第42話 夜が明ける時
人形姫とその従者が反撃に出ます。
それではどうぞ。
ナターリアが合成獣に襲われた。しかし、それを復活したハーディと思しき自動人形が間一髪で助ける。但し、俺の魔法障壁を突き破ってだが。
「うむ。新しい身体はどうじゃ?」
宙に浮かぶクリエが自動人形に尋ねた。
「ボロボロになる前の身体以上に滑らかな動きが出来ます。それにとても身体が軽いです。」
「そして、この20mmの6銃身ガトリング砲は想像以上の威力でした。コレさえあれば、お嬢様に盾突く敵は全て排除できます。」
クリエへ感謝の意を込めて、ハーディはにこやかにガトリング砲を掲げる。
メイド服に全く似つかわしくないながらも、地球で言うところのミリタリー萌えとでも言うのだろうか? 非常に心が刺激される姿であった。
「お主の身体を精製したのは妾に違いは無いが、元の形をイメージしたのはそこの坊主じゃ。その体を得られたことに感謝するなら妾ではなく、そこの坊主にせい。」
「……。」
ハーディは俺に近づき、上から下までじっと眺めてきた。
一体なんだ?
「?」
「……お嬢様を誑かした変態野郎。」
「!?」
「今日のことは感謝する。が、お嬢さまに何かあったら容赦しないからな。」
「!!!?」
誰にも聞こえないぐらい小さな声でぼそっと。そして、ハーディはごみ虫を見るかのような冷たい目つきで俺を見下した。両手のガトリング砲でガチャリと音をたてながら。
しかし、翡翠の眼は微動だにすることなく、じっと俺の姿を捉えていた。非常に怖い。
俺は迫力に圧され、ぶんぶんと首を何度も振っていた。
「総帥。何をされていらっしゃるのですか?」
ハーディに動揺していると、横から俺の守護者が救いの手を差し伸べてくれた。
「魔法障壁の彼方此方が綻んできています。攻めに転じるべきかと。」
「う、うん。そうだね。」
ちらりとハーディを横目で見る。彼女はいつの間にか背を向き、ナターリアの元へ向かっていた。
アイアンハンターもその姿を目で追っていた。
「アイアン?」
「いいえ、なんでもありません。」
「全く、どうしたものかな。」
俺は一息つく……間もない。冷静になって周囲を見渡す。先程の攻撃で大分数を減らしたものの、依然として敵の物量は圧倒的だ。
遠くの方で幾度となく輝く光が見えた。魔法陣の輝き。先程の襲撃にグレッグは慌てたのだろう。奴は焦りから増援を送り込んできているのだ。
しかし、この状況下、密集した軍勢を作るのは下策だ。何故なら、ハーディのガトリング砲は密集した隊列を組む敵に強烈な打撃を与えられるのだから。
「と言っても、如何せん数が多いな。」
「お前の内蔵する武器でアイツらに打撃力を与えられるものは有るか?」
「私の所持するのは左腕の10mm口径の短機関銃、右足の超振動電磁ナイフ、そして、頭部の電磁光線です。いずれも近接戦闘用です。広範囲且つ守備力の高い敵には役不足かと。」
アイアンハンターは格闘戦闘用に生産されたというのが劇中の設定である。最後の戦いで、彼は大集団の敵へ大した火力も無いままに立ち向かった。だからこそ、身をボロボロにして戦い抜くその悲哀が感動を生んだ訳だ。
しかし、俺の目の前で彼にそんな事させやしない。
「お主、妾の事を忘れとらんか?」
ようやく宙から地上に降りた幼女。紫色のショート髪の頭からは固そうな角が二本生えていた。
クリエはまるで大魔王の如く、尊大な態度を取ろうとする。しかし、相変わらず声は幼女のままだし、姿も幼女になってしまって猶更。背丈は今の俺達より少し低い位。
そんな幼女が無理して雰囲気を作っている。しかも、露出狂な感じの服装で。余り近寄りたくない。
「クリエ、その格好は?」
「うむ。もう少しナイスバデーを期待しておったのじゃが、生憎とこの体形になってしまってのう。今後の成長に期待という訳じゃ。」
ロリ声だからか?イメージにマッチする体つきになったのかもしれない。
クリエの格好は有りか無しかと問われれば、有りなのだが……。なんか無性に腹立たしい。なんだろう。隣のおばさんが突然、ハイレグの格好して現れたような。そんな残念さというか、憎たらしさと言うか。
「全部丸聞こえなのじゃが。」
目を閉じてこめかみをピクピクさせているクリエ。
「だから、お主はあの人形にも変態と罵られるのじゃ。」
「悪かったよ。何か作戦でも有るのか?」
「小難しく考える必要は無いのじゃ。お主と妾ならば何でも創造できるのじゃぞ?」
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俺には人質が居る。
