第35話 マイフェアレディ
自動人形に捕まったエレナ。
彼女を助ける為、『グランジェネシス』が動きます。
それではどうぞ。
―――夜 『グランジェネシス』ヴァルキュリア支部
「ここに集まって貰ったのは他でもない。エレナが連れ去られた。」
「「「……。」」」
今から半刻前、情報軍のラット・ハットが俺に連絡を入れてきた。配下のネズミから例の自動人形が姿を見たとの情報が上がってきたらしい。問題なのは自動人形がエレナらしきエルフを抱きかかえていたことだ。その情報をもとにレウマータ村に戻っていた怪人含めヴァルキュリア支部へ緊急招集を駆けたのだった。
連絡のつかなかったり、任務遂行中で手を離せない者以外は、俺の連絡に応じ転移魔法陣から続々と現れてきた。改装が十分になっていないヴァルキュリア支部。そこへぎゅう詰めとなって、怪人達は俺やミーナを始めとするジョバンニ、アグネジャの大幹部の周りに集まっている。
「自動人形は屋根伝いに学園のある丘陵地まで跳躍していったようです。」
「学園か……。」
「あの自動人形がなんなのか未だ分かっていません。しかし、組織として考えた際、我々の敵になる可能性が十分有ります。」
「それに、ボス達にとってあの少女は個人的に放っておけない人でしょぉ〜?」
情報軍を引き連れたジョバンニの意見を前に、俺は腕組をして考える。果たして、今の気持ちのままエレナを追いかけてしまっていいものなのか。エレナは大事な友人であり、直ぐにでも助けに行きたい。けれども、その気持ちは私事であって、組織の皆を巻き込んでまで動く必要のあるものなのだろうか?
「何も悩む必要はないわよ。もう姿を見られてばれてしまっているんですもの。」
「俺達もあのいけすかねぇ人形とケリはつけてぇんだ。」
「「おとーさんにとって大事な人は私達にも大事な人なんだよー!」」
「皆……。」
俺は下を向いていた顔を上げ、皆の顔を見つめる。どの怪人達も俺の言葉一つを待っているようだ。
「ありがとう。……それでは総統として命ずる!」
感謝の言葉を述べ、一拍置いた後大声を張り上げる。怪人達の動きがピタリと止まる。
「我に敵する自動人形を排しエレナを奪還せよ!」
「「「おぉー!」」」
「そんじゃ、行動移るぞ。」
それで場を締めようとした俺にアグネが待ったをかける。
「お父様! あれ、やりましょうよ! れ・い・の・あ・れ!」
「えぇー……あれ本当にやるの?」
「いいじゃない。私は結構気にいっているわよ。」
「僕もです。士気も上がります。」
「「この間、アグネおねーちゃんと練習したんだよ!」」
「お父さん、一緒にやろう。」
ミーナやジョバンニまで賛同してくるとは。アグネとノリノリで遊び半分で考えただけなんだけどな。怪人達も乗り気な奴は多いようだ。
俺は息を吸い込み、まるで野球の応援団のようにして叫ぶ。
「―――全ては!」
「「「全ては!」」」
「―――我らが大義を広めるが為!」
「「「我らが大義を広めるが為!」」」
「―――悪となりて世界を征し!」
「「「悪となりて世界を征し!」」」
「この世に新しき秩序を産み落とす!」
「「「―――この世に新しき秩序を産み落とす!」」」
「「「「我らの名は『グランジェネシス』!」」」」
「いざ出陣だぁぁぁ!!」
「「「おぉぉぉぉ!!!!」」」
地下倉庫いっぱいに怪人たちの雄叫びが反響する。何としてもエレナを奪い返さねば。こうして、エレナ奪還作戦、名付けて『マイフェアレディ』は始動したのだった。
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―――夜 ヴァルキュリア学園 正門前
ヴァルキュリア学園は小高い丘の上、クリスタルを中心に建設されている。その為、学園城下町から学園に向かうにはゆったりとした傾斜のある一本道を通らねばならない。夜になれば、正門が閉じられ校舎内への立ち入りは禁じられている為、人影は完全に消えている。
そんな中、珍妙な格好をした一団が篝火も無く隊列を組んで、練り歩いていた。先頭には鬼のような仮面をかぶった少年、少女が。左右には真っ黒なフルプレートメイルを着た邪悪な魔族。そして、もう一人は仮面を被ったレザースーツの男。
「こんなに堂々として大丈夫なの?」
「大丈夫です。ガマグチの透明化スキルをアグネジャ様の魔法で拡張しています。私達以外の人間には何も見えていません。」
