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ヒーロー?悪の方がいいに決まってる!!  作者: 小田和 リナシヲ
第3章 魔法学園:パペットマスター編
43/43

第43話 黒衣の笑み

人形を操っていた黒衣。


その劇も幕が閉じます。


それではどうぞ。

―――翌日 朝 ヴァルキュリア学園


 それは早朝のこと。3年担当の土魔法教員のドヴァンキンは授業準備の為、いつもより数時間早く登校した。普段は定時会議の始まる15分位前に出勤している。彼は授業以外の雑務を終えると深夜遅くまで酒を嗜む。


 ドワーフという種族は酒に強い者が多い。しかし、彼らにも限度はある。夕方から深夜過ぎまでずっと飲んだ状態であれば、少なくとも数時間は睡眠が必要となる。幾ら酒に強い種族とはいえ、不眠であれば体外に排出されるものも身体に残ったままだ。


 彼が身体に溜まった酒精に満足してお勘定を頼もうとした時、ドヴァンキンは手元の銅貨を見てふと思い出した。翌日の授業に使う予定の特殊な金属。その用意をしていたか? 彼は体温が急に冷めていくのを感じた。同僚の先生方も一緒と言うことで上機嫌だった自分はすっかりそのことを忘れていた。


 その金属を作るのに少なく見積もっても2時間はかかる。何とかせねば。責任感の強い老教師は会計を済ませると、直ぐさま家に戻り1時間程の仮眠をとった。


 結果、ドヴァンキンは眠気に負けじと欠伸をこらえつつ、まだ薄暗い学園まで続く坂道を歩く羽目になった。彼は上ってくる美しい朝日をぼーっと眺めながら門までの道を歩く。


 美しい朝日にも何の感想も持たなかったドヴァンキン。彼が中間付近に差し掛かった頃、思考力の低下した彼にも、無視できない事態が発生していた。何者かが土魔法を行使していた。酒の抜けきらない頭では、何が行われていたのか分からなかった。『……御!見つかりやした!』『血や肉は……綺麗に片づ……た……』などとやり取りをした後、一斉に不審な奴らが散っていった。会話の内容や姿はイマイチ覚えていないが、やたら騒々しい連中だったことは記憶していた。


 凸凹に穴の空いた通学路や校内のグラウンド。そして、校舎の壁に付けられた無数の小さな穴や引っ掻き傷。何らかの激しい戦闘が有ったに違いない。事態の深刻さを把握したドヴァンキンは完全に酔いが冷めていた。


 この非常事態を前に、ドヴァンキンは学長へ通信用の礼装を使ってすぐさま連絡した。


「が、学長!」


『どうした?こんな朝っぱちから。』


「不審な連中が学園に現れました!学園で戦闘の形跡が……!」


『(あの馬鹿どもが……)分かった。緊急の職員会議を開くぞ。ドヴァンキン、お前は片っ端から教員を集めろ。』


「は、はい!」


 それから間もなくして、街に居る教員は招集に応じ集まり始めた。休みであろうが課外であろうが関係ない。学園創設以来の大事件だった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


―――午前 ヴァルキュリア学園内 大講堂


 普段式典で利用される大講堂は多くの教員で埋め尽くされていた。早朝にかかった突然の招集。教員は各々その惨状に驚いた。夜から今朝にかけて行われたであろう戦闘の痕跡。そして、それらを残していった謎の不審者。


 彼らはその対策の為、緊急会議を行うことになった。本日の学園の内外で行われる授業は全て休講だ。つい先日も、課外授業で生徒が一人亡くなったばかり。学園に不審者が忍び込んでいる可能性を考えれば、全授業休講措置と言うのは度の過ぎたものでは決してない。知らずに登校してくる学生には申し訳ないが、門のところで帰って貰っている。


