第23話 彼女の願い
とある少女の願い。
それではどうぞ。
※本話は第2章と第3章の間の閑話となります。
私は貴族の家の一人娘として産まれた。兄弟はいない。
両親は育児を全て家の侍女達に任せっきりだった。私には碌に声すらかけてくれない。
私の面倒を見てくれる侍女達もずっと同じではなく、目まぐるしく入れ代わった。
ただ一人、面倒を見てくれた者が居たような気もするが、その記憶は曖昧で不確かなものだった。
物心つく前の混濁とした経験が、そういう錯覚を産んだのだろう。
父や母と遊んだことは無かった。
両親の仲は貴族社会においてありがちなものだ。
社交場では仲睦まじい夫婦を演じ、家の中では事務的な会話しかない。互いを利用しあうだけの関係。
貴族が恋愛の末の結婚することなど稀だった。
互いの家の結び付きが深まるように。国内政治で発言力が増すように。
父は出世の為に。母は自分の産まれよりも良い家へ嫁ぐ為に。
そこに愛は無い。当然、娘の私にも愛情が注がれることは無かった。
家を継ぐ道具。彼らの認識はそんなものだったのだろう。
但し、その道具としても私は不完全だった。女であるが故、外に出ていくことも視野に入れなければいけない。
使い勝手の悪い道具。道具にだって愛着が湧くこともあるだろう。けれど、使わない道具に愛着を抱くことはない。
私は孤独だった。
使用人がたくさんいるにも拘らず、大きな家の中に一人きり。
誰かに相手をしてもらいたい。その一心で気を引く為、家の中の物を壊す悪戯をした。
けれど、そんな私に待っていたのは、親の叱咤でも暖かな抱擁でも無かった。使用人から送られる冷たい目線と教育係の侍女から受ける折檻。
ずっと私は寂しかった。
だから、私はその寂しさを紛らわすように、人形遊びに時間を費やした。
人形は私の思い通りに動いてくれる。ずっと一緒に居てくれる。
侍女達は人形に話しかけ続ける私を見て薄気味悪く思ったのだろう。用事が無ければ誰も近づかなくなった。
その為、私が魔法を使って人形を操っている事に気付く者はいなかった。
当時、そんなことどうしてできるのか私には分からなかった。女であるからと魔法は不要と、魔法教育をあまり受けなかった私にはマナの詳しい知識もなく、その力の使い方も知らなかった。
しかし、「誰かに相手にしてもらいたい」という願望が、私の血に眠る特別な力を呼び覚ました。
あれは5歳の頃、夏の初めだったか。
私はいつものように外で人形を使ってままごとをしていた。数体の人形に踊って貰っていると、普段は誰も寄り添ってこないはずなのに、一人の女性が立っているのに気が付いた。
「お姉ちゃんお洋服どうしたの?」
彼女は何も身に着けていなかった。彼女が言うに衣類は不要らしい。そして、尋ねた。
「お姉ちゃんは誰なの?」
「ワタシは……」
その時の光景は今も忘れない。夏の日差しを背に彼女の影が私を包む。
その瞬間、私の時は進みだした。
彼女との出会い。あの太陽が眩しい夏の日の出会いが無ければ、私は家の中に閉じ込められ灰色の一生を過ごしていたことだろう。
才能は埋もれたまま。永遠に一人ぼっち。
この身体に流れる血は特別だ。
数代に渡って発現しなかった能力が女である私に目覚めた。
彼女から、その力を両親の前で見せて伝えなさいと言われた。
私は彼女の言う通り、その日の午後、会議中だった父の下へ家臣の制止も聞かず、駆け寄って人形を動かしてみせた。
また、社交場へ出かける支度をしていた母の前で、人形と一緒にダンスを披露した。
皆、その姿を見て驚嘆し、「初代の再来だ!」と騒ぎたてた。
こうして私の魔法が知れ渡ると、両親や使用人の私に対する態度は一変する。
急遽、当主としての英才教育が始まり、家臣となることを見越して同世代の子供が遊び相手にあてがわれた。
今まで不気味がっていた侍女たちは、掌を返すように、機嫌を損ねないよう私の顔色を伺うようになった。
自分の言う事をなんでも聞く。そんな侍女たちのことを、私はまるで人形のようだと思った。今までの反動からか、私は彼らに無茶難題を課して、慌てふためく態度を楽しんだ。
「今日は暑いわね。庭に雪を降らせましょう。」
「ヒッ!?お、お嬢様、まだ秋にもなっていません。そんなのどうやって?」
「あら知らないの?魔法を使えば、そんな事容易いのよ。」
「すみません。私達に天候を操れる程の魔法を扱える者は……。」
「平民の分際で何を言うのかしら?それならば、扱える人を連れて来ればいいじゃない。」
「も、申し訳ありません!!ですが、そんな方を私達では……。」
「話しにならないわね。フランシーヌ?」
私はままごと用の人形にナイフを持たせ、口の利き方のなっていない侍女をしつけしようとする。けれども、それは後ろから現れた一人のメイドに握りつぶされた。
「いい加減にしましょう。お嬢サマ。」
あの時出会った彼女だった。侍女達と同じ格好をしていた。
翡翠の色をした瞳に、黄金の艶やかな長髪。一点の汚れも見当たらない真っ白な肌。言葉を口にするにも微動だにしない表情。頭を垂れたその姿は優雅で美しく、初めて出会った時とは大違いだった。
「あなたは……一体、何なのよ?この屋敷を出たんじゃなかったの?」
「ワタシは……お嬢様専属のメイドでございマス。」
「そんなの聞いていないわ。」
「今、初めてお伝えしましタので。」
「なっ、侍女の癖に!?」
「今後、何卒よろしくお願いいたしマス。」
魔法が判明して、私は久々に他人から諌められた。人のことを皆人形と考え出していた私は彼女に反発した。
時に人形達を使って彼女を襲わせたりした。けれども、それは悉く失敗し都度彼女に叱られた。彼女は私よりも強い筈なのに、前みたく折檻を施さなかった。
私は叱られているはずなのに、辛いどころか不思議と楽しかった。こうして、いつも曇天だった私の見る景色は鮮やかに、そして輝きだした。
こんな生活がずっと続けばいいのに。
私は天を駆ける流れ星に向かって願いを捧げる。
……
アシュフォード家の始祖は嘗て帝国との戦争で功績を上げ、貴族入りを果たした軍人だった。
固有魔法<<ギフテッドスピリット>>。
魂の無い人形へ生を与える魔法。
彼はそれを使って人形の軍団を産み出し、帝国に劣る自国の戦力をそれで補った。
500対2000。戦力比3倍以上ある戦場で、彼は敵を上回る程の人形を操り自軍を勝利に導いたこともあった。
一人で数多の人形を操る様は、まさに一国の将を思わせる。
初代当主、伝説の人形遣い、ブリキン・アシュフォード。
敵味方問わず、彼は畏怖と敬意を以てこう呼ばれた。
破軍の傀儡大公と。
本話はナターリアの話しでした。
次話から第3章「魔法学園:パペットマスター編」始まります。
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。
※次話は週末休日の更新です。