「でも、裸の大様って童話があってだなぁ……。」
うん、小心者の自分はさっきから心臓がバクバクと鳴っている。見つかったらただでは済まないぞ。
「相変わらず、小心者じゃのう。」
「ところで、自動人形は間違いなく学園に向かったのよね?」
「えぇ配下のネズミからはそう聞いています。」
「あの自動人形は本当に一体何なんでしょうな?」
「それも今日決着をつける。」
正門までもう数十メートルと言ったところ。突然、そいつは現れた。
「!?一体、何処に潜んでいたんだ!」
学園を囲む城壁の上、一匹の猿が居た。歯を見せ付けるように口を開ける猿。奴は俺達から視線を逸らさない。
「あー、ジョバンニ。あいつは俺達に気付いているよな。」
「飽くまで透明化は見た目だけですからね。マナまでは隠せていないかと。」
「なるほど。」
あの時の大猿。奴は俺達に向けてニタリと薄気味悪い笑みを浮かべると、片手を上げてゆっくりと振り下ろす。すると、城壁を飛び越えて何かが俺達の周りに飛び降りてきた。
「グルルルル……!!」
魔物。俺達を雑多な種類の魔物が取り囲む。
「あらぁ、オクトヴィア? この世界にあんな面白そうな魔物っていたっけ?」
「う〜ん、私みたく背中から腕が生えているわねぇ。」
キラーベル姉妹の目の前には黒い狼の魔物がいた。しかし、彼女たちが指摘するように、背中からは猿のような毛むくじゃらの腕がにょきにょきと生えている。各々の手は忙しなく指を動かし、いつでも攻撃に移れそうな気配だ。
「こちらも一筋縄では無さそうな魔物ですな。」
レオニアの前には人型のスケルトンが立っている。しかし、通常の大きさではない。4〜5メートルは有りそうな魔物。しかも、骨の隙間にはびっしりと何かが詰まっているようだ。先程から、その中で蠢いている様子がよく見える。あばら骨のあたりにも、中くらいの大きさの魔物が俺達を覗くように先ほどから、大きな目をキョロキョロと動かしている。
「何なのこいつら? 本当に魔物なの?」
ミーナが困惑した声を上げる。学園の中からは次々に俺達を囲むように新しい魔物が降って来ていた。まぁ、俺達のように変な格好をした怪人だらけの『グランジェネシス』が言えた立場にはないのだが、魔物のいずれもが今まで見たことの無いような奴ばかりだった。
いや、見たことはあってもまるで継ぎ接ぎしたような感じだ。背中から腕の生えた狼、他の魔物と共存する巨大スケルトン。それ以外にも、サメの顔をしたハーピィと思しき身体を持った魔物、カマキリのような足となった大百足、完全武装したゴブリンの胴体が背中から生えた豹の魔物。数えだしたらキリがない。
気付けば俺達以上の数の魔物が集まっていた。
「親父、どう突破するおつもりで?」
「逃げることは出来なそうだしな……。」
「総統とミーナ部隊長は透明化を維持して先行してください。」
「でも!皆だけ置いていくなんて!」
「こういうのは時間が大事な筈ですぜ。」
俺はジョバンニの提案を聞き周りを見る。皆、眼前の敵に集中している。いつ戦闘が始まってもおかしくない。
「透明化を解いた瞬間、奴らは一斉に俺達を襲ってきます。」
「しかし、そこが狙い目です。混戦の最中に二人分のマナが消えたところで、それに気付くものはいないでしょう。」
魔物達は馬鹿ではなかった。目に見えないうちから、無闇な攻撃をしてこないのだ。狙いの定まらないうちは、相手の方から手を出すのを待つ。もしも、俺達が魔法を放とうとすれば、マナの動きからそれを阻止することができる。肉弾戦であれば、目に見えなくても音や殺気で場所を特定できる。
もはや透明化によるアドバンテージは無かったのだ。戦わざるを得ない。それであるならば、透明化に回している魔力を攻撃に回した方が得策だ。
「ミーナは大丈夫?」
「えぇ、いいわよ。デカい魔法を撃てないのは癪だけどね。」
「総統。私も同行してよろしいでしょうか?」
「お前も?」
俺達の前にはアイアンハンターが学園の方に目を向けていた。あまり自己主張しない奴と思っていたが、俺達の護衛を買って出たのか。
「ウィリー・マッハは今日いませんので。」
あぁ、そう言う事。普段はウィリーのお目付け役として働かねばいけないのだが、今日はそれをする必要が無いと。
「それとあの人ともう一度戦いたい。」
「「あらぁ〜?」」
キラーベル姉妹がニヤニヤと笑いながらアイアンハンターの言葉に反応する。ん?何か知っているの?