「しかし、一体誰がこんな事をしたんでしょうか?」


「僕にも一体何が何だか。」


「生徒達が夜の学園で血統騒ぎをおこしたか、はたまた、魔物が学園へ忍び込んだか。」


 教員の顔には不安の色が浮かんでいる。特に低学年を担当する教員たちは子供たちの身を案じていた。


「ピーター君達が遭遇したあの大猿がやって来ていたなら、彼らの精神的負担も測りかねません。」


「うむ。ピーター含め彼らは同級生の死を間近で見ていますからなぁ。」


「ポール先生はどうお考えになられます?」


「僕は―――」


 カツン、カツン、カツン―――


 大講堂内に靴音が響き渡る。グリンダの問いかけにポールが答えようとしたところ、壇上に学長が現れたのだ。お喋りをしていた教員たちも学長の登場で肩に力が入る。


 学長は拡声の魔法を使い教員に朝の突然の招集に応じてくれたことへ謝意を述べた。


「今日は突然にも拘わらず集まってくれてありがとう。」


「この講堂に来るまでに、皆見てもらったと思うが昨晩何らかの戦闘がこの学園内で行われた。」


 静かになる大講堂。皆、学長の言葉に耳を傾けていた。


「学園内、特にグラウンドの惨状を見て、皆、大いに驚嘆した事だろう。」


 その言葉に肯定する教員が多数であった。ガラスが割られ、校舎には無数の穴や傷がついた状態。学園はクリスタルの影響もあって、全体が魔法障壁マジックバリアで包まれている。それが一晩にして至る所に傷が出来たのだ。驚かない方がおかしい。


「しかし、今日議論する内容は……そういった戦闘の事ではない。」


 教員の間でざわめきが広がる。どういうことなのか? 思わず、グリンダ先生が立ち上がって尋ねる。


「一体どういうことですか? 私達はその形跡について議論し、不審者対策について考えようと―――」


 学長が手を前に突き出し、グリンダ先生の話しを中断させる。普段から学長に対して良いイメージを持っていなかったグリンダは不満を露わにドスンと音を立てて席に着く。


「少し待て。アイツらがここに来たようだ。」


 学長が舞台の袖から何者かを呼び寄せる。一人はオールバックの髪型をした白いロープを羽織った青年。そして、もう一人はベレー帽をかぶり迷彩服を着た魔族。


「ジョバンニ君!」


 グリンダが見覚えのある顔に声を荒げる。そして、壇上の二人に対して続々と注目が集まっていく。


「あの装いは宮廷魔導士の証じゃないのか?」


「もう一人の魔族の女性。あれが付けているのは魔王軍の紋章だ。」


「調査に来たのか?」


「それにしても早すぎるだろう。」


 一際大きくなるざわめき。教員の頭は疑問と困惑で溢れかえっていた。


 再び、壇上から学長が教員へ話しかける。


「先程、グリンダが話してくれた通り、俺は戦闘跡そして不審者について話し合う名目で君達教員を招集した。」


「しかし、それは嘘だ。」


 静まり返る大講堂。


「な、何を仰っているんですか!学長!」


「そうだ!こんな緊急事態にその態度は一体なんだ!」


「何のために集めたのか説明しろ!」


「横暴だぞ!」


 あちこちから出る不平不満。グリンダは掴みかからんとする勢いで学長を睨んだ。怒号が飛び交う中、学長は平然と話しを続けた。


「正確に言うと、昨晩から今朝にかけて行われた戦闘については既に事の詳細が判明している。だから、議論の余地は無い。」


「なんと……!」


「続けるぞ。」


 教員達の話しを無視し、学長は事の発端を喋り出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 ここ数年、学園の生徒が何らかの形で行方不明になっている。昔から学生が行方を眩ますなんてのは有ったことだが、俺が就任して以来そのペースは上がった。数十年の間、病気や怪我などはっきりとした理由が有る人間を除き、年間約50人程の学生が消えていた。


 まあ、大抵の奴らは勝手に実家へ戻っていたり、どこかへ逃げ出したりしていただけなんだが。


 しかし、ここ数年は全くの神隠しと言える状態の生徒が多く居た。


 50人だったのが、70人に。70人だったのが、100人へ。今年は200人を超えるんじゃないかというところまで来ていた。


 何、驚くことは無い。この学園は数万人の学生を抱えているんだ。気付かなかったとしてもそれを攻めることは出来ない。


 学長として俺はこの問題について調査を進めた。彼らに一体何が起こったのか。


 そして、俺は更なる問題点に気が付いた。


 150人から250人。


 この数字はなんだと思う? 20年前と1年前の失踪者の比較だ。これは学生についてではない。学園関係者、つまり大人の失踪者もここ数年で急激に増加している。


 一体、何が起きたのか?


