第25話 自動人形(オートマタ)
夜中に響く足音、その正体とは?
それではどうぞ。
―――夜 ヴァルキュリア校内
焼けつくような暑さが抜けた深夜。蒸れた空気を嫌ってか、町の住民はあまり外には出たがらない。学園の校舎を仄かに照らすクリスタルの光はぼんやりとしていて怪しさを纏っている。
誰もいない筈の校内。3年生の彼女は忘れ物を取りに校舎の中を走っていた。
3年間通って見慣れている筈の校内も、昼間とは異なる独特な雰囲気に彼女は薄気味悪さを感じていた。夜の闇、不快指数の高い空気、怪しく光るクリスタル。その全てが彼女の神経を襲う。誰もいない筈の校舎で、時たまに鳴る物音が恐怖を倍増させた。
普段利用している教室に辿り着いた彼女は急いで目的のノートを探す。額から流れ出る汗をロープの裾で乱暴に拭いながら、机一つ一つを見て回る。
「あった!」
彼女は大きな声で叫ぶ。誰もいない校舎に彼女の声が反響する。彼女はノートを見つけた喜びも束の間、予想外に木霊する自分の声に驚きすぐさま口に手を当てた。目線だけ廊下に通じる教室の入り口へ向ける。
誰もいない。いる筈が無い。
「良かった〜。これで明日の授業の課題提出なんとかなるよ〜。」
彼女はゆっくりと教室の戸を閉め、廊下を歩き始める。ノートを取る前は、誰もいない夜の校舎に対する怖さと不気味さが募るあまり、周囲を落ち着いて観察する余裕など無かった。
けれども、帰りの今になって、落ち着いて窓に写る景色を見ることができた。夜空を覆い尽くす満天の星々の光。クリスタルの放つ淡い輝き。その神秘的な光景に目を奪われる。
―――ガシャン!!
突然、彼女の背後で大きな物音がした。今までと違って朧げなものではない。
行きの時は、小石の転がる音や、風のざわめき、虫の音などにまで神経が過敏に働き何かいるのではと恐怖が掻き立てられていた。
しかし、先ほどの音は恐怖から来る幻聴などでは無い。自分の立つ廊下の先で金属質な何かが床にぶつかった。
自分以外の何者かがいる、そんな事を感じさせるには、あまりにも明確すぎる音だった。
「何か、が、倒れただけだよね。」
彼女は自分のノートを握りしめる。誰もいない筈だ。居てはいけないんだ。じゃあ、居るのは誰?
彼女の頭は高速に回転した。しかし、彼女にできたのは物音がした方の暗闇を見つめることだけだった。
―――カチャ、カチャ、カチャ……
何かが近づいてくる。金属が擦れあうような音が一定のリズムを刻んでいる。そして、その音は着実に大きくなっていた。
私の方へ何かが向かって来ている。そう思った瞬間、彼女は動けなくなった。恐怖のあまり言葉を発する事さえままならない。彼女の瞳孔は開きつつあった。
やがて暗闇から何かが出てくる。
心臓の鼓動の高鳴りが頂点に達する。
彼女の眼前に現れたのは……。
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―――昼間 ヴァルキュリア学園 大講義室
今日も強い日差しが俺達を照り付ける。……といっても、講義室内は空調が効いていて快適だ。太陽の日を反射したクリスタルの光を室内の照明に取り入れたこの大講義室はとても居心地の良い空間だ。俺は3年生の授業に交じって、土魔法の勉強をしていた。
「……であるからして、土魔法は地味だなんだと揶揄されることも多いですが、土木や建物の工事など力仕事を軽減するのに役立っています。それに、単に土だけではなく、これは別系統扱いされる事も多いようですが、樹木や金属を扱うことだってできます。」
「先生、それでも地味は地味じゃないですか?」
「おほん、確かに4大魔法と称される他の火、水、風に比べ、土魔法が相手への攻撃という意味で目立たないことは事実でしょう。しかし、土魔法は他の魔法に比べ物質としての固定率が高い。少し難しい言い方でしたね。要はマナが形として後に残るのに最適な魔法なんです。」
「先生、あんまり魅力的に感じないよ?」
からかわれる先生に不憫さを感じざるを得ない。俺も授業であんな風に言われ続けたらへこむわ。
しかし、この流れも予想していたのか、薄くなった頭をたたくドワーフの老先生は溜息をつきながらも、やれやれとでも言うかのように、両手を挙げて首を振る。
「それではこちらをご覧いただけますかな?」
老先生が示したのは土魔法用の土壌である。生徒が教室内で土魔法を使うのに使われている区画だ。皆の目線が向いたのを確認した先生は魔法を唱える。
「それでは行きますぞ。」