「「頑張ってねぇ〜。」」
「では、兄貴。総統達を除いて透明化スキルを解きます。これから5数えますんで合図に合わせてお願いします。」
「うむ、分かった。」
「ではいきますよ。5、4、3、2、1……0!」
ゼロと言った瞬間、魔物達のまえにこれまた歪な格好をした怪人達が現れた。魔物も怪人も同時に動き出す。ある怪人は早速、魔物を殴りつけ地面に落とし、ある怪人は腰に下げている刀を抜刀し、加速をつけて目の前の魔物に襲い掛かった。
逆もまた然り、キラーベル姉妹の前に居る狼は透明化が解けるその最中から加速を始め、ジューンの肩を食いちぎろうと飛びかかってきた。寸でのところに気付いた彼女はそれをかわしつつ、レオニアへ向かって投げ飛ばす。レオニアは自身の剣でその狼を切り付ける。普段は喧嘩ばかりしているが、いいチームプレーだ。
「武人さん。ありがと〜。」
「礼には及ばん!総統の邪魔をする不届き者を排するのだ!」
「……ぷぷっ、使いやすッ。」
なんか、酷い事言っているのが聞こえたが、兎にも角にも、皆頑張ってくれ。
俺とミーナ、それからアイアンの3人はアイアンによって道を切り開いてもらいながら正門に近づいていった。
ふと、俺は学園の城壁を見上げる。いない。あの猿の魔物はどこへ行った? 俺の視線の先に気付いたのか、ミーナも猿の行方について訝しがった。
「あの猿はどこに行ったのかしら? もしも、また私達の目の前に現れたら厄介ね。」
「今は先を急ぐのじゃ。学園のグラウンドにエレナと自動人形のマナを感じる。……ん?」
「どうした、クリエ?」
「いや、妾の勘違いじゃ。何でもない。」
俺達は正門を潜り夜の校舎へ侵入する。エレナを助けなければ。
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―――ヴァルキュリア学園 グラウンド
「コレで、ワタシの、シメイはオワる。」
エレナを足下に置いた人形は夜空に輝く星々を眺めた。あぁ、これで愛しきあの方の役に立てる。こんなボロボロになった状態でも彼女は私の事を覚えていてくれた。
人形は幸せだった。
任務を達成したことへの安堵。そして、今も猶自らの主人と慕い続けていた少女との思いがけぬ出会い。人形は幸福を感じていた。今までのつらい出来事が全て無に変える。人形の胸の内はそんな万感の思いに満ちていた。
自分はいつ動けなくなってもおかしくない。最後に一目だけでも彼女に会う事が出来た。声を聞くことができた。人形にとってはそれだけで十分満足だったのだ。
「あそこ!エレナもいる!」
自分の想いをかき乱す雑音。人形はゆっくりと声のした方へ身体を向ける。また、あの少年達だ。少女を守ると約束したあの方から聞いている。奴らは敵。自らの主人に取り入り、全てを奪おうとする憎き敵。
私の麗しく貴き女性―――マイフェアレディ―――
それを守るためなら何だってする。例えそれが『悪』であろうとも。
自動人形の正体は?
そして、大猿の正体は?
物語は加速します。
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。
※次の更新は来週末です。