 対策を講じる必要があった中で、事態が動いたのは今年の春だ。


 旧知の魔導士、マーティン・ウィリアムズが俺を訪ねた時に始まる。


……


『ブライよ。先程の入学の決め方はありゃ何じゃ。もう少し落ち着いてだな。』


『俺の学園だ。俺がやりたいように決める。』


『全く、お前さんは……。』


 その時、マーティンは曇りがかってきた空を眺めていた。長く蓄えた顎鬚を摘みながら、ブライの歩幅に合わせる。


『なんだ? まだ何かあるのか。』


『いや、儂の勘違いなら良いのじゃが、この学園には善からぬことを企んでいる者が居るやもしれん。』


『どういう事だ?』


『実はの……』


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


「その会話を契機に次々と事態は進展した。バラバラだったパズルのピースは面白いように組み合わさり、そこにいる魔王軍の武官とも繋がりを持てた。」


「それで今回の戦闘と何の関わりが有るんですか?」


「先を急くな。グリンダ。」


「……と言っても話しが長すぎたか。」


 学長は一拍置いて教員に語る。


「この間、課外授業に現れた魔物。それがこの学園に来て暴れた。」


「あの大猿が現れていたのか!」


「道理であれだけの穴が……。」


「そんな馬鹿な、あれだけの傷跡を大猿だけが残すというのもおかしい。」


「そもそも一体誰と戦ったんだ。」


 そんな会話が聞こえる中、白いロープの男が前に出て名乗り出た。


「宮廷魔導士の僕があの大猿を仕留めた。」


「コイツには面倒を見ている学生が居てな。偶々、大猿と遭遇してこの地で対峙したって訳だ。」


 それらのやり取りを見ていてドヴァンキンは気付く。


「そんな!あの時、学長はここで戦闘があったことをご存知だったのですか。」


 彼は素っ頓狂な声を上げて聞き返す。


「そうだ。お前には悪いことをしたな、ドヴァンキン。」


「しかし、これは発表できる段取りが取れるまで、隠す必要があったのだ。」


「何故ですか?」


「私も判断に苦慮した。」


「魔物の正体が厄介だったからだ。」


「正体って何ですか?」


「一年生のグレッグ・ウラジミール。彼が魔物に化けて同級生を襲ったんだ。」


「は?」


 一瞬の静寂。そして―――


「そんな馬鹿な!」


「生徒が同級生をく、喰ったっていうのか!?」


「有り得ない!」


 喧騒が大講堂を支配する。一年生の未熟な魔法使いが魔物になる。しかも、同級生を喰らうという猟奇的な事件を引き起こした。その事実が判明し、騒ぎ立てない者が何処に居るというのか。


 そんな中、一人の影が人混みを縫うように講堂の外へ飛び出した。


 ジョバンニ、ブライ、アイーダはそれを見逃さない。互いにアイコンタクトをし、アイーダのみ舞台袖からその場を抜け出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


―――昼 ヴァルキュリア学園内 聖堂前


「糞ッ!」


 大講堂を抜け出した影は、急いで校舎内にある聖堂へと走った。


 あの調子だと学長は真実にまで辿り着いている。このままでは地下の研究所ラボが見つかるのも時間の問題だ。


 研究所の入り口は聖堂にあった。急いで入り口を塞がなければ、この数年の苦労は水の泡となる。


 息を切らしながら、ドアに手を掛けたその時、後ろから女の声が聞こえた。


「おや、急に講堂を飛び出したかと思ったら、一体何を慌てているんだ?」


「!?」


 目の前には先程まで、大講堂の壇上に立っていた魔族の女がいた。


「さぞ慌てたろうねぇ。逃げ出した筈の私がブライに呼ばれて出てきたんだから。」


「……。」


 目の前の女は地下の研究所に潜入してきた。幸い、破壊工作をされる前に捕らえて地下牢にぶち込んでいたのだが、いつの間にか逃げ出していた。確か、アイーダとかいう名前だったはずだ。