「マナよ。土より産まれし我が僕を目覚めさせよ。<<メイク・ゴーレム>>!」
先生が呪文を唱えると、土からにょきにょきと何か生えてきた。どうやら土人形のようだ。かなり精巧な見た目をしている。生徒の中からもどよめきが上がった。最終的に先生の背丈の4倍くらいの大きさにまでなっただろうか、およそ2メートル近くの巨体を持つ騎士の土人形が登場した。
「このように生産系の魔法として、術者の芸術センスが有れば立派な嗜好品をあっという間に作り出すことも可能なのです。」
「でも、先生これって土人形でしょ?」
「まだまだ、土魔法の極意をお見せしますから、暫しお待ちを。」
先生がそう言うと、土でできていた人形の色が変わり始めた。手足から変色していき、やがて胴体、そして顔まで達すると、土でできていたのが嘘のように、金属質な艶のある鎧兜に変化した。
「これで終わりではありません。行きますよ。ゴホン……我が命に従い、歩けゴーレム。」
土壌の区画からゆっくりと歩き出した西洋鎧は、自身の半分以下の背丈しかないドワーフの老先生の目の前に立つと、片膝を残し忠義の姿勢を取った。
皆、静まり返る。
「どうですかな?」
毎年、こうやって生徒を驚かしているのだろうか、ドヤ顔というか、決め顔をして老先生は俺達に語り掛けた。
「「「「「すげー!!」」」」」
俺自身、周りの生徒と一緒になって興奮の末、騒ぎ立てた。実はこうしたゴーレムの存在は知っていたものの、まさか人の手で、しかも魔法を使って、一発で産み出せるものだなんて全く知らなかったのだ。
「という訳で、土魔法は他の魔法に比べ見劣りするものではない。木魔法や金属魔法も元を正せば、土魔法なのです。そして自身の産み出した作品を操り、魂の器とする。見方によっては、土魔法は他の魔法に比べ、最も奥の深い魔法と言えるかもしれません。」
「先生、これってどうやって作ったんですか!?」
先ほどから何度も質問して老先生をからかっていた生徒も、今は声色が変わって本気で聞いてきているのが分かる。
「宜しい。ゴーレムについて解説しましょう。」
先生の話しを纏めると、ゴーレムとは無生物に魔法核を与え、術者の命令を聞かせるようにした使い魔の事を指すらしい。無生物なら何でもありだが、一般的に土魔法で産み出した土人形を動かせるようにしたものが多いとのことだった。
「しかし、例外もあります。えー確か、今年の新入生にその名家出身の子がいたかと思いますが……?」
だから、新入生だからって俺な訳ないじゃん。一斉にこちらを顔を向けるの止めようよ。それに心当たりなんぞないから。俺は首を横に振り、知らないアピールをする。
「確か、ピーター君は関係ありませんでしたな。え―と……名前は忘れてしまいましたが、確かその子は人形遣いの家系であったと思います。」
「人形遣いはゴーレム使いの一種ですが、彼らは魔法核に対する造詣が非常に深い。そして、ゴーレムとする対象が自身の魔法で作った土人形等では無く、他者が丹精込めて作った人形に限られます。」
「今のところ、術者である本人の才覚に依るのですが、高位の人形遣いになれば、単に命令を聞くゴーレムだけでなく、自律した思考のできる自動人形を産み出せると聞きます。」
俺は身体の奥底から震えが生じる。
<<お主、大丈夫か?>>
クリエが心配そうに念話を送ってきた。
あぁ、大丈夫だ。むしろ、気分は高揚しているぜ。
<<何?>>
子供の頃から「居てくれたらいいなぁ」と思ってきたロボットの友達。それが出来るかもしれないんだからな!!
アンドロイド!ロボット!最高のバディ!それは男の子のロマン!
こんな事実を知ったんだ。早速、家に帰って皆に相談して、ロボットを作るぞ!
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―――夜 学生街内 ピーター達の家
「却下します。」
「えー何で!?」
俺は先に帰っていたミーナへ事情を説明し、改めてクリエによるアンドロイド作成のお願いをする。
「どうもこうも無いでしょ!? 組織にはピーターの話しと似たような訳のわからない、機械の連中が結構いるじゃない。」
「いや、アイツらは確かに機械だけどちょっと違うっていうか……。」
ミーナの言う通り、アイアン・ハンターだとか、ウィリー・マッハだとかロボット型の怪人は結構いる。けれども、俺の求めているのは、そういう厳つい奴らじゃないんだよ。俺は側に付き添ってくれるそういうバディ的なのに居て欲しいんだよ!
