第22話 魔法学園入学式
学長の言動で振り回される人は多いです。
入学式ではピーター君と……。
それではどうぞ。
―――昼前 ヴァルキュリア学園 大講堂
麗らかな春の陽気も過ぎ去り、青葉が勢いよく育つ今日この頃。天高く聳えるクリスタルに見守れるヴァルキュリアでは、新入生たちが緊張しつつも期待を胸に入学式に参加していた。
「……−ターッ、……ピーターッ!」
「う〜ん?どした?」
「どした……ッじゃないわよ!入学式の最中に寝ちゃ駄目じゃない!」
こうした式典と言うのは、場所が変わろうが、時が移ろうが、世界が異なろうが、一応にして退屈なものである。大体、偉い人が壇上に立ち「学生たるものは〜」とか、「時間を大切に〜」だとか、そういった類の言葉が連なるだけ。学ぶのが魔法であっても似た話である。ミーナにとってはいい人生経験になるだろう。眠くなって当然だ。
しかも、壇上にしか照明が当てられていないので、大講堂に集まっている新入生や、その関係者が座る席は基本的に暗い。つまり、眠くなって当然な訳だ。
1000人以上の人間が一堂に会するっていうのも凄い話だよなぁ。ここまで多くの人が一堂に会する様を見たのは、帝国の進軍以来だ。この世界に来てからだと、こういう大規模な集まりは初めてである。
「……それでは、皆さん。この5年間を有意義に過ごせるよう、楽しみながら勉学に励んでください。」
学生代表のスピーチが終わったようだ。ここからではよく顔が見えない……と思ったら、モニターらしきものが浮かんでいる。
顔をよく見れば、俺を誘導してくれた黒髪ロングストレートの女学生だったようだ。
彼女は凛としていて、品格が身に染み込んでいるようだった。もしも顔立ちが黄色人種であれば、何処の大和撫子だよと思わず突っ込んでしまっていただろう。
そういう感じの人だ。
女学生と入れ替わるように学長が前に出てきた。式典にもかかわらず、いつものように腕まくりをして目を光らせている。筋トレでもしてきたのだろうか?額に付いた汗を壇上に置いてあったタオルで拭っていた。
「あれが例の学長?なんか見た目が怖いわね。」
俺は授業の打ち合わせに、実技試験の後も何度か会って話した事が有る。第一印象は破天荒な人だが、付き合ってみると意外に思慮深く、情に厚い爺さんだった。
「しっかし、熱いなぁ。おめえ達どうだい、暑さにやられてねぇか?」
新入生の反応は概ね良好だった。学長のおどけた発言で新入生たちの間に軽い笑いが起こる。但し、一部の学生は困惑か侮蔑の表情を浮かべていたが。学長は彼らの反応を別段気にする様子も無く、片手で魔法を発動させ自分に風を当てる。
「ふぅー、涼しいぜ。ほら、お前らもどうだ?」
壇上の机を掴んでいた右手を新入生に向け、魔法を発動させる学長。これは……。
「どうだ?涼しいか?」
ニコニコと満面の笑みを浮かべる学長。普段を考えると、あまり似つかわしくない表情である。何かあるのか?学長は自分に当てていた左手をおろし、右手だけこちらへ向けている。
「涼しくない奴いたら、手を上げろ〜。俺が風を送ってやるから。」
新入生の緊張も大分ほぐれたようで、キョロキョロと手を挙げる者がいるか確認しあった。この1000人をこえるであろう大人数で手を挙げる勇者を探しているのだ。しかし、誰も手を挙げようとしない。
「あ〜良かった。今年も上手くコントロールできたぜ。全員の顔だけに当てるのは骨なんだよ。」
辺りが静まり返る。
「いいか、これが魔法だ。よく覚えておけよ。」
目を細め新入生をじっと観察してくる。もしや、と思ったその時、俺の顔が学長の視線に入った瞬間。学長は顔をニヤッとさせた。
あ、これヤバいぞ。
「おー、そこに居たかぁ。後方から見て10列目位にいる奴、さっき目があっただろ。お前だ、お前。」
一応、俺じゃないですアピールと最後の足掻きで周りをキョロキョロと見回す。ミーナは勘付いているようで、じっと俺を見ていたが、周りも気が気ではない。
