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【戦う飛行士】―Pawn Roller―No.4

 ヨハンはいつも仮眠に使っている部屋のベッドに少女を降ろした。


「んぅ………」


 微かに身じろぎする少女を眺めつつ、ヨハンはポケットから煙草を取り出し、マッチを摺りそれに火を点けた。

 ぷかぷかとしばらく紫煙を吐きながら思案して、簡易ストーヴに火をくべながら必要な重量計算を始める。

 抱きかかえた時の感覚はおおよそ三十五キログラム程度、重くても四十キログラムはない。

 それを後席に乗せるとなると、今までのように軽い郵便物を乗せていた時の感覚では飛べない。

 飛び方を少し工夫する必要がある。

 燃料消費も若干多くなり、航続距離は減る。

 増加燃料タンクの関係上、荒っぽい飛び方には今まで以上の制限がかかるだろう。


 ベッドの横に座り込み、煙草を燻らせながら、ヨハンは考える。

 ストーヴが温もりを部屋に持ち込み、少女の寝息も心地良さそうなものへと変わった。


 けれど、ヨハンの心はいつも孤独で寒々とした、あの空にある。


 ヨハンはすべての計算を終え、考えを終える。

 ジャケットの内ポケットから拳銃を取り出す。

 現れるのは、無骨な軍用拳銃のシュタイアーM1912。

 スライドを引き、ロック。

 ヨハンは反対側の内ポケットから弾丸が八つ束になったクリップを一つ取り出す。

 それをM1912の上部にセット。クリップに纏められている八発の拳銃弾をそのまま薬室へ。

 そしてグリップ内部の弾倉へ押し込む。

 空になったクリップを投げ捨て、スライドのロックを解除。

 ヨハンは咥えていた煙草を灰皿に吐き捨てた。


「……ドーラ、そういうことなんだね」


 ヨハンは理解する。

 ケボーロフがその身を挺してこの娘を守ったこと。

 そしてドーラが見送りに格納庫まで来たこと。

 バンナウィッツ飛行場との電信連絡ができないということ。

 それらはすべて繋がっていると考えるしかない。

 ドーラの意味ありげな言い方はいつも通りのことだったが、今回はそれに符合する点があまりにも多い。

 多すぎる。


 ヨハンの兵士としての勘が、いつだって冷静で愛想のない男の野生がざわつく。


 危機が迫っているのだ。


 それも一人では対応できないような、強大で暴力的な脅威が。

 

「ん、ぁ……あれ、ケボーロフは?」

 

 布が擦れ合う音と、幼い声がした。

 純粋無垢な天からの落とし子が眼を覚ましたのだ。

 偉大な男の命と引き換えに、飛び続けるなにがしかの運命を背負った子が。


「……ケボーロフは、次の場所へ飛んでいったよ」


 ずしりと重い拳銃を見つめながら、ヨハンは答える。

 嘘ではない。ケボーロフは飛び立ったのだ。安らかな天上の世界へと。


「うー……? うぅん、ケボーロフ、また今度昔話をしてくれるって、約束してたのに」

「それは、いつかどこかで、またきっと、って言ってたよ」

「それはいつどこで?」

「いつか、どこかでさ」


 他愛無い言葉遊び。

 しかしヨハンはその言葉にも意味があると信じている。

 ケボーロフは次の場所へと飛び立ったのだ、真実に。

 だからこそ、いつかどこかで、またきっと出会えると。

 彼女の純粋無垢な瞳を見つめながら、ヨハンはそう言った。



 長い逃避行が始まろうとしていた。


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