第41話 美しの人形姫
お待たせしました。
合成獣を屠ったのは一体……?
それではどうぞ。
―――深夜 ヴァルキュリア学園 グラウンド内
グレッグは狼狽する。
圧倒的に有利な状況。雑兵達は敵を殲滅すべく獲物を取り囲んでいた。真綿で首を締めるかの如く、彼らは獲物との間合いを縮め始めていたところだった。
しかし、それは一瞬。けたたましい破裂音が鳴り響いたと同時、合成獣の軍勢はその半数近くが光弾によって討ち取られた。
自分から見て左右の陣。そこにいた筈の雑兵達。グレッグは護衛の隙間から彼らの様子を伺う。
亡骸らしきものは有るが、それに生前の面影など残っていない。血や肉は言わずもがな、骨すらも砕かれていた。辺り一帯は血肉が散乱し、地獄絵図の有様だ。グレッグはその状況を見るに耐えられず、自分の周りを囲む合成獣へ目を向けた。
彼は思考する。合成獣に何が起こった?
そもそも、合成獣は研究の実験過程で生まれた。
亜人を圧倒する人間になる。それを達成する為にあの方が提示された方法。
それが『魔融合』であった。
『魔融合』とは古代の邪法である。古文書曰く、それは、嘗て何処かの国で実際に行われていた刑罰の一つだった。
『魔融合』とはどのようにして行うか。
特殊な魔法陣の上、水を張った巨大な水亀に犯罪者を沈める。
水亀へ沈んだ犯罪者は息が出来ずそのまま死ぬ。但し、水に沈めるのは死刑囚だけではない。魔物も一緒に沈めるのだ。
国お抱えの呪術師達が三日三晩に渡り、水槽に向かって呪文を唱え続ける。すると、人間と魔物の肉体が水瓶の中で融合し、時が経てば水亀の中から暴れ狂った生きた怪物が出てきたそうだ。
そのようにして、誕生した怪物は戦争の道具になるのだ。人間として魂が死んでも、肉体だけは怪物の一部として仮初の生を与えられる。そして、肉体的な死が訪れるまで、ずっと戦いに明け暮れることになる。
死して猶も続く非道な刑。それが『魔融合』の刑だった。
古代の邪法は国が攻め滅ぼされると同時にその方法とも封印された。古文書曰く、『魔融合』はこの世にあるまじき邪法であると、新しい支配者がそれを禁止したのだ。
以降、人々の記憶から『魔融合』は消えていき、現在に至っては完全に消滅していたと言って過言ではない。
せいぜい歴史書の一説に「邪法を信奉した国家があったが、その蛮行に憤慨した隣国の王に攻め滅ぼされた」と載っている位だ。
あの方から聞いた逸話を思い出す。自我を失わないまま強力な力を持った完成体。自分のような被験者の量産に目途が立つまで数々の実験を行ったという。
ほとんど記録の残っていない『魔融合』を再現し、尚且つ、その『融合体』に片側の自我を保たせる。この話しを聞いた当時、ゼロからの出発でよくここまでたどり着けたものだと、偉業を達成したあの方へ尊敬の念が深まったものだ。
だからこそ、つい先日まで数多くの実験が行われた。動植物、魔物、亜人、人間。それらを幾通りも掛け合わせていく。当然、コントロールの利かない化け物が出るのは承知の上での実験だった。その為、『魔融合』を用いたこの計画の中で、失敗作を兵器に転用する案が出たのも早期の事だったらしい。
今この場に居る合成獣達。彼らは戦闘特化の生体兵器として調整を受けた個体達である。
実験の過程で一部偶発的に産まれた強固な個体も居る。しかし、ほとんどの個体は実験の失敗作でもなければ、量産前の先行品でもないのだ。もちろん、廃品をリサイクルした訳でもない。
いずれもシュミレーションの通り、十分な能力を備えていると判断を受けた完成品なのだ。
それらがものの数秒で跡形もなく吹き飛ぶ。故にグレッグは困惑し、焦燥し、狼狽する。
魔法耐性は十分に与えたのに何故?