グレッグは何とか先ほどの衝撃から立ち直ろうとしていた。心を落ち着かせる為、エルフの少女を足下に置き、彼女の姿を見て心を納得させていた。
人質が居る限り、奴らは迂闊に動けない。
自分の身が第一。あの攻撃を防がねば、俺に未来は無い。命の危機に対処すべく、彼は必死になってあの時の事を思い出す。
敵の凶悪な攻撃。その直前。敵の一人がこちらへ突っ込んできた。そいつも見たことの無い飛び道具を使って、合成獣達を破竹の勢いで蹴散らかした。しかし、その進撃は蔦に捕まって止む。
結構な数の合成獣が討ち取られた。一人で相手するのは厄介な相手。しかし、グレッグは分析を続ける。あの突撃に何の意味があった? 確かにあの攻撃も侮れないものであった。しかし、奴らはものの数秒で200近い合成獣を一瞬で討ち取る術を持っていたのだ。
そう考えると、敵の行動は不可解である。瞬時に5体近くの兵を殺めた力量は確かだが、この集団戦においてあの程度の攻撃は焼け石に水だ。大局に影響は出ない。では、何の為?
落ち着け。
グレッグは考える。先程の攻撃。そして、その直前の敵の不可解な突撃。
もしや、敵は時間が必要なのか。あの突撃はその時間を稼ぐ為の陽動?
……フッ。グレッグの表情に自然と笑みが浮かぶ。
奴らに練れる策など数が知れている。あの攻撃以外、奴らに選択肢は無い。
ならば、自分はあの攻撃にだけ気をつければよい。自分の推理が正しければ、あの攻撃には事前の準備が必要なのだから。
更に言えば、あの攻撃が魔法で無かったとして、人間が魔力の枯渇を起こすのと同様、数に限りが有る筈だ。
奴らはあれだけ強力な手立てを一向に使ってこないではないか。
それならば、数に物を言わせて一斉に攻め込めば――
ヴゥゥゥ―――。
グレッグが考えを纏めかけたその時、再びあの蜂の羽音が聞こえてきた。
「まさか!あれを再びやるのか!?」
そう叫んだ瞬間、彼は自身の考えが誤りであったことを悟った。先と比べ物にならない程の量。まるで昼夜が逆転したかのように眩さ。常軌を逸した弾幕が合成獣の軍勢を襲った。
……
「なぁ、ミーナさんや。」
「何よ?」
「俺はいつまでこんな格好してなきゃならないの?」
「知らないわ。変態。」
「そんな!」
俺の護衛としてミーナが前方に立ち、隣にはクリエが立っていた。
クリエは俺の右手をがっちりと握り締め―――
人差し指を口に咥えていた。
「なんでこんな羞恥プレイしなきゃいけないんだよ。」
「しょれははらはのひはらで、ぷはっ。あやつらの弾薬や人形を作っておるからじゃろう?」
クリエは口に咥えていた指を引き抜く。てかてかと光る唾液が糸を引いていた。クリスタルの怪しげな光に照らされ、唇から涎を垂らすクリエ……。その姿は―――
全然エロくない。
ミーナに涎を拭いてもらう姿はどこにでもいる只の幼女だ。俺は幼女に欲情する変態ではないのだ。
ただ、クリエが喋っている間、気持ちよかったのは事実だが。
「こら。結局変態ではないか。」
「そうは言っても。」
気持ちいいのは事実なのだ。
閑話休題。
俺達がグレッグに対し取った戦法は単純だ。向こうが物量で攻めて来るならこちらも同じく物量で攻め返す。無尽蔵なマナを有する俺とそのイメージを物質として何にでも変換できるクリエ。
向かうところ敵無し。
本来あるべき正攻法である。但し、そのおかげで俺は矢面に立つことなく、後方で延々と物資を作る羽目になったのだが。
「俺もまともに活躍したかったのになぁ。」
「文句を言わないの。トップは後ろでどっしりと構えていればいいのよ。」
「なんか違う気がするけれど……。」
「クリエはなんで指からマナを吸ってるの? しかも口で。」
涎が身体に垂れていないか確認中のクリエに俺は尋ねる。
「マナは妾にとっては食事。それを口から取るのは普通じゃろう?」
「でもなんで口からなんだよ!俺が変態に見えるじゃないか!」
「変態なのは事実じゃ。安心せい。」
「……って!」
「落ち着け、主殿。妾もお主を困らせようとしてこんな事をした訳ではないのじゃ。」
「マナをこの身に直接取り込んだ方が変換効率が上がるのじゃ。妾とて一番マシな所を選んだつもりじゃぞ。」
「そうなのか。」
元々どうやって創造魔法を行っているのかよく分からない魔道具だった。現状、どのようなことになっているかもよく分からない。だから、俺にはクリエの言葉を信じる他無いのだが……。まあ、役得と思ってこんなロリババアでも我慢してやるか。
俺は話しを切って、前線に立つ三人を見る。