「まあ、あの連中はどっかネジが外れたような連中ばかりじゃからのう。」
「第一、そんなもの作らんで良いではないか。」
「ん?」
「主殿には妾という『ばでぃ』的な存在が居るであろう?」
ほれほれ〜と念話を送ってくるクリエにイライラとしつつも、俺はミーナに改めてお願いした。
「ミーナちゃんさ、要は表社会でも活躍できる容姿をした自動人形が欲しいんだよ。」
「ふーん。」
「もしそういう自動人形が出来た暁には家事、掃除、洗濯全てをそいつに頼めるんだよ?」
「だからこれ?」
ミーナの手元には俺の提案書が握られていた。普段の性格は温厚で、我儘一つ言わず、粛々と家事手伝いをこなし、時には戦闘にも参加する、女性の容姿をした人間型メイドロボットの提案だ。
「いやらしいこと考えているんじゃないの?なんだか、これ気持ち悪いのよね。」
「そんな〜。」
「諦めよ。主殿がいくら願ったところで妾が居るうちは必要ないのじゃ。」
「じゃあ、お前の身体でいいよ。メイド用の身体に作り変えるから。」
その時。玄関の戸が開く。俺の最後の言葉を曲解したのか、引き攣った顔をしたエレナがそこに立っていた。
<<メイドかぁ……。>>
……
「先ほどはびっくりしましたよ。扉を開けたらピーターさんがミーナさんに向かって、とんでもなくハレンチな事言っているんですもの。」
「ピーターの妄想に付き合うときりがないわ。」
どうにか、エレナの誤解も解け、俺達は夕食の準備に取り掛かっていた。
「それにしても、自動人形ですか?」
「そうなのよ、ピーターがどうしても作りたいって煩くて。」
「いいじゃないか、一家に一台メイドの自動人形って魔道具としても有用だと思うんだけどなぁ。」
「自動人形……、里で聞いたんですけど、あまりいいもんじゃないそうですよ。」
「そうなの?」
「ゴーレムとかって、魔法核によって動くのはご存知ですか?」
「今日の授業で聞いたよ。それを無生物に刻み込むことで動かせるようにしているって。」
「えぇ、魔法核にするものは様々です。低級なゴーレムであれば、魔法陣を刻み込むだけのモノも多いですが、複雑な動きが求められる高位のゴーレムになればなるほど、魔法核として要求されるモノを変わっていきます。」
「自律した思考をもつようにする為には、魔法核にもそれ相応のモノを組み込まなければいけない筈です。」
「私が聞いた自動人形の話しでは、魔物の脳がそのまま組み込まれ、暴走して研究所のあちこちを破壊したとか。」
「ほら見なさいよ。自動人形なんて碌でもない代物なのよ。」
「でも、俺の考えた奴はだなぁ……」
「ピーターさんはどんなのを考えているんですか?」
俺の方を向いてニコニコと尋ねてくるエレナはやっぱり可愛い。小動物系である。
「これよ、これ。なんか気持ち悪くない?」
ミーナがエレナに俺の書いた提案書を手渡す。
「……。」
「どう?一家に一台欲しいでしょ?」
じっと眺めていたエレナが恐る恐る尋ねる。
「うーん、なんで女性型なんですか?別に人形なので性別は関係ないような……。」
「それは男のロマンだ!」
「ちょっと無いですかね……。」
<<馬鹿じゃ。馬鹿が居るぞ。>>
何故だ!男なら誰だって、女性型メイドロボットに身の回りの世話をこなして欲しいと願うものなのだぞ。
「女性型のメイドロボットが欲しいよぉー!!」
その夜、ヴァルキュリアに一人鳴く男の遠吠えが聞こえたとか、聞こえないとか。
ピーター君の人形作りは願い叶うのでしょうか?
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。
※次話は週末の休日となります。
2015/08/09 整合性取るため、下記改訂しました。
「・・・そして、ゴーレムとする対象が魔法で作られた土人形等では無く、人の手により丹精込めて作られた人形に限られます。」
↓
「・・・そして、ゴーレムとする対象が自身の魔法で作った土人形等では無く、他者が丹精込めて作った人形に限られます。」