「まさか、貴方が今回の黒幕だったなんて。」


 アイーダ以外の声が聞こえ、影は後ろを振り向く。目の前には学生と例の自動人形オートマタもいる。


 ピーター、ミーナ、ナターリア、ハーディ、アイーダが渦中の人物を取り囲む。


「俺達が入学した頃から流れ出したおかしな噂。女騎士の亡霊が学園内を歩き回り地獄に引きずり込むって奴。あれの元を辿ると亜人排斥派の貴族達が発端でだった。そして、その中心がグレッグ。」


「私も大分前に彼から聞いた事が有りましたわ。ただ、子供っぽいと思って聞き流しましたけれど。」


「グレッグは喜々として話していましたわ。『これは知り合いの先生から聞いた話だけど……』っていう前置きをつけて。」


 ナターリアとハーディは目の前の男を睨む。


「実際、噂の出所はもう一つ有った。」


「ある先生は授業終わりに『僕の通っていた頃からあった7不思議』として真夜中に歩くことを注意していたそうですね。」


「……。」


「ジョバンニさんは言っていました。『事実、僕が在籍していたころにはそんな7不思議は無かった』と。」


 ピーターは喋りながら歩き、眼鏡をかけたその男の前に立つ。


「一体、なんでそんな嘘をついたのか? 大方、壊れかけのハーディを動きやすくする為。はたまた、マーティン・ウィリアムズの登場で自分に目が向かないようにする為か。」


「グレッグは入学前から学園の先生と知り合いであることを自慢していた。」


「あの大猿には貴方の事を何度も伺っておりました。当時はお嬢様を救ってくださる紳士とばかり思っておりました……。」


 ナターリア、ハーディの言葉に続き、アイーダが氷剣を抜く。


「ええい!まどろっこしい!貴様がどんな人間・・であろうと知ったことか!」


「貴様は我が同胞の命を奪い、それを合成獣キメラの材料とした!」


 彼女の脳裏に焼き付いて離れない光景。幾つもの円柱型の水槽にぷかぷかと浮かんだ物体。その中には人間、魔物、亜人達が入っていた。全てが産まれたままの姿とは限らない。解剖の末、身体が切り刻まれたものや、臓器だらけの水槽など。アイーダの同胞である魔族も多くいたのだ。


「その事実に変わりはない!」


 アイーダは怒り狂う。あの外道な行為を知った以上、この人間を許すわけにいかない。目の前の男を叩き切らねば、殺された同胞、そして無垢な命達に申し訳が立たない。この男を切らねば、再び同じことをしでかす。そんな予感が彼女にはあった。


「俺もあんたのことは尊敬していた。この種族同士で互いを罵りあう時代に、全ての種族は平等だと考えるあんたの事。俺は信じていた。」


 男は守っていた沈黙を破る。


「えぇ、全ての種族は平等になるべきでしょう。持つ者。持たざる者。同じ生を得て、そんな不平等は認められないじゃないですか。」


「なんで、なんでだよ!」


「ポール先生!」


 今にも飛びかからんとするアイーダを無視し、ポールは俯きながらブツブツと独り言を語る。


「そうか、この周辺のマナは……。」


「フフフ。あの時の魔族。そうか、あれは君のお陰だったのか。」


「?」


「君があの魔族達の首魁ボスだね?」


 ポールはマーティンやケビンと一緒に俺達『グランジェネシス』と戦った事があった。ジョバンニのデータからそれもチェックしているが、果たしてそれがどうしたというんだ?


「だったらどうしたって言うのよ。」


 ミーナもアイーダ同様に怒りで燃えていた。手先からはマナがあふれ出し、いつでも攻撃に移れるようだった。しかし、ポールは言葉を止めない。


「実は、私がこの考えに辿り着いたのは―――」


「君達のお陰なんですよ。」


 ポールはゆっくりと顔を上げる。彼の顔には暗い笑みがベッタリと貼りついていた。普段の彼からは想像もつかない。触れてはいけない薄気味悪さがそこにはあった。

黒幕はポール先生だった。


何故彼は事件を起こしたのか?


※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。

※次話は休日の更新です。よろしくお願いします。

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