【戦う飛行士】―Pawn Roller―No.5
くりり、と丸い瞳を見つめながら、ヨハンは同時に手に持った醜い鉄の塊である拳銃を握り締める。
彼女がどんな身の上なのか、ケボーロフが命を捨てるに足る人物であるかなどは、ヨハンにとってさしたる問題ではなかった。もうすでに、ケボーロフは彼女に命を捧げた。
であるならば、彼女はそれに足る人物であるのだ。
それはすでに、起こってしまったことなのだから。
「……そっか、ケボーロフも行っちゃったんだ」
寂しげに顔を俯けながら少女は言った。
それに対してヨハンは、
「大丈夫、またいつか、どこかで、きっと会える。僕も、君も」
と、言った。
言いながらも、彼は考えている。
ケボーロフの機体に残っていたのは、弾痕だった。
かつての戦争の時のような、機関銃の弾が機体に命中していた。
それはつまり、戦闘機が彼の機体を攻撃したということだ。
それだけなら、まだいい。
だが、それだけではなさそうだということが、問題なのだ。
「………ドーラは仕事だと言った。だが、なぜそれで攻撃を受けたんだ?」
一人呟きながらヨハンは少女の瞳を見つめ、彼女に隠された不思議を見抜こうとした。
けれども、それは分からない。
少女の瞳は宝石のように綺麗で、純朴でとても澄み切っている。
彼女はなにもしらない。
なにもわからない。
まるっきりの、子供だ。
ヨハンを見つめる瞳は、宝石のようだ。
けれど、彼女はまだ宝石ではない。
子供と言うのは、原石みたいなものであって、最初から価値が決まっている飛行機とは違う。
適切に磨けば光るし、乱暴に扱えば欠けてしまうし、不適切に扱うと、曇ったり、割れてしまう。
石それぞれに個性がある。磨き方がある。
みんな、一つたりとて同じものはない。
同じ方法で光らせることなど、できはしない。
子供の身体よりもずっと軽い拳銃を握りながら、ヨハンは彼女に問うた。
「君の名前は?」
「わたし、スヴェトラーナ。フォティーナって呼んでもいいよ? 十二歳になるの」
「僕はヨハン、ヨハン・ボドギン。二十歳は過ぎてる。僕の知ってる訛りだと、その名前はスヴィータって呼ぶね。それでいいかな」
「うん、いいよ。わたしはヨハンて呼ぶね」
「ああ、分かった。よろしく、スヴィータ」
ころころと、彼女が笑う。
スヴェトラーナ――聖なるものを意味する名前。
彼女にはぴったりだとヨハンは思い、自分が握り締めた拳銃を見つめて、自嘲気味に鼻で笑う。
ドーラは道を敷いていた。
なら、ヨハンはいつも通り、これまで通り、仕事をするだけだ。
戦争の後、ずっとドーラとヨハンはそうしてきた。
そうやってきた。
ただそれだけの関係であって、断ち切れぬ信念と理念で結ばれた友人だった。
信じる信じないの問題ではなく、それはきっと、生き方を変えるかどうかの問題でしかなかった。
「スヴィータ、僕と一緒に来てくれるね?」
「うん。ずっとずっと、ずーっと長い旅になるって、ケボーロフも言ってた。だからわたし、ヨハンと一緒に行くよ」
「良い子だ」
ヨハンは彼女の手を取った。
雪のような肌は暖かく、人の温もりをヨハンに思い出させる。
しかし、ヨハン・ボドギンはそれ以上を思い出そうとしない。
ただ、彼女の手を引いて、部屋を出て、格納庫へと急いだ。
彼は身に降りかかるであろう危険の匂いを、すでに嗅ぎ取っていた。




