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ヒーロー?悪の方がいいに決まってる!!  作者: 小田和 リナシヲ
第3章 魔法学園:パペットマスター編
30/43

第30話 ヴァルキュリアの怪談

大猿事件の後、ヴァルキュリアでは様々な噂が流れ始めます。


それではどうぞ。

―――大猿事件から2週間後 ヴァルキュリア


 課外授業での生徒の死。その知らせは校内を駆け巡り、学校からの正式な通達前に生徒へ知れ渡った。2年生以上は城外にある森へ必ず行っている。そんな身近な場所で凶悪な魔物が出てきたのだ。驚かない方がおかしい。


 噂が広がる過程で問題視されたのは2つ。一つは人食いの大猿の行方だ。今まで誰も見たことの無い魔物が、何処から来て、どこへ逃げていったのか。生徒達は見たこともない大猿の姿を想像し、正体不明の魔物に恐怖した。人は見えないものに過剰な恐れを抱くものだ。


 先生達からの話しを聞くに、近々、森に居ると思われる大猿の討伐隊が組まれるとのことだ。


 そして、もう一つは―――


「聞いた……?あの学年主席の話し?」


「あぁ、死んじまった1年はあいつの管理・・がなってなかったせいで死んだらしいぜ?」


「大体学長に取り入ったのか分からないけど、先生の真似事すること自体おかしいんだ。」


「猿の魔物はアイツが撃退したらしいけど……。」


「目撃者もあの貴族様だけなんだろ?ホントのとこどうなんだか?」


「でも、あの貴族と学年主席って仲が悪かった筈よ。そんな有利になる情報流さないと思うけど……。」


「分からないぜ。実は演技だったのかも。」


「実は猿の魔物も学年主席が連れてきたとか?」


「動機は貴族の連中がうっとうしかったから!」


「貴族のお嬢様も脅されてたり!」


「きゃー!人殺しじゃない!」


「人殺しは早く捕まえろ!」


 俺の管理不足。それと俺に対する根も葉もない悪評だった。入学式から目立ってきた俺に対する中傷誹謗は激しい。中には、俺とヴィンセントの仲の悪さから邪推して、猿の魔物を召喚した俺がヴィンセントを殺した、なんてのまである始末だった。


 地球に居た頃、不細工、運動音痴、そんな理由から学校でいじめを受けたことがあった。その時は、暴力を振るわれることもあったし、暴言を吐かれることもあった。そして、無視されることも。けれども、それを何とか乗り越えて、無事大学まで進学できたのである。まぁ、最終的にはニートだが。


 だから、どんな風に言われたところで初めは受け流せると思ったが……。


 引率役の立場を引き受けながらヴィンセントを守れなかったのは事実。同級生の命が奪われるのを黙って見過ごすしかできなかったのも事実。彼は嫌な奴だったし、そこまで深い思い入れもない。しかし、ナターリアだって俺のことを理解してくれた。もしかすると、彼が生きてさえいれば、ナターリアのように普通の同級生みたく会話できる未来があったかもしれない。……後悔の念が、俺自身を責めたてる。


 また、皆の態度の変わり様にも戸惑いを隠せなかった。この学校というよりこの世界に来てから、俺は謂わば優等生として周りからも持ち上げられていたのだ。しかし、今やこうして俺の評価は地に落ちた。地球ではそんな経験味わったことが無く少し浮かれていたのだ。その反動だろう、胸のつかえが取れない。


 上げてから落とす……。いやなんか違う。


 多くの人間が掌返しで態度を豹変させたのが、俺は悲しかったし悔しかったのだ。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


―――昼過ぎ ヴァルキュリア内 カフェ「モンタナ」


「元気出しなさいよ。」


「そうです。ピーターさんは何も悪い事してないじゃないですか!」


 俺はミーナ、エレナとともに遅めの昼食をとっていた。学長から先生役の任を解かれ、俺のカリキュラムに大分空きができたのだ。一足先に午前で授業の終えた俺は、校舎の外にあるカフェで時間を潰した。うーん、何もする気が起きない。あれだけ、授業だ、先生役だ、ロボット製作だと息巻いて忙しかったのが、まるで嘘のようだ。


「ハァァ……。」


「ほら溜息ついてないで。幸せが逃げちゃうわよ。」


……


 課外授業で俺のグループにいた生徒達は、ミーナを筆頭に「あの魔物の不意打ちに対処できる者は居ない」と声を大にして訴えてくれた。現場を目撃していない先生や生徒に対する周知活動のおかげで、誹謗中傷は大分抑えられているように感じる。