ハーディ。彼女には両手に備えているガトリング砲へ弾薬を随時提供している。ものの十数秒で弾薬切れを起こすのだ。俺は彼女の背に有るマガジンショルダーへ向けて逐一弾薬を補充する。更に、これでもかという感じで、両肩にも自動追尾式のサブマシンガンを備え付けた。こちらは大した威力は無いが、撃ち漏らしで接近して来る敵に向かって十分な効果を発揮しているようだ。
そして、アイアンハンターには対大型合成獣用の巨大なブレードを渡してある。刃の先はアニメの世界でよく見るビームで覆われた奴だ。あれのお陰でスパスパと敵を切り刻んでいる。一流の料理人が鮮やかな手つきで、魚を裁いているようにも見える。
最後はナターリアだ。ハーディの攻撃を見て自分も負けじと闘志に火がついたようだ。
「私だってハーディに負けていられないんだから!」
「皆、私と一緒に戦って!<<ギフテッドスピリット>>」
ナターリアの前に佇む人形達。その数は20を超す。いずれもクリエの力で産み出した人形達だ。各々の人形は俺とナターリアの合作である。時間が無く急ぎで作ったせいなのだろうか? 明細柄のドレスを着た人形がサブマシンガンを装備していたり、執事服を着た人形があちこちから刃を作り出していたり、バズーカを背負った大きなクマのぬいぐるみが巨大な斧を所持していたりと、合成獣の姿といい勝負をしていた。
「フランシーヌを筆頭にハーディの作ってくれた道を進むのよ!あの長耳さんを助けるの!」
フランシーヌと呼ばれた人形は唯一ナターリアが持参していたものだ。30センチぐらいの大きさで、刃渡りの小さなナイフをドレスの下に隠し持つ。但し、今は俺が用意した人間大のロボットスーツに搭乗している。彼女はそのロボットスーツを器用に操縦し、大ナタを振り回しながら敵陣へ乗り込んでいった。
「お嬢様の援護はお任せください!」
エレナを人質に取るグレッグを中心とした軍勢を除き、ハーディの掃射によって粗方の敵は討ち取った。役目を果たしたハーディはナターリアと彼女の操る人形達と共に前進する。
合成獣は彼女達の猛攻を前に成す術無く倒れていった。血の生臭さと硝煙の匂いが辺り一帯立ち込めた。
……
「くそっ!こんな事になるなんて!」
あの田舎者の魔法によって立場は逆転した。狩る側から狩られる側へ。猿と化したグレッグ。彼は本能的にこの場から直ぐにでも立ち去るべきと感じていた。心ではまだやれると思いつつも、身体が身の危険を察知し訴えてきているのだ。
「まだだ!行け!前の敵をやり込めろ!」
グレッグは防御力の高い合成獣達を自分の護衛につけていた。彼は安全を考えるのであれば、その護衛を引き連れて、直ぐにこの場を離れるべきであった。
しかし、彼の心がそれを妨げた。
焦りと迷い。逃げ出すことへの恥。そして、合成獣達が敵を討ちとってくれることへの淡い期待。
もしも、なりふり構わず逃げ出していたならば、結果は変わっていたかもしれない。けれども、彼は失うことに躊躇いと恐怖を持ってしまった。それが彼を追い詰める結果となった。
「そこだあぁぁ!」
後ろからの突然の衝撃。瞬間、彼の目は辺りがスローモーションで見えた。胸から飛び出す血と肉。そして、千切れ弾け飛ぶ自分の右手。それらがゆっくりと彼の目に焼き付いていった。
戦場にもしもという言葉は禁句だが、ここで彼が足下に人質を置いていなければ状況は変わっていただろう。しかし、現実は無情である。
「ウォォォォォォ!!!」
それは痛みからか。彼は強烈な雄叫びを上げる。それを最後に彼は息を引き取った。グレッグの身体は揺らぎながらその場へ倒れこむ。それはまるで蝋燭の灯が消える瞬間のようだった。
「あっけねぇな。」
ウィリー・マッハはマイクから受けた通信を聞いていた。作戦は単純だ。敵が前に注意を向けて隙を作った時に、頃合いを見てエレナを救出しろというもの。
ウィリーはグレッグが一人になった瞬間、背後を取った。ゼロ距離からのショットガン。彼はそれを乱発した。
散弾はグレッグの胸を貫通し、右腕を引きちぎった。ここまでの騒ぎを起こした張本人の死。その幕切れは一瞬だった。彼はショットガンのトリガーに指を引っかけ、銃を派手に回して硝煙を振り払う。
「この嬢ちゃんが無事で何よりだな。」
作戦は成功した。自分の背にはエルフの少女がすやすやと眠っていた。
「こちらウィリー・マッハ。学友は無事に保護した。」
『よくやった。後はハーディ達に任せてこっちへ戻って来い。』
「了解。」
前方ではあの綺麗な自動人形達が残った合成獣を掃討している。
「それじゃあ俺もっと……!?」
次の行動に移ろうとしたその時、ウィリーは自身のレーダーで後方に誰か居ることを察知した。今まで誰の気配も無かった筈なのにそれが二人も居る。何処から現れた?