彼は恐怖した。目まぐるしく脳をフル回転させ、7秒近くも固まって考え抜いた末に辿り着いた結論。
あの攻撃にはマナが纏われていないのでは?
辺り一帯に漂う硫黄を焦がしたような匂いと煙。それがグレッグの脳を刺激した。もしも、マナを使った火や爆発であれば、変換しきっていないマナにマナをぶつけることで、攻撃の威力を削ぐことができる。故に魔法攻撃にも耐えうるよう、ここに居る合成獣達は自動的に対処できるよう調整が加えられていた。
グレッグは恐る恐る後ろを振り向き、後方に現れたであろう新たな敵を見遣る。
合成獣達の隙間から見える細身の姿。
猿となった彼の目は黄金に輝く髪を持つ美しい女の姿を捉えていた。風に煽られて宙を美しく舞う髪。その間から覗く翡翠の瞳。
彼女こそグレッグの恐怖の源だった。
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「いてぇーな!一体どうしたっていうんだ!」
イビルドリアードの蔦に足首を絡めとられ宙を舞っていたウィリー・マッハ。彼は拘束が解かれたは良いものの、勢いよく地面に落下した。彼はアンドロイドであって、人間と違い大したダメージを負っていない。その為、大した痛みは無い。
しかし、彼は短気だった。敵に捕まりかけて皆の前で恥を晒してしまった事。それに対する行き場のない怒りが沸いていた。
彼は分かっていた。この場に現れた増援が自身を助ける為、重火器を以てして蔦を引き離したことを。
「どっかの野郎のせいで無様な姿を晒しちまったぜ!」
だが、非常に残念なことに、ウィリー・マッハは怒りの矛先をその恩人へ向けていた。正直、助かって良かったと思った。危ないところを助けてもらって有り難いとも感じていた。しかし、ウィリーに感謝を示す余裕は無かった。彼の頭の中は気恥ずかしさでいっぱいだったのだ。
ウィリーは自身の顔の大半を占めるその巨大な単眼を銃声のした方へ向ける。
レンズを調整し、その恩人と思しき対象へぼやけたピントを合わせた。
「やいやい!一体、この落とし前どうやってぇ……。」
彼女を見た途端、ウィリーの荒げていた声は急速に萎んでいった。
「いかがされましたか?」
金色の長髪。翡翠の眼。陶磁のような白い肌。美しく整った顔。気品あるメイド服。
そして、その容姿に全く似つかわしくない重火器。
左右それぞれに握りしめられた非常に長い6銃身のガトリング砲。先程まで火を噴いていたせいか、回転が未だ完全には止まっておらず、各々の銃口から硝煙を漂わせていた。
「い、いや。何でもねぇ!」
ウィリーは彼女を前に気後れした。機甲軍と言えど、この世界で創造された彼らには心がある。ウィリーの心を産み出す回路では、プログラムエラーが警告され、ショートサーキット寸前の状態であった。
彼女は表情をほとんど変えず首を傾げる。
目の前のロボットは一体何をしているんだろう。感情豊かなのは結構だが、今は互いの主人が命の危機に直面している大事な時ではないか。
「……。」
ウィリーは言いがかりをつけようとした時のまま、変な体勢で硬直していた。そんな変人に向かって彼女は声を掛ける。
「私達のマスターを助ける為、力を貸していただけませんか?」
彼女の声は焦りの無い非常に静かなものだ。しかし、ウィリーの頭の中では勝手な妄想によりその言葉が違ったように聞こえていた。
『お願い、貴方の力が頼りなの……。』
『さぁ、一緒に行きましょう。』
想像力の豊かさは父親譲りなウィリー・マッハであった。
「おう、この俺に任せとけ!」
「よろしくお願いします。」
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辺りを囲んでいた合成獣のうち、左右に布陣していた多くは何者かの銃撃でその数を大幅に減らした。しかし、俺達の前後にはグレッグの猿を含め、少なくない数の敵が残っていた。
「ウォォォーーー!」
「「「!?」」」
先の銃撃に合成獣達は怯むどころか、逆に俺達へ向かって突っ込んできた。
