第27話 ゴーレム使い
お待たせしました。
ピーター先生はどう対処するのか。
それではどうぞ。
「マナに導かれし風よ、我が武器となれ<<ウィンドカッター>>!」
「マナよ!大地の力で敵を吹き飛ばせ!<<アースライズ>>」
風の刃が舞い、土が隆起する。亜人組と貴族組が互いに魔法を撃ちあい、辺り一帯騒然となってしまった。俺は「止めろ!」と大声を張り上げるが、互いにヒートアップして聞く耳を持たない。
「(実力行使だな、こりゃ。)マナよ、火となりて壁を作れ<<ファイアウォール>>」
各々攻撃を交わし、互いの攻撃の第二波を撃とうとして、火の壁が立ち塞がる。両陣営とも動きが止まった。
「エレナ達も熱くなるのは分かるけど気持ちを抑えて。ここで喧嘩したところで何の得にもならないから。」
俺は亜人組の先頭に立つエレナへ声を掛けた。
「でもっ!先に仕掛けてきたのは向こうです!」
怒り心頭なエレナは自分の正当性を主張する。けれども、その答えは12歳の少女が出すには少し幼過ぎるんじゃなかろうか。
「言い訳するんじゃないの。もしも、エレナの風魔法で相手が傷つきでもしたら、それはエレナのせいになるんだよ?生活に支障をきたすようなものだったとして、エレナはその責任を負うことが出来るの?」
俺は怒鳴りはしない。相手が自分の非に気付くように、静かな口調で問いかける。
「それは……。」
「ここら辺で終わりにしておいた方がいいよ。きっと。」
「ピーター君がそこまで言うなら……。」
一番頭に血が上っていたエレナが矛を収めれば、マリン、フランクも後に続く。リリアはどこかほっとした様子でそれを眺めていた。
俺は続けて炎壁を挟んだ反対側へ顔を出す。貴族組も亜人組と同様、喧嘩に水を差されてご立腹のようだ。
「お前……どういうつもりだ?」
土魔法を放ったグレッグは鼻息荒く、こちらを睨みつけてきている。先ほどの風魔法の影響だろうか、服に切れ目が走っているのが分かる。
「先生たるもの、生徒同士の争いを止めようとするのは当然だろ?」
貴族組にしっかりとした口調で言い聞かせる。そう、俺は学長からの指示とはいえ、先生をやっているのだ。生徒になめてかかられては困る。
<<お主、嫌がっておらんかったか?>>
先生やる以上、使える権限は存分に使わないと。貴族組の奴ら図に乗ったままじゃん。
<<またお主は……。じゃが、妾も今度ばかしは賛成じゃ。アイツらに灸をすえるのじゃ。>>
脳内でクリエから説教の許可を貰っていると、いきり立つグレッグの前へナターリアが歩み出てきていた。
「まぁ、ついこの間までただの田舎者だった癖に。そういう大きな面がよくできますわね。」
「おかげさまで。それよりも、ナターリアや他の皆だって、貴族足るものこんな細事に首を突っ込んじゃいけないだろ?」
「亜人の皆様にはご自分の立ち位置をしっかりと把握して頂かなければと思いまして。」
「だからといって、傷害事件にまで発展したらどうするつもりだったんだよ。」
「貴族の誇りを守る為、亜人からの侮辱に抵抗した結果に過ぎませんわ。私達に非は有りませんわ。」
「どこに侮辱の意図があったんだよ……。むしろお前らの方が侮辱していたじゃないか。」
いくら言っても聞く耳を持たなければ意味が無い。話しが平行線を辿っていると、グレッグが前に出てくる。
「ナターリアの言う事にケチをつけるな。前にあった時から思っていたけど、お前うっとうしいぜ。」
グレッグはそういって俺の胸ぐらを掴み、身体を持ち上げてきた。俺とグレッグの背丈は大分差が有り、あっという間に足が地面から離れた。
「こ、こんな事しても、貴族の役目は果たせないぞ。」
「お前にそんな事指図される筋合いは無い!」
瞬間、俺は<<ファイアーウオール>>に向かって投げ飛ばされる。火壁に当たろうかというところで、俺は飛行魔法で再びグレッグの前に戻る。
「お前、先生に向かって暴力とはいい度胸だな?」
俺は声を低くしてグレッグに対し威圧を掛ける。体内のマナを活性化させ体外へ一挙に放出する。濃いマナのせいで、俺の周りの空気は揺らいだように見えることだろう。
「そんなこけおどしがなんだって言うんだ?ナターリア、例のあれをやってくれ!」
グレッグは俺の威圧に屈することなく、俺に向かって……ってあれ? 何故か、廊下の外の芝生に向かって出ていく。強化魔法を使った「人にしては余りに速い動き」に身構えたところだったのだが。