そう思うのも束の間、ウィリーは新たな役者が自分のすぐ後ろに居ることに気付いた。それはレーダーに頼る必要すら無い。何故ならば、クリスタルの光を遮るように、ウィリーの足下まで二人分の影が伸びていたからだ。
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「そろそろ戻って来ても良い筈だが……。」
グラウンドにひしめいていたあの合成獣達は全て打ち倒した。血の海とはまさにこのような状態を言うのではないかと思うほど、足首位までグラウンド一面に血溜まりが出来ている。
「ナターリアとハーディはあの単眼のモヒカン頭のロボットを見ていないんだね?」
「えぇ、長耳さんも同様に見ていないですわ。」
「一体どうしたのかしら?」
「もしかして、また別の奴に攫われでも!」
「お父様ー!お母様ー!」
「「おとーさーん!おかーさーん!」」
俺達の心配をよそにアグネとキラーベル姉妹が大声を上げて勢いよくこちらへ向かってくる。
その後ろをガマグチやジョバンニ達が歩いていた。門を潜り怪人達がぞろぞろと集まり始めている。どうやら門前の合成獣も打ち倒せたようだ。
「思った以上に装甲の堅い連中ばかりで焦りました。」
「えぇ、特にあの巨大なスケルトンになかなか手こずりまして。」
「皆、御苦労さま。ところでウィリーはそっちに居ないよね?」
「ウィリーがどうかしたの~?」
俺は怪人達の様子を見る。疲れは垣間見れるものの、重傷者は居ないようだ。
「「どうだった?」」
キラーベル姉妹が意地悪そうな笑みを浮かべてアイアンに何か話しかけている。このこのと肘でアイアンのことを突いている。なんだアイツら?
彼方此方に目を向けるが、ウィリー・マッハの姿はどこにも見えない。
まさか、本当に……。と思っていると、ズサッと音を立てて、何かがこちらへ滑ってきた。
「ウィリー!!」
ミーナの叫び声が響く。滑ってきたのは身体の彼方此方から火を噴くウィリーの痛ましい姿だった。
俺は警戒レベルをマックスに高める。その時、耳慣れた声が聞こえた。
「やっぱりお前さんがこいつらの総大将かい。」
この口調は。俺は後ろを向く。
短く切りそろえられた白髪。そして、腕まくりされた制服。
「このブライ・シルベリオンの城で一体なんてことをやらかしてくれてんだ。」
辺りを見回しながら、不快な顔をするブライは俺達を睨む。
隣には報告のあったベレー帽をかぶった魔族の女が居る。確か、アイーダとかいう名前だった筈だ。
「エレナ!」
彼女の背にはエレナが背負われていた。
「全くあの連中のトップがこんなガキだとは……。」
苦虫を噛み潰したような表情をするアイーダ。
嫌な汗が滴る俺を横にジョバンニが前に出る。
「貴方がこの事件の黒幕ですか?」
彼の問いにブライは不敵な笑みを見せる。
彼は全てを語り始めた。
それは夜の闇が消え始める頃の事だった。
終に『グランジェネシス』の前に姿を見せたブライとアイーダ。
彼らの目的は一体……?
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。
※次話は休日更新の予定です。
20151107加筆修正