「マナよ、光輝き壁となれ!<<ホーリープロテクト>>」
「あんなの見てよくも突っ込む気になれるわね!」
「小さい奴らじゃ。お主達の近くにいる方が攻撃を受けんと分かっておるのじゃ。混戦に持ち込みたいんじゃろうて。」
「貴方はクリエで間違いないのよねっ?」
クリエと思しき幼女に問いながら、無詠唱で魔法攻撃を連発するミーナは流石だ。
「まぁのう。詳しい説明は後じゃ。あっ、あっちからも来とるぞ。」
理屈はよく分からないが、ヒトの姿になったクリエ。彼女は宙に浮いたまま、寝そべりつつ俺達と会話していた。
「クリエもこっちに来て助けてよ!」
「う〜ん、妾は創造魔法の魔道具じゃからのう。攻撃能力など持たんのじゃ。」
「むっかー!なんで貴方だけ安全な所にいるのよ!早く降りてきなさい!」
さっきからクリエが小声で「肉体とはいいものじゃのう」「こうして欠伸をするのは気持ちいいのじゃのう」だとか、下らない事ばっかり言っている。
一方、合成獣達は俺の魔法障壁を壊そうと、円形に取り囲みあちこちから攻撃を加えていた。
「あ、あの!」
「う〜ん?」
クリエは声をした方へ伸びをしながら、顔を向ける。
「なんじゃ?固有魔法持ちの娘よ。」
「先程おっしゃられていた『魂の片割れ』って。それって!」
「もちろん、そ……ッと!」
その時、合成獣の内の数体が羽ばたいて上空を舞いだした。そして、魔法障壁の死角。術者の頭上から魔法障壁をぶち破り突っ込んできたのだ。
クリエは身体を捻らせながら、突然の強襲を回避した。
身体はグリフォンでありながら、首から先は剥き出しの背骨が飛び出ていた。三つに分かれる背骨。それは三匹の巨大な骸骨蛇だった。彼らは各々に獲物を探し求めていた。
3つの頭はカチカチと歯を噛み合わせ威嚇する。狙っていた獲物に逃げられ、合成獣は憤っていた。しかし、幸運な事に少女が回避した先には、うずくまるロール髪の少女がいた。目の前の少女へ標的を変えた合成獣は勢いを更に強め、その少女へ向かっていった。
「嫌っ!」
ナターリアは上空へ向けていた顔を隠すように下を向く。
「ピーター!」
「駄目だ!魔法障壁が崩れる!」
その時、バリンという嫌な音が響く。一番丈夫に展開されていた筈なのに!
俺は魔法障壁が割れる音を聞いた。
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ドスッ―――
ナターリアは上空で鈍い音が鳴るのを聞く。そして、次の瞬間、顔を伏せっている自分が分かるほどの、大きな衝撃が地面を揺るがした。
そして、土埃が舞うのも感じた。
あの巨大な合成獣が目標を見誤り墜落した。
そんな馬鹿な。
有りもしない可能性を否定する為、彼女はそちらへ目を向ける。
そんな。
事実は彼女の想像を超えていた。
そんな筈。
自分の目の前にはメイド服姿の女性が立っていた。エプロンの結び目のリボンが妙に大きいのが気にかかった。
そんな筈ない。
メイド服姿の女性は自分に背を向けたまま語る。
「お嬢様を傷つける者は私が許しません。」
凛としたその声は幼き日に聞いたあの声。そして、私を闇から救ってくれたあの声。
ナターリアの脳は判断する。幼少期の朧げな記憶。その時に聞いた優し気な声。
声は一致した。
「お姉さんだったのね。ハーディ。」
涙声で語るナターリアの声を聞き、身を震わせる自動人形。
「お嬢様……。」
ナターリアからハーディの顔を窺い知ることは出来ない。
ハーディは魔物に向けて厳しい目を向けつつも、その両目からは大粒の涙を零していた。
妹として。主人として。ナターリアは懇願する。
「ハーディ、私達を守るべく敵を倒して!」
その言葉でハーディの瞳に火が灯る。
「畏まりました、私の愛しいお嬢様。」
覚悟を決めたナターリアとハーディ。
彼女たちの反撃が始まる。
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。
※次話は週末投稿予定です。