何をやらせるのか焦っていて、俺の左隣りに座っている人間族も……って、どっかで見たことあるぞ。
「もしかして、僕?いやまさか?でも、有り得なくもない話で……。」
思い出した、こいつ筆記試験の奴だ!無事受かって良かったなぁ。
<<いつまで粘るつもりじゃ。潔く立たんか。>>
クリエに促され、ゆっくりと立ち上がる。すると周りに居た新入生の視線が一挙に集まった。
「ちょっと、こっち来い。」
内心、「嘘だろ……」と思いながら、生徒の間を潜り抜け、壇上まで続く一本道を歩く。こんな式典で目立つ予定なんて一切なかったのに。そう思いながら、壇上の手前まで歩きそこで立ち止まった。
「もっと近くだ。」
渋々、階段を上り壇上の机の前まで歩いた。
「よし、顔を他の奴らに見せろ。」
「はぁ。」
「お前ら、こいつの顔をよく覚えとけ。これが新入生主席の顔だ。」
「!?」
やってくれると思ったが、いきなりかよ!ていうか、そもそも主席だったの!?初めて聞かされる情報にとまどっていると、学長は追い打ちをかけるように言葉をつづける。
「俺は新入生のデータと所見は一通りチェックしている。ここに学長と赴任して以来、新入生としちゃあこいつは一番の出来よぉ。」
新入生のざわめきが半端なく大きなっている。ある者は賞賛の目を。ある者は訝し気な目を。ある者は嫉妬の目を。あぁ、ナターリア達も見つけてしまった。奴ら、口を開けて呆然としている。
「こいつはお前らの中で抜きん出過ぎているもんだから、こいつ専用のカリキュラムを作成した。」
もはや、どこのコンサートのライブ会場だといった具合だ。果たして収集がつくのか?
「お前らには分かってもらいたいことがある。こいつにはそれなりの夢と才能があった。だから、俺が目をかけてやった。けれど、それを見て、嫉妬したり、自分を僻むんだりはするなよ。何故なら、それは今の段階の話しだからだ。もしも、この坊主が一瞬でも手を抜けば直ぐ凡人に転がり落ちていくだろう。」
「ここで、こいつと一緒に入学するお前らに言いたい。」
「同級の中でなら、まずこいつを目指せ。どうやったら、こいつと同じような評価を得られるか考えろ。こいつの顔は覚えたな?話す機会が有ればチャンスだ。魔法を教えてもらおうと友達になろうと接近するもよし。こいつの行く末に賭けて、寵愛を乞おうと色仕掛けするもよし。はたまた、気に食わないと思ったら打ち負かそうと決闘を申し込むもよし。」
「いいか、俺は下らねぇ行儀作法は知らんし、教える気もない。そういうのを学びたければ、他を当たってくれ。ただし、魔法を学びにここへ来たのなら、俺の言う事に一目置くのも有りだ。ということで、以上。」
学長は言いたいことを言い終えたのか、俺を置いてそのまま立ち去ろうとした。しかし、俺の方を見て何か企んだのか、一瞬口角を吊り上げ、再度壇上の机に向かう。
「そうだ、忘れていた。最後に新入生代表、ピーター……、あーなんだっけ?」
俺の方に顔を向ける学長。
「クロイツェフです。」
「そうそう、そいつが主席として物申すそうだ。あと、こいつの力量を示す為、デモンストレーションの一環で俺が先に見せた水と風の混合魔法をやるから。俺は用事があるんでここで失礼する。」
そういうと、学長は壇上からすたすたと離れていった。余りの出来事に、俺は唖然とする。そして、新入生の方を見ると、皆一様に真剣な表情で俺を見ている。あんな言い方していくのだ。皆もこの男は一体何を話すのか興味があったのだ。
<<あの爺、マナの量が半端無いのぅ。それにマナの動きに迷いが無かった。皆一直線に魔法を解き放ちよったぞ。>>
<<しかも、生徒の至近距離で風を起こしよった。そんな器用な技出来る奴、妾をもってしても初めてじゃ。>>
(どうしたらいいんだ。見様見真似であんな高度な技出来ないよ!)
