10話 ゲームとキモキャラとクレーンアーム
「……おし、ゲットだぜ」
小さな子犬のキーホルダーを。
俺は今、訳あってゲームセンターにいる。訳あってと言っても、別に大した訳がある訳ではない。
訳がゲシュタルト崩壊しそうなのでさっさと白状しよう。
普段、非常識人達に囲まれた俺の、メンタルを癒す手段の一つです。はい。
ゲームセンターでやることは沢山ある。アーケードゲームにリズムゲーム、クレーンゲームやカードゲーム。
俺はその全てをやっている。時間と金などあっと言う間に使い果たしてしまう。
だが夏香や陽室に邪魔されないというだけで、そんな犠牲など些細なものに感じられる。
「でもこれいらないな……夏香に渡すか」
ま、こんなこともしばしばあるけど。
さて、次のクレーンゲームに行くとしよう。
「お、なんか面白……そうな……」
「んあああ!! 獲れないよふゆの〜ん!」
「諦めないで下さい夏香先輩! あとちょっとですよ!」
「…………」
ああああああああぁぁぁぁぁ!!
やだああああああああぁぁぁ!!
「あれ? 奏先輩?」
「ん? おおう、奏〜!!」
「ぐ、偶然だなぁ、何で二人ともここにいるんだ?」
聞かせてくれぇ! 何で俺の安息を邪魔するんだ!? 頼むからたまには一人にしてくれよ!!
「奏〜、奏〜」
そんな俺の気持ちなど知る由もなく、腕に絡みついてくる夏香。それを微笑ましい様子で見守る冬乃。
ていうか俺の質問に答えろよ。
「ね〜奏〜、お願いがあるんや〜」
「関西人に謝れ」
「そこのぬいぐるみが獲れないんだよ〜。奏なら獲れるでしょ〜?」
「ん?」
俺は言われるまま、夏香が指差すクレーンゲームの中を見る。
そこには手足の生えた、気色悪い魚のぬいぐるみがあった。
「キモっ!!」
「な、何てこというんですか!? 奏先輩にはハシリウオの可愛さが分からないんですか!?」
「分かるわけないだろ! てか欲しいのは冬乃の方かよ!!」
冬乃の奴、こんな変な奴にご執心とは。普段頑張ってる分ガタが来てるんじゃないか?
「お願いします先輩!」
「嫌だ」
「ふゆのんの頼みだよ? 聞いてあげてよ」
「先輩……」
二人が潤んだ瞳でこちらを見つめてくる。こんな時ばかり美少女力を発揮しやがって。
「……ちっ、一回だぞ」
まあ仕方があるまい。一回だけならいいだろう。
クレーンゲームは一回で獲れるほど甘いゲームではない。適当にやれば、百円玉は沼に消える。
真剣勝負だ。
チャリン
「クレーンアーム」
「うるせぇ夏香!!」
まず横移動。今回は三つのアームが付いたタイプだ。いつもの二つより難易度は低めとはいえ、油断は出来ない。
「……ここだ」
ビンゴ。狙い通りの場所にクレーンは止まった。ここまではいい。
後は……。
「……クソっ!」
あのぬいぐるみの目が邪魔をしてくる。集中力を掻き乱す顔しやがって! あの虚無を抱いた目が腹立つ。
ゆっくり、ゆっくり……。
「今だ!」
前方向のボタンを離す。
アームはバッチリ、ぬいぐるみの腹、アゴ、首を掴んだ。
「ヴォウ」
「声気持ち悪いな!」
ぬいぐるみの断末魔(?)も虚しく、宙づりになって運ばれる。
しかし、景品口まで後一歩のところで、アームからぬいぐるみがすり抜けてしまった。
「そんな!」
「奏先輩!」
「いや、計算通りだぜ!!」
落ちたぬいぐるみは腹から着地し、そして、
「ヴォウ」
ワンバウンドして、景品口へと吸い込まれた。
「……やった。やったぁ!!」
冬乃はピョンピョン跳ねると、ハシリウオとかいう気持ち悪いぬいぐるみを抱きしめる。そのせいでまたしても「ヴォウ」と響いた。
「ありがとうございます先輩! 何てお礼を言えばいいか……」
「とりあえず百円返せ」
「せっかくカッコいいと思ったのに台無しですよ!!」
「まあとにかく、無駄遣いは程々にしとけよ
。じゃあな」
ミッションコンプリート。だが報酬はなし。涙が出そうだぜ、全く。
「無駄遣いって、奏だって散々してるじゃん」
夏香の一言、聞き捨てならないな。無駄遣いだと? 俺は様々なゲームをやり、あらゆる攻略法を考えた。勝てないゲームは絶対にしない。
無駄遣いなんて、断じてしてない!
「いいか夏香。俺は無駄遣いなんてしてない! 今じゃ様々な攻略法を編み出して……」
「それまでにかかったお金、無駄遣いじゃん」
……うぐっ!?
「あ、先輩の顔色が一気に悪く……」
「ふへへ、一泡吹かせてやったぜよ」
「貴女達、本当に恋人同士なんですか?」
続く