 俺と付き合いのあるクラスの皆や先生方は、何らかの形で俺のことを庇ってくれているようだった。ポール先生やグリンダ先生は、俺へ一方的に責任を負わせないよう、学長へ直談判したそうだ。普段は滅多に怒らないグリンダ先生だが、学長に対し理不尽な叱責をしないよう学長相手に喧嘩腰で怒鳴り散らしたらしい。


 「人間と変わらないなんて言っていたけど、やっぱりグリンダ先生も獣人だった」とポール先生に言わしめる程の怒り様で、それはまさに猛り狂った熊だったと言う。


 ある先生曰く、校外の森で危険度の高い魔物が出るなど想像がつかないと話してくれた。むしろ、そんな状況下で、人食いの大猿による犠牲者を一人で食い止められたことを誇ってもいいぐらいだと。自分だけの力ではなく、組織の仲間のお陰でもあるので、誇る気など当然ない。


 けれども、そういう考えの持ち主は多いようで、突発的な事態に際し犠牲者を最低限に食い止めた事を良く頑張ったと言ってくれる先生は多かった。先生達からすると、逆の立場になってものを見ると、あんな森に凶悪な魔物がいるなんて思いもつかないから、自分たちですら冷静な判断を下せたか分からないということらしい。 


 今の俺には、そうした言動が精神的な救いになっていた。


 また、ヴィンセントの親御さんとも話しをした。彼ら息子の死を受け、転移魔法陣を利用して急遽ヴァルキュリアへ駆けつけたのだ。当然、彼らは俺を責めた。どうして、助けられなかったのかと。一連の騒動のなかで、一番辛い場面だったかもしれない。俺に対する罵りは止まらなかった。


 親御さんは下半身だけとなった自身の息子の亡骸と対面すると、息子の死を実感したのか両者ともに途方に暮れていた。俺は二人を前に当時の状況を説明した。そして、彼の下半身を学園まで持ち帰ったところまで話しが及ぶと、奥さんは泣き崩れた。旦那さんは泣くのを耐え忍びつつ、ちいさく「ありがとう」と言ってくれた。


……


「頭の切り替えしていかないと。」


「そうですよ。……そうだ!」


「どうしたの、エレナ?」


「ピーターさん、あの召喚術・・・を今度教えてくださいね!」


「あぁ、あ、あれはいつかね。」


「なにか御都合悪かったですか……?」


「嫌そんな事決してないんだけれども、ちょっとあれは教えられないというか……。」


 上手く働かない頭を持ち上げ、エレナに歯切れ悪い回答をする。厄介なことに、途中で気を失ったエレナも、組織の連中の姿を目撃してしまっているのだ。今は苦し紛れに、従者契約をした魔人を召喚した体で話をしている。基本的に、ミーナを除いた皆に秘密としているので黙っていて欲しいと伝えているが、エレナは色々と細かく聞いてくるのだった。出来れば避けたいのだが、忘却の魔法を掛けるかどうか本気で悩んでいた。


「それも秘密なんですか?」


 少し寂しそうな顔をするエレナを見て、本当の事を喋りたくなってしまう。ミーナに目線を向けるものの、首を横に振られた。


「えっとごめんね。また話せるときが来たら話すよ。」


「うーん……。」


「エレナにもいつか話すから、その時まで待っていて。」


「皆さんがそういうならお待ちしてますけど……。」


 明らかに不服そうな顔をするエレナを宥めているうちに、俺達はバスケットに乗っているサンドイッチを食べ終えていた。木陰で夏の日射から逃れつつ、アイスティーを飲んでゆったりと過ごす。


「そういえば、ここ数日、学校の7不思議が話題に上がっていますね。」


「7不思議って?」


「ヴァルキュリアには昔から有名な怪談があってね。」


「「「うわっ!」」」


 いつの間にか、丸テーブルを囲んでいる4つ目の椅子にジョバンニが座っていた。神出鬼没な奴である。


「驚いたー!居るなら声掛けしなさいよ!」


「話しに熱中しているようだったからね。」


「お久しぶりです。ジョバンニさん。」


「元気そうで何よりだ。体質の方は未だ改善されない?」


「えーと……。」


「また今度、のろいの類について詳しい奴に聞いてみるよ。辛いこともあるだろうけれど、それと上手くつきあえていくといいね。」


「えぇ、ありがとうございます。」


 あれから、学校の先生方にもエレナの件は相談しているが、具体的な解決法、詳しい原因も掴めていない。学校に通うようになってから不幸に見舞われるようになったので、恐らく後天的な呪いと思われるが、検知魔法にかけても目ぼしい痕跡が見当たらないのである。