<<最悪、妾を頼れ。あんな風に魔導を究めるなどエルフでも100年はかかるわい。>>
(分かった。取り合えず、話しをして逃げるよ。)
俺は壇上の机に立ち、机を握りしめる。そうしないと足元が覚束なかった。
「えーと、皆さん。こんにちわ。私はピーター・クロイツェフです。」
「……。」
無音である。何の反応も得られない。やばい、吐きそう。
「で、では。先ほどと同じ魔法を披露したいと思います。」
<<お主、話が変わっとるぞ!?>>
クリエが何か言っているが、もはやまともに耳に入ってこない。俺はテンパっている。その自覚だけあるものの、始めてしまっては、引っ込みがつかない。
取り敢えず、落ち着け。深呼吸だ。吸ってー、吐いてー。オエ、マジで吐きそう。
半分冗談、半分本気だ。俺に同じ魔法が出来る訳がない。落ち着こう。
「えーと、すみません。やっぱり先の言葉撤回します。俺は確かに学長に認めてもらいました。けれど、あんな風に魔法をコントロールする術を持っていません。」
俺が話すと、大分皆の顔を和らいだようで、少し雑談も始まったようだ。これ位がちょうどいい。よし、肩の力が大分抜けてきたぞ。
「確かに人よりも少しだけ多くのマナを持っています。けれど、所詮それ位しか違いが無く、皆と大した差はありません。私は凡人です。学長は目をかけてくれているのも事実です。だから、なんで俺なんかにそこまでしてくれるのか、正直分かりません。」
新入生のガヤが大きくなる。俺だって、なんで学長に良くしてもらっているのか分からないんだって。
「俺は学長と同じやり方で、この場の熱を取ることはできません。一応、水と風の魔法と言う事なので……。」
そういうと、天井付近に氷でできた3枚羽を用意し、軸に固定する。そして軸の中心を適宜冷気を送りながら、モーターのように軸を回転させていった。ちなみに首が回るタイプを想定している。
途中で不要な風は魔法で遮り、皆の頭上に風を行き渡らせる。生徒が不思議そうに上を眺めているのを見て、ぼちぼち成功なんだと思うと少し安心した。
「とまぁ、こんなこと位しかできません。以上です。」
まぁ、あの氷の扇風機は残しておいてやろう。きっと思い付きだったのだろう。少しぐらい意地悪してやりたい。そんな気持ちで俺は自分の席まで戻っていく。
あの後、学長と会うこともなく、不満の一つも言う事が出来なかった。ちなみに、学長のスピーチは効果覿面だったようで、色んな奴らから声を掛けられた。
獣人や魔族の奴らとも初めて話せたし、悪い事ばかりでは無かったな。後、隣にいた奴はフランクっていう名前だそうで、「仲良くやろうぜ」って声を掛けてきた。
現金な感じにイラッとしたので試験の事を伝えたら、赤面して「忘れてくれッ」って頼み込んでくる。なかなか面白い奴。そう思って、握手をしてやっといた。まぁ、付き合いというのはまだ始まったばかりだ。ミーナはよく分からないって顔していたけど、「来るものは拒まず、去る者は追わず」精神でいこうじゃないか。
こうして、突発的なアクシデントはあったもの、俺達の入学式は無事終わった。
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―――ヴァルキュリア学園 地下
薄暗い地下牢にピタピタと水滴が垂れる。寝ていたアイーダの頬に滴が辺り、そのまま零れ落ちていく。
「うっ、……ここは?」
「そうだ!あの時、私は水槽を見ていて、急に後ろから強力な魔法を当てられて……!?」
身体を起こし周りの状況を把握する。薄暗い部屋には簡易なベッドとトイレしかなく、鉄格子で閉じ込められてしまっているようだ。
「このっ!!」
私は力づくで鉄格子を外そうとするも、全く動じる気配は無い。特殊な金属か、はたまた、魔法がかかっているのだろう。
「ということは、魔法を当てても駄目か……。」
カツンカツン。
鉄格子の向こうから足音がしてきた。アイーダは臨戦態勢を取り無詠唱魔法を使う。けれども、魔法が発動する気配はない。どういう仕掛けだ?
アイーダの額に汗が滴る。未だ敵の正体は見ぬままだ。彼女は魔族である力を持ってして、マナを観察する。その時、アイーダの目が見開いた。まさか!?
「何故、お前がこんなとこに居る!?」
「そんな慌てなさんな、掃除婦の嬢ちゃん。いや、諜報の嬢ちゃん。」
「あの水槽の中身は貴方にとって最も大事なもんだろうが!」
「魔族、人族関係ない!あれは、お前の……。」
「静かにしろ!」
「ッ!……お前は何を企んでいる? ブライ・シルベリオン!!」
アイーダの目の前には不敵な笑みを浮かべた学長が立っていた。風に煽られ、松明の火が揺らめくと同時に、彼の影も大きく揺れる。
「そうだなぁ、俺はぶっ壊したいだけなんだよ。なぁ、嬢ちゃん。」
普段の明るい学長とは思えない。学長は冷たい目つきでアイーダを見下ろすのだった。
アイーダの前に現れた学長。
ヴァルキュリアに蠢く闇と彼に一体どんな関係が?
※本話にて第2章魔法学園入学編終了です。
※次話は翌週となります。
※拙い文章ですが、引き続きお読みいただけると幸いです。