<<(あの動き、マナを使ったのか? それにしては……。)>>
「マナよ。土を以てして形を作れ。出でよ、我らが忠実なる僕!<<メイクドール>>」
おぉ!?俺はグレッグの唱える魔法に目を見開く。先日、土魔法でゴーレム作成に使用した<<メイク>>系統の魔法である。地面に添えた手の先から、土が隆起していく。
「なんだあれ!?」
フランクが火壁の向こうから出てきて様子を伺う。炎天下の中、4メートルはあろうか大鬼の土人形が出来上がる。
<<精巧な出来栄えじゃ。職人の技じゃな。>>
土色だった表面は魔法の影響で、徐々に彩色されていく。隆々とした筋肉。大きく飛び出た牙。そして、頭に生えた大きな二本の角。躍動感のある造形で、まるで今にでも動きそうな雰囲気だ。
しかし、俺は知っている。グレッグが唱えた<<メイクドール>>は<<メイクゴーレム>>とは違い、工芸魔法に過ぎない。本来は動かない筈だ。何をしてくるのかと思った瞬間、隣に立っていたナターリアが呪文詠唱を始めた。
「マナよ。我が血の力を以て彼の器に魂を与えよ。<<ギフテッドスピリット>>」
<<これは! 固有魔法!>>
クリエの耳を劈くような念話に驚いていると、様子を伺っていた亜人組やその他の貴族組から悲鳴が上がる。何かと思って廊下外の中庭を見ると、大鬼の人形が動き出していた。
グレッグの作り出した大鬼はズシン、ズシンと大きな地響きを立て、こちらに近づいてくる。
「どうだ!これが俺とナターリアの合作ゴーレムだ!通常のゴーレムなんかより何倍も強いんだからな!」
大鬼の肩にはグレッグが乗っかっていた。彼は何かに憑りつかれたかのように笑っている。息を荒げ歯をむき出しにした表情はまるで獣のようだった。
「やれ!お前も!そこに居る亜人達も!このゴーレムでブッ飛ばしてやるよ!」
やがて、皆の悲鳴が聞こえたのか、あちこちから生徒が集まりだしギャラリーを形成しだしていた。俺は亜人組も貴族組も直ぐに逃げ出せるよう<<ファイアウォール>>を解除し、グレッグの作り出したゴーレムの前へ飛ぶ。
「いい加減にしろよ。そんな危なっかしいゴーレムを使って暴れてでもみろ。俺達だけじゃない。色んな人を巻き込むことになるんだぞ。」
俺は周囲を見渡す。さっきまでほとんど人の居なかった廊下にはたくさんの人だかりがあった。そして、中庭も俺達を中心として人の囲いが出来ている。
グレッグもようやく気付いたようで、辺りを見回しその様子を伺う。しかし、彼は人だかりに気付いた後も、大鬼の肩の上で笑ったままだった。彼は口をますます大きく開け、歯を見せつけてくる。
「こんなにもギャラリーが居て楽しいじゃないかぁ!なぁ、先生!」
なんだ? 俺は真夏の炎天下にも拘らず、グレッグの態度に薄ら寒いモノを感じた。12歳の男の子には見えない凶悪な笑み。それをこちらへ向けたままグレッグは俺に近づいてくる。グレッグの様子は何処かおかしかった。
「何をしているんだ!君達!」
突然、ギャラリーの奥から生徒達を抜けて、本物の先生が飛び出て来た。
「ポール先生!」
普段は目を細めてニコニコしているポール先生だが、今は目を大きく見開き、誰も見たことのないような怒りの表情を見せる。
「こんなところで、大暴れしていいと思っているのか!?」
ポール先生は大声を上げると、大鬼に向かって手を向ける。すると、大鬼の右足から上半身にかけて亀裂が入ったかと思うと、ゴーレムの身体が突如として爆ぜた。
「グレッグ君、君もこの間話した通り、しっかりとしてくれないと駄目じゃないか。」
「は、はい……!」
先生の目は完全に据わっている。普段から優しい人がキレると怖いっていうのを目の当たりにした気がする。なんて、悠長なことを思っているとこちらにも顔を向けて一言伝えた。
「ピーター君、この件は学長に自分で学長に伝えられるよね?」
「えっと、僕は……。」
「私はグレッグ君に説教しなくちゃならない。君が先生であるなら、自分の不始末は自分で報告しなきゃね。」
ポール先生はそういうと、地べたにへたり込んでいたグレッグの片腕を掴んで、彼の身体を背負い、足をずるずると引きずるようにしてその場を離れていく。
<<強烈じゃったのう……。>>
ポール先生の戦闘記録は組織の連中に見せてもらったけど、あんな風に接近戦をした形跡は無かった筈だ。飽くまで、補助や遠距離からの攻撃を担う、後衛タイプだと思い込んでいた。