 エレナの態度に未だ不幸が続いていると察したジョバンニは話しを戻す。


「さっきの話しに戻るけど、ヴァルキュリアの7不思議はこういうもんさ。放棄されたアンデットの研究施設が未だに稼働していて、壁伝いに彼らの怨嗟の声が聞こえる。満月の夜、月光に照らされたクリスタルから怪しい光が出て、レイスやゴーストとも違う謎のヒトガタが現れる。とかね。」


「そうなんです!今、ヴァルキュリアの中ではその7不思議の一つ、女騎士の亡霊の目撃例が相次いでいるようなんですよ。」


「女性騎士?」


「なんでも、ヴァルキュリアに学園が出来る前、合戦で命を失った女騎士が居たそうです。」


「その女騎士は戦に負けそうな自軍の撤退を援護する為、殿を務めていました。しかし、追跡してきた敵に追い付かれ、忠義をつくす主君に会いたいという未練を残したまま、死んでしまったのです。」


「それから数世紀経った今も、合戦の舞台となった地で、自分が死んだことも気付かないまま、夜な夜な主君を捜し歩き続け……そして、出会ったが最後!怨嗟の声と共に地獄へ引きづりこまれる……。っていう話しです。」


 怖がらせようとしているのだろうか、抑揚をつけ間を開けて話すエレナ。


 うーん……。やっぱり、可愛い。


「それがヴァルキュリアの校舎ってこと?」


「でも、大分昔の話しなのに今更になって出て来るっておかしくない?」


「ピーターさん。けれども、それに遭遇したらしい子が数人行方不明なんですよ。」


「え?」


「夜中、校舎へ忍び込んだ生徒が行方不明になっているようなんです。周りの友達に、忘れ物をしたから夜中の校舎へ行くと言って、そのまま行方をくらましているんです。実際、姿は見ていないですが、カシャン、カシャンと金属が擦れあうような音を夜の校舎で聞いたとか。」


「毎年、何人かは勉強が嫌になって行方をくらます奴がいるからね。そういうのじゃないかな?」


「あー!ジョバンニさん信じていない!」


「そういう、怪談話なんて楽しむだけのものであって、真剣にとらえたところで意味は無いよ。」


「事実、僕が在籍していたころにはそんな7不思議は無かったからね。」


 地球でもそうだが、学校の7不思議なんてしょっちゅう入れ替わっていくのだ。在校生の代が移り変わっていくにつれ、伝承もあいまいになり変化していく。そういうもんだと俺は思う。


「あら、ピーター。何を長耳さん達と話しているのかしら?」


 後ろから声がするので振り向くと、金髪の縦ロールが視界に入る。


「ナターリア。今、学校の7不思議について丁度話していたところだよ。」


「7不思議?」


「怪談の一種さ。主君の影を追う女騎士の亡霊が校舎を徘徊して居るんだとさ。」


「ふーん。随分と子供っぽいことで盛り上がっているのですね。」


「あ、あ、あわ、あわわ……!」


 うん?どうしたエレナ?何をそんなにって……あ。


「どうしてナターリアとそんな風に話せているんですか!?」


「あら、長耳さん。ご機嫌よう。」


「さん付け!?」


ワタクシとピーターには、長耳さんにも伝えられない二人だけの秘密の関係がございますのよ。」


 ナターリアは扇子を広げ、ホホホと笑みを浮かべている口元を隠す。何を思わせぶりな言い方しているんだ、こいつ。すると、エレナだけでなく。


「ちょっと、ピーター!このお嬢さまの言っていること説明しなさいよ!」


 ミーナさん、あんたには事情を説明したでしょうが。なんにもやましいことはございません。


「相変わらずやるねぇ、ピーター君。」


 俺は女性3人が火花を散らす気まずい雰囲気の中、残りのアイスティーを飲み干すのだった。

女性騎士の亡霊とは?


ピーター君をめぐる女の争いはどうなることやら。


※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。

※次話は翌日夜の予定です。

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