 俺は言葉を最後まで聞かず、全速力で走り出した。

 ナンテコッタ。こいつ何処までも追いかけてくる気だ。俺が何をしたっていうんだ!


 と、廊下に見慣れた長いブラウンの髪が見えた。

 あいつなら!

「冬乃!! 助けてくれ!!」

「せ、先輩? どうしたんですか?」

「それが……」


 手が掴まれた。その重みはおよそ女性のものとは思えない。冬乃が小さく悲鳴をあげた。


「どうして逃げるの、月神くん?」

「だ、誰なんですか貴女!?」

「ん? ……1年生の子か。私は瀬ノ森霊詩。彼に妖精さんがいるから詳しく話したいだけなの」

「よ、妖精さん……」

 冬乃の顔色が一気に悪くなり、ゲンナリする。どうやら事の重大さを分かってくれたようだ。


「あのですね、妖精なんている訳が……」

「でもそういう貴女にもいるよ?」

「はぁ……何がですか?」




「真っ白な女の人」




 それを聞いた冬乃の表情が、一気に強張った。

「へ、う、嘘、嘘ですよね?」

「いやいや、いるよ。良かったね、気に入ってくれてるみたい。住み心地が良いって」

「え、あ、あ、ひゃああああああ!!」

 絶叫と共に、冬乃の姿が廊下の奥へ消えた。普段は優等生な冬乃の絶叫を、周りは不思議そうに見ていた。


「あいつ、幽霊は信じるのか……」

 さて、本当にどうしようか。

 こりゃもう諦めて付き合うしか……。


「あれぇ、奏?」

 この声。いつもならウンザリしてしまうが、今は違う。

 救世主だ。

「夏香! 良いところに……来た……」


 夏香の顔は普段のとは違った。

 目は大きく見開かれ、口元は引きつった笑いを浮かべ、握っていたフランスパンが音を立てて砕けた。


「だぁれ? その子」

「いや、同級生」

「同級生? ふぅん、そっかぁ、仲良しだねぇ、手なんかつないでさぁ」

 ヒクヒクと顔が痙攣しながら徐々に近づいて来る。こんな夏香、久しぶりに見たな。


 夏香は瀬ノ森の肩を掴むと、凶悪な笑顔を浮かべた。

「いけないなぁ。奏と君がいちゃいちゃするなんて」

「いちゃいちゃ? 一体何の……」

 だが返答する前に、夏香は瀬ノ森の手を払った。俺の腕がやっと解放された。

「次こんなことしたら、分かるよね?」

「……」

 瀬ノ森は何も言わず、ふらりと去っていった。

 結局、奴は何だったんだろうか。とんでもない電波人間だったな。

 ふぃ、今日はなんて、


「奏、事情を聞こうか。みっちりと、ね?」



 厄日なんだ。



 続く

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