やはり、優しい人が怒ると怖いのだ。
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―――ヴァルキュリア上空
「ふぁ〜ねみぃなあ〜。今日も変わったことが無いんだし帰るかぁ〜。」
雲一つない晴天。真夏の太陽がじりじりとヴァルキュリアを照らし、クリスタルがそれを返すかのように煌めく。そのクリスタルのてっぺんよりもはるか上空を一匹の大鷲が飛んでいた。
気怠そうに愚痴をこぼす怪人の名はクロワシ。ガマグチを筆頭とする情報軍の一員である。そして、その背中にはもう一人。
「オラぁ!そんなこと言ってねぇで!しっかりと旋回しろぉ!俺の高解像度カメラが何かとらえるかもしれねぇだろ!」
大柄なクロワシに対し彼の背に乗っている怪人は、全長50センチも満たない。細い針金を組み合わせたような体の中心には大きなレンズが一つ付いており、クロワシの上で地団太を踏んでいた。
「ちょっと〜。僕の背中で暴れないで下さいよぉ〜。さっきからカメラニアスさんの身体がちくちくして痛いんですからぁ〜。」
「うっせー!もっと近づけ!俺にスクープを撮らせやがれ!」
「そんじゃあ、もう少し高度を下げて旋回しますよぉ〜。あ、仰向けの方がもしかしていいのかぁ〜?」
「うん?」
クロワシは錐揉みになり旋回しつつ、自身の高度を下げていった。
「おぉ!!分かっているじゃねぇか!そうこなくちゃなぁ!」
カメラニアス。彼は組織内でクレージーな荒くれ者が集まっていると評判の機甲軍に所属している。しかし、今は、臨時でガマグチ達と共にヴァルキュリア周辺の情報収集の任についていた。
組織を脅かすような事態が発生していないかどうか。具体的にはピーターやミーナのことを探っていたり、害を為そうとする者の存在を事前に把握することが目的だ。王国、帝国、そして、魔王軍の怪しい動きが無いかどうか。彼らは毎日、朝・昼・夜の3回を定時で哨戒飛行をしていた。
元々、ヴァルキュリア周辺の情報収集はガマグチ、ラットハット、クロワシの3人で行っていた。けれども、先日開かれた報告会でその情報収集及びその処理能力が買われ、カメラニアスは情報軍へ一時的に人事異動となったのだ。
クロワシがジェットコースターのような動きを突然しても、カメラニアスはどんと来いの態度をとった。何度も彼の背から落ちそうになるが、彼はその状況を楽しんでいた。荒くれ者ばかりが集まる機甲軍は危険と隣り合わせの行為を好むイカれた野郎ばかりだった。
カメラニアスはカシャカシャと自慢のカメラでシャッターを切り続ける。
「ん〜?おいおい、ありゃあ……?」
「どぉしましたぁ〜?なんか、お宝でもありましたぁ〜?」
間の抜けた喋りに対し、カメラニアスはクツクツと笑い出した。
「あぁ……大スクープよ!こりゃあ特ダネだぜ!」
カメラニアスは自身の身体の一部を大型のカメラに作り変える。そして、身体のあちこちにレンズが浮かび上がり、それらは全てヴァルキュリア城内の一点に向けられた。
「女の子の着替えでも覗いてるんすかぁ〜?」
「馬鹿言え、そんなの見ても何も面白くはねぇ!」
「じゃあ、何見てるんすかぁ〜?」
カメラニアスのレンズには二人の姿が映る。短髪で白髪の腕まくりをした人間、そして、尻尾を生やし、ベレー帽を着けた魔族の女性。彼らは木陰で何かを話し合っていた。
「おうおう、俺の力を舐めるなよぉ? 俺のプログラムが自動でお前らの会話を読唇してやるぜ!」
「なに、なに……?け・い・か・く・は・ま・だ・じ・ゅ・ん・び……だ?」
「もうちょっと纏まってから話してくれませんかぁ〜?」
「分かった!ちょっと待て!」
カメラニアスは様子を見続ける。
「……お前が仲間になってくれて良かった、ブライ・シルベリオン。」
「わ〜お。面白そうな会話っすねぇ〜。」
「ああっ!行っちまった!」
ヴァルキュリアのトップと魔族の接触。これが意味するのは何なのか。
太陽の日差しは変わらず強く照り付けたままだ。
ナターリアが噂の人形遣いの家系出身であることを知ったピーター。
ブライとアイーダとの関係は一体?
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。
※次話投稿は週末休日予定です。




